第三十四話 肉の主張がめちゃ激しい
「あの…ちょっといいですか?」
俺は一先ずそこにいる宿の従業員に声をかけた。
「な…君!危ないから宿の外に出てなさい!さっきここの護衛を殺した人がいるかもしれないから…」
さっき宿に入る時に話した女性従業員は俺に凄い慌てながらも避難を促した。
「いや…その人が俺の部屋に来たの…」
「な、何ですって!!大丈夫?怪我してない?してないよね?」
俺の言葉を遮るとめちゃくちゃ俺のことを心配してきた。かなり大きい声なので、周りにいた人たちの視は俺の方を向いている。
「いえ……その…何か俺に切りかかってきたので返り討ちにしました」
「「「「え……」」」」
俺の言葉を聞いていた人たちは全員唖然としながら俺のことを見つめていた。
少し経ってから女性従業員が口を開いたが、
「あ、その…あの…」
といった感じでまともな会話にならなかった。すると、
「君は凄いね…本当に倒してたよ……」
俺の部屋を覗いていた宿の護衛が唖然としながらも声をかけてきた。
「まあ、それなりに強いんで。あれくらいなら何とかなります」
「宿の護衛を瞬殺した人たちを倒してそれなりか……ああ、たしか君はあの部屋に泊まっていたね。部屋は使えなくなっちゃったから三〇五号室に移動してくれないかな?」
「分かりました」
俺はそのまま三〇五号室へ向かった。
「ん?荷物はないの?男たちの様子を見るに剣で倒したみたいだけど…」
「〈アイテムボックス〉の中に入れてあるので大丈夫ですよ」
「分かった。あとは俺たちに任せてゆっくりしててくれ」
「分かりました。あ、さっきの男たちの中で一人はまだ生きていると思いますよ」
「そうなのか!?分かった。縛っておくから安心してくれ」
そう言うと、宿の護衛は三〇二号室へ慌てて入った。
「じゃ、俺は部屋…じゃなくて夕飯食べに行こうかな?」
殺されかけたのにもかかわらず全く動揺せず食事に行こうとする俺にみんなドン引きしていた。確かに少し考えてみれば自分でもおかしいと思うのだが、やはりこの世界に来て、すでに多くの人を殺したこともあってか人殺しを躊躇しない頭にいつの間にかなっていた。
ただ、躊躇しないのは自分を殺そうとしてきた人であり、流石に普通の人はたとえ貴族に頼まれようと殺すことは出来ないだろう。
宿から出た俺はオレンジ色に染まった空を見上げていた。
「あと一時間ほどで夜になるといったところか」
俺はよさそうな飲食店を探す旅に出た。ただ、少し歩いたところで違和感を覚えた。
「ん?なんだ?」
周囲の視線を注意深く見てみると、五十メートルほど前からこっちに向かって歩いてくる男から俺に対する強い殺意が漏れ出ていた。ポケットに手を入れ、視線を下に向けている。見た感じは完全に周囲の人と同化していた。
(あーさっきの件も踏まえてこれは絶対あいつらだな…)
何となくだがすれ違いざまに刺すなり毒を塗るなりしてきそうだ。その時にぶっ潰そうとも思ったが、
(ここは人通りが多いからな…)
周りに沢山の人がいるので、ここで戦ったらその人たちを巻き込んでしまう危険性が高いし、わざわざ身の危険を冒してまで戦う必要もないと思ったので、さりげなく路地裏に向かってから〈身体強化〉を使って路地裏を走って逃げた。
「え~と…ここら辺でいいかな」
路地裏を三百メートルほど走ってからさっきの道の反対側にある道へ出た。
「じゃ、この辺に飲食店は…あった……」
道へ飛び出して、真正面にあったのがまさかの飲食店だった。客足を見るにそれなりに人気の店のように見える。看板には肉肉肉亭と書かれていた。
(肉の主張激しすぎだろ……)
店名のセンスがな…じゃなくて肉に並々ならぬ思いが込められた素晴らしい店名になっている。俺は早速店に入った。
「肉のいい匂いがするな…」
流石肉肉肉亭と言うべきか、店の中は焼いた肉の匂いで満たされていた。店内は奥にカウンター席があり、手前にテーブル席がある。先に入った人の行動から、幸福亭みたいに席に案内される形式じゃないと分かった俺は適当に空いているカウンター席に座った。
「ん?見ない顔だな。この店に来たのは初めてか?」
カウンターにいるエプロンを付けたひげもじゃの店主らしきおじさんがフードの下を覗きながら声をかけてきた。
「はい。というか今日この街に来たところなんですよね。まあ、ティリアンに行く途中なので明日にはカルトリを出るんですけどね」
「ティリアンっていうとあの迷宮都市か。若いのにかなり頑張ってるな。ここは店名通り肉料理専門店だ。今日のオススメはオーク・キングのステーキだ。千百セルだがどうする?」
オークのステーキというと前に幸福亭で食べたことがある。あれもかなり美味かったが、そのキングとなれば更に美味しいことが期待できる。
「じゃあ、それでお願いします」
俺は千百セルを手渡しながら言った。
「あいよ。ちょっと待っててくれ」
そう言うと、おじさんは奥からステーキサイズの生肉を持ち運んできた。そして、鉄板の上で焼き始めた。「ジュー」という音とともに焼き目がついていき、それと共に匂いが流れてくる。そして、焼きあがると木の皿にステーキを乗せ、たれをかけたら木箸と共に俺の前に置いた。
「よし。出来たぞ」
「ありがとうございます」
俺は早速食べ始めた。
「う…美味いな……」
この世界に来てからの食事では語彙力のなさから食べるたびに美味いとしか言っていない。まあ、実際美味いのでお世辞というわけではない。
このオーク・キングのステーキは前に食べたオークのステーキよりも肉汁を多く含んでいる。また、焼き方も絶妙で、ステーキの中に赤みが少し残るくらいなので、かなり柔らかく、食べやすかった。
俺はそれを軽く平らげると、席を立った。
「ありがとう。また来るよ」
「おう。頑張れよ!」
俺は軽く手を振ってから店を出た。
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