第五十六話 転移魔法陣(使い捨て)
残酷な描写があるので苦手な方は気を付けてください。
俺の元から放たれた大量の〈炎剣〉。
それがディンに襲いかかる。逃げようにも〈結界〉のせいで直ぐに逃げることは出来ない。
ディンに当たったと同時に土煙が上がった。そして、数秒で土煙がなくなり、その場を覗いてみると、そこにあったのは魔法陣みたいなのが書かれた一メートル四方の紙だった。ただ、〈炎剣〉によって所々が炭化していた。
「……逃げられた?でも〈結界〉は破壊されてないよな?」
俺はそう言いながら〈結界〉を解除した。
その後、〈身体強化〉を使って音を探ってみたところ、ここから二百メートルほど離れた場所からディンの声が微かに聞こえた。しかし、俺から距離が離れた為、直ぐに聞こえなくなった。
「もしかして……これが転移の魔法なのか?」
状況からして間違いないだろう。それにしてもようやく俺が求めた魔法を見ることが出来た。
ただ、ここから二百メートルしか離れていない場所に転移したあたり、遠くへ行く。ましてや世界を超えるのはのはかなり難しそうだと思った。
「うーん……てかよく考えたら俺が今後覚える魔法の中に転移の魔法なんてなかったな……」
ただ、神様はあると言っていた。もしかしたら俺じゃないと覚えられない類の魔法なのだろうか?
まあ、いずれにせよ今悩んでいても意味がないのでそのことをこれ以上考えるのはやめた。
俺は空気になりかけていた冒険者四人の方に視線を移した。あいつが計画の為に連れ去ったのかと思っていたが、置いてけぼりにされたようだ。
こいつらは足を切られているせいで這って逃げていたが、俺は直ぐに追いかけて捕獲した。
俺はこいつらを冷たい目で睨みつけた。
「で、邪魔が入ったが、お前らを殺すことにする。異論は認めない」
そう言うと、俺は問答無用で〈炎剣〉を使って切りつつ燃やした。
そして、〈地面操作〉で穴を作ってそこに四人とも埋めた。
「はぁ……森猪を討伐しに来ただけなんだけどなあ…何で俺はこんなにも事件に巻き込まれるのだろうか…」
これが異世界転生者としての宿命なのだろうか…それとも強い力を持つ者としての宿命なのだろうか…俺には分からなかった。
「まあ、Cランク昇格試験を受ける為にもあと……十三体だったかな?それだけ倒したらさっさと帰るとしよう」
そう言うと俺は〈身体強化〉と〈風強化〉を使うと、猛スピードで二百メートル離れた場所にいた森猪へ行った。
場所を突き止め、そこに向かうまでにかかった時間は僅か七秒。もちろん〈結界〉で服が風圧で傷んでしまうのも防いでいる。
俺は森猪に近づくと、白輝の剣を振った。
「はあっ」
俺は一瞬で三頭の森猪の首を切った。森猪は反応すら出来ずに死んだ。
「じゃ、この調子で残りも探すとするか」
そう言うと俺は再び森猪の「ブフォ」という鳴き声に反応しては猛スピードでそこに行って白輝の剣を振る。というのを何度かやった。
ディン視点
「はぁはぁ……とんでもないなあいつ……」
俺は全速力で隠れ家に向かっているところだ。
あの場からは組織全体でも数個しかない貴重な古代遺物である使い捨て転移魔法陣を使って何とかあの場から逃げることが出来た。万が一に備えて予め草むらに片方を広げておいて正解だった。
「最後の魔法。無詠唱で〈炎剣〉を大量に使いやがった……あんなことが出来るのは世界最高クラスの魔法師十数名か、我等が神にしか出来ない芸当だぞ……」
俺は悪態をつきつつも何とかトリスの森にある隠れ家に到着した。
ダミーの木の中にあるボタンを押すことで、草むらに隠れたマンホールのような扉が開き、俺はそこから中に入った。
「あ、ディン様。おかえりなさい」
「ディン様。供物はどれぐらい集められましたか?」
隠れ家に入ると、五十人の部下が俺のことを出迎えてくれた。
「ああ、途中で森大猿の群れに襲われてな。倒したんだがその時に近くに転がしといた人間が全員殺されてしまってな。まあ、ついてなかったな」
俺は笑いながら言った。
こいつらは俺より強い人と会ったことがない。
そんなやつらに俺が負けただなんて言ったらこいつらは大きく動揺するだろう。俺の守りがあるという安心感のおかげでこいつらは今も安心して仕事をしているのだ。その状況を崩したくなかった俺はこの日、初めてこいつらに嘘をついた。
「そうなんですか……まあ、それは流石にしょうがないですよ」
「そもそも森大猿に無傷で、しかも一人で勝てる人なんていませんよ」
こいつらは俺のことを信じて疑わなかった。
(やれやれ……ま、これが正解なのだろう……)
俺は小さくため息をついた。
「では、俺は少し休む。みんなも無理はしないでくれ」
俺はそう言うと奥にある自室に戻った。
俺は自室に入ると即座に報告書に目を通した。
(あの男は同胞に何度も殺されかけているとか言ってたな……だったらこの報告書に乗っているはずだが……ん?これか)
目に留まったのは討伐対象に最近乗った一人の男の情報だ。
「グラン出身のDランク冒険者。身長百六十センチメートルほど。黒いローブを羽織っている。ミスリルの剣を使う。火、水、土の三属性を高度に扱う魔法戦士」
特徴は全く同じだ。それに、後の時の火属性の魔法は凄まじかった。
あの時、光属性と風属性の魔法も使っているのだが、生き残るのに必死だったことで、俺は気づいていなかった。
「こいつか。名前は……ユートというのか…」
俺は深くため息をついた。この報告書が真実なのであれば、組織はとんでもない相手を敵に回したなと思った。
「これ以上無駄に同胞を死なせない為にも討伐の取り消しを要求したいところなのだがな……」
どうせその要求をしたところで強硬派がわがままを言って終わるだけだから意味がない。
わがままばかりだったら本部から消されかねないのだが、あそこは実績だけは一番だし、もし消されそうになってもあそこのトップはそれを返り討ちに出来るだけの力があるから厄介だ。
「まあ、俺も強くなればいいだけの話だ」
俺はそう言うと地下訓練場へ向かった。
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