第四十一話 緊急依頼
俺は路地裏で教育した男たちの襟首を右手に三人、左手に二人持ち、引きずりながら歩いていた。因みに全員気絶している。左手にいる男二人の股に血が付いているが……うん。何があったかは皆さんのご想像にお任せしよう。
冒険者ギルドに入ると、目の前に男性ギルド職員と、さっき俺が連れていかれるところを見ていた女性冒険者が何かを必死に伝えているようだった。
「冒険者の子供が連れていかれたの!早くしないと!」
「わ、分かりました。直ぐに行きます」
そう言って男性ギルド職員が冒険者ギルドの外に出ようとした。
「急がないとホントに危な……え」
女性がポカーンとしながら俺のことを見てくる。ただ、直ぐに我に返り、俺に近寄ってきた。
「だ、大丈夫?よかった~逃げられたのね」
どうやら俺が引きずっているこいつらのことは見えていないようだ。
そこに男性ギルド職員も近づいてきた。
「君を襲ってきたやつらが誰かは既に分かっている。やつらは直ぐに捕まると思うから安心していいよ」
ギルド職員もこいつらのことが見えていないようだ。周りにいる人の方を向いてみたが、誰も気づいてない様子……
この状況でこいつらを見せるのは気が引けるが、このまま引きずっとくわけにもいかないので見せることにした。
「じゃあこいつらを引き取ってください」
そう言って俺は引きずってた五人を前に突き出した。
「「「「え……」」」」
俺が見せた瞬間、みんな呆然とし、そのあとはありえないものを見るような目で俺とこいつらのことを交互に見てくる。
「え、え~と……大丈夫……だった?」
男性ギルド職員が戸惑いながらも恐る恐る口を開いた。
「ああ、まあこいつらはそこまで強いわけではなかったのでね。迷惑にならないように路地裏でおとなしくさせました」
変にごまかしても意味がないと思った俺はありのままに何をしたのか話した。
「それで、後はお願いできますか?」
あと一時間もしないうちに日が沈んでしまうので、俺は早めに依頼の報酬を受け取って、宿に入ってのんびりしたい。
「わ、分かりました。そこに置いといて大丈夫です」
俺は床に雑に置いた。その衝撃で男たちが意識を取り戻したが、即座に腹パンで再び意識を奪った。
「これで大丈夫ですよ」
俺はニコッとしながら振り返った。
男性ギルド職員はびくっと体を震えさせながらも俺に目を合わせた。
「わ、分かりました…賠償金は明日ギルドの受付にて渡します。お名前は……」
「ユートだ」
「はい。分かりました。あとはこちらにお任せください。」
これにて一件落着だ。
今のやり取りを見ていた人たちの中にはこいつらに同情の視線を向ける人もちょくちょくいた。ただ、それよりも俺に対して畏怖の視線を向ける人が多く、俺はその場にいずらくなった。なので、俺はそそくさと受付へ向かった。
「森猿が二十七匹なので報酬金は十二万五千セルになります」
「ああ、ありがとう」
俺は受付嬢に礼を言うと、報酬金を受取った。
受付嬢はさっきの事件に事を知らないのか、普通に接してくれた。
足がプルプルと震えているように見えたのだが…うん。気のせいだろう。
俺はもらった報酬金を〈アイテムボックス〉に入れると、まっすぐ出口へ向かった。すると…
「おい!みんな!緊急の依頼だ!!」
張りのある声で叫びながら受付の奥から出てきたのは右目を上下に裂くような古傷を持ち、短く刈り上げられた深紅の髪に金色の眼をした四十代半ばほどに見える大男だ。身長は二メートル近くあるのではないだろうか…
(ん?緊急の依頼?)
宿に行って休みたかったが、緊急の依頼に対する興味に負けて足を止めた。周りにいた人たちも一斉に大男の方を見る。
「マリノの森の北東部にある川の近くでオークの集落が見つかった!見つけた時には既に丸太で塀が作られており、その中には確認出来ただけでも二百体近くのオークがいた!これから至急討伐隊を組む!報酬金は二十万セル、ランクはDランク以上だ!行くやつは今すぐ二階の会議室に来てくれ!」
そう言うと、大男は二階へ向かった。
(なるほど……沢山いるならLV上げも期待できるし報酬も結構いいな……)
オークならDランク昇格試験の時に戦ったが、そこまで強い魔物ではなかった。
報酬とLV上げに釣られた俺は自然と足が二階へと向かっていた。
二階にある会議室に入った俺は、他の冒険者と同じように椅子に座った。
この会議室は、机がコの字になっており、そこに椅子が計五十個ほどあるといった感じだ。
暫くして、人が来なくなってから中央にいる大男が口を開いた。
「大体のやつらは知ってると思うが一応言っとくか。俺の名前はザクだ。ここの支部長をやっている」
どうやらザクと名乗ったこの人がここのギルドの支部長のようだ。
「で、集まってくれた三十三名はこれからオークの討伐をしてもらう。ただ、集落となっている為、オーク・キングがいる可能性が非常に高い。それに、上位種のオーク・メイジはすでに確認出来ている。くれぐれも油断するなよ」
どうやらオークにも亜種のようなものがいるようだ。そして、話を聞く限りそいつらはオークとは違い、一筋縄ではいかない相手だと思われる。
「オークの集落までは歩いて五時間かかる。その為、夜営をする必要があるが、その為のテントはこっちで用意する。討伐は早朝に行うつもりだ。じゃあ、今からテントと夜食を渡すから来てくれ」
会議室の中央のスペースに置かれているテントと、小さめの革袋に入った夜食をもらう為に、みんな中央へ向かった。そして、みんな一列になって受け取っていく。ここで横入りとかのトラブルが全くないのは、ザクさんが「横入りしたやつは報酬減らすからな」と多少の威圧とともに忠告したおかげだ。
(うーん……テントは別にもらわなくてもいいか~)
みんなが受け取っているテントは俺のよりもコンパクトにたたまれている為、持ち運びという面ではかなり優秀そうだ。ただ、金具の袋も一緒にもらってることから、自動で組み立たるものではないだろう。残念ながら俺にはそんなことは出来ないし、そもそも〈アイテムボックス〉に入れてあるから大きさとかは問題にならない。その為、俺は自分のテントを使うことにしたのだ。
夜食は一応もらっておいた。ちなみに中身は干し肉だ。
「よし、みんな準備はいいな。これより出発する。案内はそもそも見つけたのが俺だから俺しか案内できるやつがいないんだけどな」
と笑いながら言った。
(支部長ってあちこち行けるもんなのか……)
ただ、ウォルフさんも空いている時間は冒険者登録の受付にいると言ってたので、それと同じだと思って納得した。
「じゃ、付いて来い」
そう言うと、ザクさんは荷物を持って会議室を出た。そこに俺たちも続いて出ていく。そのまま下に降りて、冒険者ギルドを出ると、俺が教育した男五人が意識を取り戻しており、うち二人が股を抑えながらも、二人の衛兵によって連れていかれるところだった。
こいつらが俺の方を向いた途端、怯えて座り込んでしまった。衛兵も俺を見て、何かを察したような顔をしていたが見なかったことにして、その場を後にした。
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