第十九話 悪いことには使わない
「こっちは準備完了だ。いつでも行けるぞ」
「分かりましたユートさん。それでは出発してください」
ノイマンさん合図で御者が馬車を動かし始めた。
俺たちはさっきと同じように馬車を囲むようにして歩いている。
そこでふと後ろにいるライザがこんなことを言ってきた。
「ユート、次の魔物は俺たちに倒させてくれ。ユートはノイマンさんのそばにいてくれると助かる」
確かに昼食前に出会ったレッドゴブリンはほとんど俺が倒してしまったし、別に倒しても余程の数じゃない限りLVは上がらないので、譲ることにした。
「分かった。まあ、魔物の襲撃がまたあるかは知らんけど」
その話に他の二人もまざってきた。
「二日間あって一回だけってことはないと思う。先輩から聞いたけど基本的に三から五回は襲ってくるって聞いたわ。特に野営の時は必ずと言っていいほど襲われるわ」
「きついと思ったら君の力を借りるよ」
ライザから提案された"次の魔物は譲る条約"を俺は正式(?)に三人と結んだ。
俺はここでふと気になったことを聞いてみた。
「そういえば勇者は召喚されるって聞いたけど勇者って召喚される前はどこにいたんだ?」
「なんかこことは違う世界から召喚されるって聞いたぞ」
違う世界と言われて俺は自分が前にいた世界を想像した。
「それに勇者は魔王を倒した後も世界に大きな影響を与えたんだよな。例えば米は今となっては多くの人が食べてるけどそれは初代勇者が広めたからなんだ。『米は俺の故郷の主食だ!!』て民衆百万人の前で言ってたらしいぞ」
今の言葉を聞いて俺は確信した。「こいつは絶対日本人だ」と…
それにしても百万人の前でそんなことを言えるなんて色々凄いと思う。まあ、そのおかげでこの世界でも米を食べることができるので超感謝している。そして次勇者が召喚されたら会ってみたいと思った。約百年に一度と言われたが、俺は年を取らないので老衰で死ぬことはない。その為次の召喚がいつかは知らないが気ままに待とうと思った。
この時の俺は元の世界に帰ることを目標にしていることをすっかり忘れていたのであった……
「お、LVが上がっている」
暫くしてライザが急にこう呟いた。振り返ると、ライザの目の前にステータスのパネルが浮いていた。裏から見たので何も見えなかったが…
「ん?LVが上がったのか?それはよかったな」
「ああ、最後に上がったのは二十日ほど前だったからな。大体ゴブリンとかだと全然上がんねぇんだよ。まあ、この試験に合格してランクが上がれば強い魔物を討伐する依頼を受けられるようになるからな。そうすれば更に強くなれる」
ライザは自分の拳を握りしめながらうなずいた。
俺はそこで少し気になったことを聞いてみた。
「なるほど…ステータスはどんな感じなんだ?」
「ステータスは易々と他人に見せていいもんじゃないんだ。それは分かっているだろ?」
とライザにしては珍しく真顔で淡々と怒ってきた。
なんだか凄い気まずい雰囲気になってしまった。
「ああ…すまない」
確かにステータスには自分がどのくらい強いとかが正確に書かれている。いわば個人情報のようなものだ。そう思えば、ライザが怒るのは納得できた。
ただ、見せたくないと言われると見たくなるのが人というものだ。
(うん。絶対に悪用しない。と言うか悪用の仕方を知らないし…うん。大丈夫大丈夫…)
と心の中に言い聞かせながら俺は〈鑑定〉を使った。
ー--------------
名前 ライザ 半獣人族 LV20
体力 1400/1500
魔力 1000/1000
攻撃 2200
防護 1900
俊敏性 1500
スキル
・剣術LV.3
魔法
・なし
ー--------------
まずつっこみたい所といえば種族だろう。半獣人族とはいったいどんな種族なのだろうか?ライザの見た目は完全に人と同じだ。半というところから考えるに、恐らく人と獣人のハーフと言うことは何となく分かる。獣人族はゲームでもよく出ていた。そこでは猫耳にしっぽがあったがこの世界でも同じなのだろうか?このことについてもっと詳しくライザから話を聞きたかったがもし聞いてしまったら「何でそれを知っているんだ?」と言われてしまうと思い、聞かないことにした。あとはLVに対するステータスの値やスキル、魔法といったところだろう。それに関しては俺の方が圧倒的に高い。神から世界最高のステータスと言われていたが、今までいまいち実感が湧いてこなかった。ただ、これをみて俺はとんでもないチート野郎だとしっかり認識することが出来た。
あれからかなり歩いた。空は夕日で赤く染まっていた。あと一時間ほどで真っ暗になるだろう。そう思っていると馬車が草原の方にずれて停止した。
すると、ノイマンさんが馬車から降りて、俺たちの方を向いた。
「もう暗いのでここで野営にしたいと思います。これから準備をするので手伝ってください」
俺たちは馬車からテントを取り出し、組み立て始めた。テントは何かの魔物の革でできており、中々丈夫そうだ。そして、無事テントの設置が終わったところで、
「野営の時は枝を拾って薪にするんだ」
とシンさんから言われた。その為俺たちは近くにある森へ薪にする為の木の枝を取りに行った。この時も誰か一人はノイマンさんのそばにいなくてはいけないのだが、その役割にニナが「絶対になりたい!」と強く主張してきた。そこまで言う理由を言ってみたが、はぐらかされてしまった。
森の中で枝拾いをしているとライザが、
「ニナって怖がりだから夜の森に入りたがらないんだよな」
と小さめの声で言ってきた。それに関して俺からはノーコメントにしておこう。まあ、夜の森は正直言って凄い不気味だ。まだ完全に日は沈み切ってはいないとはいえ、森にはあまり光が入らない為この状況ではほぼ真っ暗だ。なのでニナの気持ちはよく分かる。
そんな会話がありながらも俺たちは木の枝を集めていった。
「よし、火をつけたしそろそろ食事にするか」
俺は昼食と同じように〈アイテムボックス〉から串焼きを取り出して食べた。月光の三人は革袋から取り出した干し肉を食べていた。三人とも俺に対してうらやましそうな視線を向けてきたが、目がかなり怖かったので俺は目を横にそむけた。
この何とも言えない雰囲気に耐えられなくなったのかライザが夜の見張りの話をしてきた。
「さて、取りあえず夜の見張りはどの順番でやるか?二番目と三番目が一番つらいって聞くし、この中で強いユートと俺がやった方が効率的だな」
「私は一番目にしようかな」
「てことは俺は四番目ってことになるな」
てな感じで俺が口を出す間もなく勝手に話が進んでいく。まあ、別に何番目でもよかったのでかまわないが…
「じゃあ、ニナ、ユート、俺、サルトっていう順番になったからニナ以外の人はさっさと寝ることにしよう」
「「「わかった(わ)」」」
俺たちは草原の上に敷かれた革のシートの上に寝転がった。
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