第三十六話 残念なストーム・キャット
「…やっぱり暇だな……」
俺は〈身体強化〉を使って林道を走っていた。マリノへ行くには両側を背の高い木で埋め尽くされた森に挟まれた土道をずっと走らなければならない。景色の代わり映えが全くないから景色を眺める気にもなれず、ただただ暇だった。
そもそも前の世界では歩いて何日もかかるような場所には車や電車で行くのでここまで時間はかからないし、その短い移動時間の間もスマホでゲームをしている為暇になることがない。まあ、こういうのは次第に慣れていくものだろう。いや、転移の魔法を手に入れれば解決することだろう。
そんなことを思っていると、魔物の鳴き声がした。いや、ここまで走ってくる間にも聞こえてはいたのだが、「グルルルル」や、「ギャギャ」といった聞きなれた鳴き声ばかりだったのでスルーしていたが、今聞こえてきたのは「ニャー」という鳴き声だ。
「何の魔物か気になるしちょっと行ってみるか」
そんな軽い気持ちで俺は道から外れると、森の中へと入って行った。
「えーと…大体この辺のはずなんだけど…あ、いた!」
大体三百メートルほど走ったところにいたのは灰色の毛で覆われ、金色の瞳をした猫だ。見た目は普通の猫なのだが、やけに大きさが大きい。大体三メートルほどはあるだろう…
そんな猫が俺を見るなり「シャー」と毛を逆立てて威嚇してきた。俺は取りあえず〈鑑定〉を使ってみた。
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名前 ストーム・キャット LV.50
体力 8000/8000
魔力 7900/7900
攻撃 8800
防護 9200
俊敏性 9100
魔法
・風属性
風属性の魔法を使いながら獲物に跳びかかる。
昼は大抵おとなしいが、夜になると獲物を求めて動き始める為、凶暴になる。
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「わぁ…強いね君」
自分よりもLVの高い魔物と初めて会ったことで言葉がおかしくなってしまった。しかも弱点がない。しかし、ストーム・キャットは昼は大抵おとなしいらしい。ただ、これは大抵であるので例外は存在する。そして、目の前にいるストーム・キャットは俺に対して威嚇しており、今にも跳びかかってきそうだ。
「やばくね?」
と言った次の瞬間、
「シャー!!」
とストーム・キャットは鳴くと、三十メートルほどの距離を僅か一秒ほどで詰めてきた。
「ちっ〈氷結〉!」
近距離の為、〈火矢〉は撃ってもステータス的にあまり意味がないと踏んだ俺は逆に近距離であることを利用して〈氷結〉を盾兼攻撃として使った。
「シャア!」
ストーム・キャットは俺に当たる直前で止まると、〈風刀〉を大量に撃って〈氷結〉を破壊した。
「な、くそっ」
俺は破壊される直前で〈身体強化〉と〈風強化〉を使い、素早く横によけた。その直後、俺がいた場所にあった木はみじん切りにされ、地面も少しえぐれた。
「とんでもないな…」
俺は魔法の威力に驚きつつも、〈アイテムボックス〉から白輝の剣を取り出すと、〈火矢〉×三十をストーム・キャットに撃った。
「ニャア!!」
〈火矢〉はストーム・キャットに次々と命中した。
「いけるか…」
しかし、一筋縄ではいかないようで、ストーム・キャットは目の前に風圧による風の盾を出現させ、残りを防いだ。
「そう上手くはいかねぇか…」
風の盾で残りを防ぎきったストーム・キャットは風の盾を消すと、再び突撃してきた。
「相変わらず速いな…」
ただ、二度目なら流石に慌てることなくよけることが出来た。そして、ストーム・キャットの目の前の〈結界〉を張った。
「ふにゃあ」
と間抜けな声を出してストーム・キャットは〈結界〉に激突した。その瞬間に「ぷぷっ」と笑ったのは言うまでもない。ただ、魔力をかなり込めたのに、ひびがかなり入っていた。
俺は折角のチャンスを逃さず、背後から〈氷結〉でストーム・キャットを氷漬けにした。
「よし、やったか?」
しかし、ストーム・キャットはギリギリのところで頭の後ろに風の盾を張ることで生き残った。
やっぱりフラグは回収されるものなのだろうか……
「フニャアアアア!!」
ストーム・キャットが叫ぶと、残りの氷が力ずくで破壊された。更に、ストーム・キャットは〈風強化〉で体を強化した。
「まじかよ…」
俺がそのことに驚いた瞬間、ストーム・キャットがさっきよりも速い速度で近づいてきた。恐らく常人では目で追うことも難しいほどの速度だ。俺はそれを避けようとしたが、不意を突かれたこともあり、左足にストーム・キャットの足が当たっていた。〈身体強化〉と〈風強化〉で防護力も上がっているのに、今の一撃で俺は左足を骨折していた。
「痛っ〈回復〉!」
俺は数秒で完治させたが、その間にもストーム・キャットは跳びかかってくる。
「っ…〈結界〉!」
俺は完治させた後に張ったが、ギリギリ間に合った。
ただ、〈風強化〉を使ってる状態なので力がさっきよりも強く、一秒弱で破壊されてしまった。
ただ、そのわずかな時間で俺は態勢を立て直すことが出来た。
俺は跳びかかってくるストーム・キャットに〈火矢〉×二十と〈火球〉×二十を体力を削る兼目くらまし目的で撃った後、ストーム・キャットの真横に立った。
ストーム・キャットはさっきと同じように風の盾で〈火矢〉と〈火球〉を防いでいた。チャンスは今しかない。
「はあああぁ!!」
俺はストーム・キャットの脇腹めがけて剣を振った。
「!?シャア!」
ストーム・キャットは素早く後ろに下がった。
今、俺はストーム・キャットの横から脇腹に切りかかった。その状態でストーム・キャットが後ろに避けてしまったら切られてしまうのは…
「ギャニャアアアア!!!」
そう。首である。
ストーム・キャットの頭がストンと落ちて戦いが終わった。
「な、何か思ってたんと違う…」
ドジというか間抜けというか…
不完全燃焼感に包まれながらも俺は白輝の剣とストーム・キャットの死骸を〈アイテムボックス〉に入れると、その場を離れた。
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