第五話 フロアボス
「これで四階層も終わりかな?」
目の前にある階段を見て、そう呟いた。
「ああ、そうだな。で、五階層だが、そこにはフロアボスがいるから気を付けてくれ。まあ、あれくらいならユートが瞬殺しそうだけどな」
「ん?フロアボスって?」
「あ、説明してなかったな……五階層の奥には一つの部屋があるんだ。そして、そこには強い魔物がいるんだが、そこを通らないとその先へ進むことは出来ない」
どうやら五階層には一筋縄ではいかない魔物がいるようだ。まあ、今まで倒してきた魔物の強さから考えるに、五階層のフロアボスはあまり強い魔物ではないと思っている。ただ、慢心は死につながるので、油断はせずに行こう。
――今は五階層の攻略中なのだが、出てくるのはさっきと同じ魔物ばかりで全く手ごたえがない。
(うーん……こいつらじゃあLV上げの足しにもならないよな~)
すでに二百体近くの魔物を倒しているが、LVは当然上がらない。Dランクの魔物である森猪を百体以上倒してようやくLVが一上がったのだから、ここにいる魔物だったら数千体は倒さないとLVは上がらないだろう。とてもじゃないが現実的な数字じゃない。
まあ、今回はダンジョンについて詳しく知る為にライザたちと一緒に来たが、次からは俺一人で来て、手ごたえがありそうな魔物が現れるまでは〈身体強化〉や〈風強化〉を使って戦いを極力避けながら走り抜ければいいだろう。
そんなことを考えていると、前方に高さ三メートルほどの重厚感ある扉が見えてきた。
「あれがフロアボスのいる部屋の扉か?」
「ああ、そうだ。この中には確か防具をつけ、大剣を持ったオークがいるって聞いたな」
「ええ、今は誰も扉の前にいないから直ぐに入れるわ」
「分かった。じゃあ開けるぞ」
こうして俺たちはフロアボスのいる部屋へ足を踏み入れた。
部屋は二十メートル四方ほどの広さで、天井までの高さは十メートルほどある。そして、この部屋の中央には防具を着て、大剣を持ったオークがいた。
「グガガガ…」
オークは俺たちのことを視認するとうなり声をあげながらじりじりと近づいてくる。
「なあ、これって俺が倒しちゃっていいものなのか?俺、かなりの量の魔物を討伐したからこいつは譲ろうか?」
今までに出てきた魔物の半分は俺が倒している。その為、フロアボスは譲ろうかと思った。
「ん?いいのか? よし。あれから更に強くなった俺たちの実力を見せてやるよ」
そう言うと、まずライザがオークに切りかかった。
「ブフォ!」
オークはライザの剣を大剣で受け止めた。
だが、ライザとオークではオークの方が力が強いので、このままでは直ぐに押し返されてしまう。
しかし、ライザが押し返される前にニナが詠唱を終えて、〈火矢〉×五をオークの顔めがけて撃った。
「!?ブフォオオ!!」
オークはライザに気を取られており、目の前に迫るまで〈火矢〉を視認することは出来なかった。そして、直前で気づいたとはいえそこから避けられるはずもなくオークは〈火矢〉をもろに顔にくらい、その激痛で大剣を手放して悶え苦しんだ。
「はあっ」
その隙に、あらかじめライザの後ろにいたサルトが跳び出すと、オークの首めがけて剣を振り下ろした。
「グ……ガ……」
オークの首は地面に落ち、塵になった。胴体の方も防具や大剣と共に塵になり、最後に魔石だけが残った。
「……凄えな……」
やっぱりライザたちの連係には目を見張るものがある。シンさんに褒められていたのは伊達じゃない。
「ふっ……どうだ。俺たちの戦いは」
ドヤ顔でライザが聞いてくる。ドヤ顔には辛辣な発言をするのが常識(?)だが、実際いい戦いだったのでそんな発言をすることが出来ず、「確かによかったな」と、軽く笑いながら返した。
「あとはそこから出れば五階層攻略完了だな」
ライザが指をさしながらそう言った。
俺はライザが指を指す方向に視線を向けると、さっきこの部屋に入った時の扉の丁度反対側にさっきまでなかった扉がいつの間にか出現していた。
「わ、分かった」
俺はライザが魔石を回収したのを確認してからその扉を開いて部屋の外に出た。
「ん?あれが六階層への階段か?」
扉から五メートルほど進んだ場所に六階層へ続く階段があった。
「ああ、まあ、今日はここで寝て、明日上に戻るとするか」
「ええ、あ、一応言っとけど戻る時はその扉じゃなくて横にある通路を通って行くのよ」
その言葉で、俺は扉の横を見た。すると、右側に幅三メートルほどの通路があり、それが奥へと続いていた。
「分かった。まあ、ここで今日は寝るとしよう」
こうして俺たちは夕食を食べ、その後同じ冒険者からの盗賊行為の警戒の為、Dランク昇格試験と同じくニナ、俺、ライザ、サルトの順番で見張りをすることになった。
みんな寝る時は階段に座って寝ていた為、俺も空気を読んで〈土壁〉で地面を整えてからのテントはやらないで置いた。
因みにダンジョンの床や階段に〈地面操作〉は使えなかった。なぜなら、〈地面操作〉は土の地面にしか使えないからだ。
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