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第六話 三幹部会議

 ディン視点


 ユートたちがダンジョンを攻略しているころ――


「これより、三幹部会議を始める」


 俺の言葉で三ヶ月ぶりの会議が始まった。

 ここはトリスの森にある隠れ家だ。ここには俺が忠誠を誓っている組織、神の涙の最高幹部三名が集まっている。通信石を使わないのは王国や帝国の犬どもに傍受されるのを防ぐ為だ。


「今回の議題は確か我等が神に捧げる人の生命力と魔力についてだったっけ?あとどれくらいで足りるの?」


 銀髪に深紅の眼を持つ二十代半ばほどに見える男は最高幹部の一人。名前はシャオニン。本部から強硬派と呼ばれている派閥のトップでもある。子供っぽい所があり、()()強硬派のトップには見えないが、こいつの性格は目的の為なら躊躇なく一般市民や同胞までもを殺す残忍な性格。

 そのような性格だと同胞から恨まれないかと思ったこともあるのだが、こいつは仕事なら他の誰よりも速く、そして多くこなすので、こいつの実績は派閥の中で一番。つまり給料が一番多いのである。

 それに、こいつ自身の戦闘力も組織内では我等が神に続いて二番目に強い。その為、たとえ恨まれようがそれを口に出したり、ましては行動に移せるやつなんて誰もいない。


「ああ、生命力、魔力ともに九十八パーセントは終わっている。ティリアンに保管してあるやつを使えばかなり進むが、それでも四ヶ月はかかると思う。王国や帝国でも動きがあるみたいだしペースを上げた方がいいな」


「分かった。こっちでもよさそうな供物があったらどんどん捕獲してそっちに送るから安心して」


 シャオニンはニコやかな笑みで答えた。


(やれやれ……数さえありゃいいってもんじゃないんだけどなぁ……)


 強硬派が集めてくる供物は質より量といった感じだ。ちょっと前なんかは生命力も尽きかけ、魔力も少ない老人をドヤ顔で数百人も送ってきやがった。あの時は海よりも深いため息をついたものだ。まあ、たまに質の良い供物を送ってくることもあるので、結局こいつ派閥が実績一位になるのだ。


「なるほど……計画は順調でなによりだ。ただ、ティリアンには危険度Sの冒険者ユートが向かったという情報をトリスの冒険者ギルドで手に入れた。しかも、そこで本気のカルダンに勝ったそうだ。こんなやつが敵対してるのであれば即座に神影で処理したいところなのだが……」


 黒髪に深紅の眼を持つ二十代半ばほどに見える美女も最高幹部の一人。名前はエレン・ノース。本部のトップであり、神影を使って情報を集め、敵対者は処理する冷静沈着な女だ。



「なるほどね~その子の情報は見たけどそれが本当ならマジでやばいね。確かその子は計画の為に仲間もろとも僕の部下が連れてこうとしたけど返り討ちにあったんだ。で、それに怒ったカルトリ支部の子たちが暗殺を何度も企てたけど結果は惨敗。向こうは何も失っていないのにこっちは僕の派閥では最強格の暗殺者四人と実行部隊五人を失っちゃったんだよね……」


 いつも軽い感じのシャオニンが珍しく落ち込んでいた。


「ああ、実は俺もトリスの森で会って戦ったんだが惨敗したよ。使い捨て転移魔法陣があったからどうにかなったけどあれが無かったらすでにこの場にはいないだろうね…」


 俺はあの時のことを思い出し、視線を下に向けた。


「え、あなた戦ったの?」


「え!?そうなの!?もっと詳しく聞かせてよ!」


 エレンは驚き、シャオニンは人懐っこく聞いてくる。


「ああ、まあ、簡単に説明すると、無詠唱で炎剣(フレアソード)を三個。しかもそれぞれ頭、腹、足を狙って攻撃してきた。足の方は防げなかったが〈水回復(ヒール)〉で回復した。その後、無詠唱で炎剣(フレアソード)を数十個使ってきたから即座に逃げた。といった感じだ」


 説明を聞いた二人は信じられないことを聞いたような顔をしていた。


「え……部下の言ってたこと本当だったんだ……ただの誇張だと思ってた……」


「ええ……私も部下から聞いてたけど半信半疑だったわ……」

 

 信用されない部下を不憫に思ったが、まあ今回ばかりは仕方ないだろう。まさか商会の護衛に世界最高クラスの実力を持つ人間がいるだなんて誰も思わない。


「で、ユートの今後の対応についてだが、俺は放置でいいと思う。別に向こうから俺たちを害してくるわけではないし、これ以上いたずらに損失を増やすわけにもいかないしな」


 俺は反対の案を出した。しかし、


「でもそれじゃあ僕たちが負けを認めることになるじゃん。それじゃあ我等が神に顔向けできない。それに、君は僕より弱いからね。弱者の意見は通らないよ」


 と、シャオニンはニコニコしながらも所々鋭い視線を向けてくる。


(やっぱりシャオニンは反対か……)


 ただ、俺がこいつに逆らうことは出来ない。本部が反対すれば多数決で中止になるのだが――


「ええ、ガキにいいようにされるのは正直言って不快ですね。私もシャオニンの意見に賛成します。というか、よくよく考えてみればあなたは幹部の中では一番弱いですからね。あなたの物差しはあまりあてにならないです」


 どうやら本部もシャオニンの意見に賛成するようだ。これではもう覆しようがない。


「……分かった。ただ、俺の派閥では誰一人としてユートには勝てない。だから実行部隊はそっちから出してくれ」


「分かったわ」


「うん。今回は僕も行くとするよ。一応君を倒したみたいだしね」


 こうして三幹部会議は終わりを迎えた。

 エレンとシャオニンは準備のために拠点へと帰った。

 一方俺は会議室に残った。


「はぁ……ボロボロになって帰ってくるあいつらの顔が目に浮かぶな……」


 俺は深くため息をついた。

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