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第十八話 無知な俺

「ユート…お前俺と戦った時手を抜いていただろ?なんだよあの速さは……」


 ライザはため息をつきながらあきれていた。

 手を抜いていたかを聞かれると実際あの時は〈身体強化〉と〈風強化(ブースト)〉は使っていなかったのでライザの言ってることは正しいのだがそれを肯定するのはちょっと気が引けるので軽く笑って誤魔化すことにした。

 そこに馬車の後ろにいたシンさんが近づいてきた。


「月光の連係はかなり高いな。個々の強さもDランクに見合う強さだが、連係の質ならBランクくらいはあるからあまり倒せなかったからって落ち込む必要はないぞ」


 シンさんは少し落ち込んでる三人を励ました。

 すると、シンさんは今度は俺の方を見た。


「で…だな。ユートはBランクの真ん中より少し上と言ったところだな。技量はまだまだだがスペックがとんでもないな」


 シンさんもまたあきれていた。


「ま、まあ…はい。と、取りあえずレッドゴブリンの死骸はどうしますか?さっさと燃やしちゃいましょうか?」


 気まずい雰囲気になった為、俺は露骨に話題をそらした。


「そうだな…討伐証明部位だけ切り取ってから燃やして埋めればいい。魔石は取り出していたら依頼人を待たせてしまうからな」


 シンさんの言葉で俺たちはレッドゴブリンの討伐証明部位である右耳を切り取ると、ライザの持っていた革袋に詰め込んだ。

 その後、俺とニナが〈火球(ファイアボール)〉を使ってレッドゴブリンの死骸を燃やし、ライザとサルトが穴を掘って骨を埋めた。森の近くで燃やしたので森に燃え移らないか心配したがそれについてはニナが、「魔法で生成された火はあまり燃え広がらないから直接〈火球(ファイアボール)〉を木にあてない限りは大丈夫よ」と言っていたのでその心配をする必要はなさそうだ。


「よし、ノイマンさん。もう大丈夫だ。御者さん、出発していいぞ」


「ふう…ありがとうございます」


 ライザの言葉に馬車の中にいるノイマンさんは安心したように一息ついた。

 そして馬車は再びカルトリに向けて動き出した。










「御者さん、そろそろ昼食にしたいので道から外れたところに停車してください」


 ノイマンさんの言葉で馬車は十メートルほど草原の方にずれて停車した。


「ふう…昼食の時間か…」


「確かにお腹がすいたわね…」


「俺たちも昼食をとるとするか」


 こうして俺たちは昼食をとることにした。

 月光の三人が革袋の中からパンを取り出した。俺は〈アイテムボックス〉からオークの串焼きを四本取り出し、さっそく口にした。出来上がってから直ぐに入れたので食べた感じは出来立てほやほやのままだ。


「あれ?お前どこからその串焼き取り出したんだ?」


「ん?剣を出した時に気づいていなかったのか?俺が〈アイテムボックス〉のスキルを持ってるってことを」


「言われてみれば確かにそうだな」


「ミスリルの剣の驚きですっかり忘れてたわ」


「君はいいスキルを持ってるね…うらやましいよ」


 サルトは相変わらずニコニコしながら羨ましがっていた。ニコニコしながら羨ましがられると凄い不気味と言うか怖く感じる。


「そ、そうか?ていうかこのスキルは珍しいのか?」


「珍しいかどうかは分からんな。ただ、スキルの中では便利な方とだけ聞いてる」


「確かにこれは便利だな」


 〈アイテムボックス〉は何気にたくさんお世話になっている。〈アイテムボックス〉がないなんて…うん。考えたくもない。


「まあ、俺もサルトも〈剣術〉っていう便利なスキルを持ってるから人のこと言えないんだけどな」


 なんか俺は持ってないみたいな発言をされたことに反応してしまった俺は


「いや、俺も〈剣術〉持ってるぞ」


 と言ってしまった。

「あれだけ他人を驚かせてしまったからこれ以上言うのはやめた方がよかったかな?」と言った直後に少し後悔した。


「ああ、そうか。そう言えばあの時使ってたな。ていうかスキルは一人一から四個持ってるって聞くけど君は二個も持ってるのか…しかもどっちも便利なやつだしうらやましいな」


 ライザは俺のスキルを二個だと思っているようだ。本当は五個だが言わない方がいいのはよく分かる。


「それは恵まれたなと俺も思ってるよ。ていうか四個持っている人もいるのか…」


 と、呟いた。すると、ライザが


「いや、それは歴代勇者七人が四個持っていたってだけのことだ。だから基本は三個が限界だ。歴史上では勇者以外にも四個もっていた人もいるけど真偽不明なんだよな」


 勇者というファンタジー世界では定番の言葉に俺は驚きを隠せずにいた。それにしても勇者って何をするのだろうか?よくあるのが魔王討伐だがこの世界でも同じなのだろうか…一応聞いてみよう。


「勇者ってなんだ?」


「いや、それも知らないのか?まあ、勇者っていうのは約百年に一度魔大陸に現れる魔王を討伐するために、ハラン王国が召喚する人のことだ」


(お、予想通り魔王もいるのか…)


 勇者の役目は魔王討伐。暗黙の了解だ。ハラン王国は聞いたことがないがこの世界のどこにあるのだろうか?次勇者が召喚されたら是非とも会ってみたいところだ。


「なるほど…分かった。ところでさ、ハラン王国ってどこだ?」


「はぁ……ハラン王国は今俺たちがいる所だよ。まあ、勇者を知らないならこの国の名前も知らない…のか?」


 常識が通じないことにライザは戸惑いの表情を浮かべていた。


「まあ、そういうことを気にせず育つ人も王都から離れた街では結構いるものよ」


「うーん…そういうもんなのか?」


 ニナのナイスアシストのおかげで俺の世間知らずはそこまで目立つことはなさそうだ。それにしても少しずつでもいいからこの世界について詳しくならないと何かと不便そうだ。

 そのまま俺たちは一時間ほど雑談を楽しみながら食事をした。

 ちなみに雑談をしている時に馬車の陰からシンさんがうらやましそうにこっちを見ていたのだが俺たちは誰もそのことについて知らない……

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