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第十七話 いい連係(俺以外)

 〈アイテムボックス〉からミスリルの剣を取り出した俺はそれをニナに見せた。


「そ、そうだけど…もしかして知らないで使っていたの?」


 驚愕の表情でそう言うと、「ありえない…」と呟いた。例えるならダイヤモンドの価値を知らないでダイヤモンドの指輪をつけているといった感じだろうか?いや、値段は三十万セルだったのでそこまで大袈裟なことではないだろう。


「いや、ミスリルっていうのは知ってたけど剣としてしか使ってないぞ」


「まあ、確かにあなたの実力ならそれでも問題はなさそうね…一応魔法発動体としての使い方を説明すると剣に魔力を流しながら放つ。まあ、分かりやすく言うと剣先から魔法を放つことをイメージすればいいわ」


 ミリが使い方を丁寧に教えてくれた。


「ああ、ありがとう。ただ、ここで試すのはまずそうだから使う時が来たら使うことにするよ」


「ええ、その方がいいわ。あの様子だとかなり威力を落とさない限り多分訓練場の壁を破壊しそうだし…」


 ニナは苦笑いしながらうなずいた。

 ニナから為になる話を聞き終わったところでウォルフさんが口を開いた。


「よし、そろそろ依頼主の所へ行く時間だ。シン、北門が集合場所だからそこに向かってくれ」


「分かった。みんな行くぞ」


 俺は〈アイテムボックス〉にミスリルの剣をしまうと、みんなとともにシンさんの後をついて行った。

 余談だが、グランには街から出る為の門が二つあり、グランの森へ出る門が南門、カルトリなどの他の街へ行く門が北門だ。






 北門についた俺たちは一台の馬車の前にいる男性の前に立った。


「今日の護衛を務めるのはこの四人だ。ただ、今回はDランク冒険者へのランクアップの試験を兼ねたものになる。だから、元Aランク冒険者である俺が試験官兼護衛としてつくから身の安全は保障する」


 シンさんは自信に満ちた声で依頼主に今回の護衛について説明していた。


「Aランクですか!それならこちらとしても安心できますね。ああ、申し遅れました。私はサラン商会グラン支部幹部ノイマンと申します」


 ノイマンさんはそう言うと頭を軽く下げた。ノイマンさんは金色の髪にエメラルド色の眼をした三十代半ばほどに見える紳士的な男性だ。


「よし、じゃあみんな。カルトリに着くまで二日かかるが最後まで気を抜かずにやるぞ」


「「「「はい」」」」


 俺たちは一斉に返事をすると一台の馬車を囲むようにして立った。そして、ノイマンさんが馬車の中に入り、御者が席に座ったことで出発する準備が終わった。


「よし、出発してくれ」


 シンさんの合図とともに二頭の馬にひかれた馬車が動き出した

 馬車は土の道の上ををガタゴトと音を立てながら少しずつグランから離れていった。



 歩き出してからシンさんが護衛について教えてくれた。こういうのは依頼の前に言うものではないかとも思ったが、そこは異世界クオリティーということで納得した。


「よし、取りあえず護衛について説明するぞ。といってもそんなに難しいことではない。魔物や盗賊から依頼主を守る。ただそれだけだ」


「と、盗賊も出るんですか?」


 盗賊とかかわることなんて前の世界ではゲーム以外ではなかったのであまりイメージがわかない。ゲームの中では剣持ったガラの悪い集団みたいな感じで出てきたが実際どうなのかは分からない。


「まあな、魔物ほどじゃないがたまに襲ってくるんだ。まあ、大体が冒険者になったけどあまり稼げなくて盗賊になった。や、犯罪から逃げる為に盗賊になったとかがほとんどだから強いやつはあまりいない。ただ、集団で襲ってくるから油断はするなよ」


 と念を押された。


「あと、殺した盗賊や魔物を放置するとアンデットになる可能性があるから死体は必ず燃やしてから土に埋めてくれ。


 アンデットはゲームでもよく出てくるが一応どんなやつか聞いておこう。


「分かりました。それで、アンデットってどんな魔物ですか?」


「アンデットはゾンビやスケルトンのことだ。そいつらは死体に魔力が集まることで生まれるんだ。強さは基本元となった生き物の六割ほどだからたいして強くはない。ただ、魔石を砕くか体から引き離すかしない限りは絶対に死なないから相手にするとかなりめんどくさいんだ」


「そうなんですか…分かりました」










「全然景色が変わらないな~」


 大体二時間ほど歩いたが馬車はずっと一本道を進んでいた。左側には草原が広がっており、右側には森が広がっている。退屈だな~と思っていると、


「ゲゲッ」


「グゲッ」


 という鳴き声が森の方から聞こえてきた。それもかなり近く、こちらに向かってきているようだ。


「魔物か!?」


 俺はそう言うと〈アイテムボックス〉からミスリルの剣を取り出し、〈身体強化〉と〈剣術〉のスキルを使っていつでも攻撃できるようにした。今日は誰かを守らなければいけないという思いから少し緊張している。


「魔物がいたのか?」


 月光の三人も少し遅れたが動揺することなく二人は剣を構え、一人は杖を構えた。


「御者さん止まって!魔物がいるぞ!」


「ま、魔物ですか!?わ、分かりました」


 シンさんの言葉で御者が馬車を停止させた。

 馬車の中からノイマンさんが不安そうにこちらを見ている。


「四人とも、説明を忘れていたが魔物や盗賊と戦いになったら馬車は止めさせるんだ」


 その言葉と同時に森から十数匹のレッドゴブリンがぞろぞろと出てきた。


「俺、ユート、ニナがこいつと戦うからサルトはノイマンさんを守っ……」


 ライザが的確に指示をしていたが最近大量の魔物を討伐していた俺はその癖が抜けておらず、ライザの指示を一切聞かずにそのままレッドゴブリンに突っ込み、一気にかたずけてしまった。

 倒すのにかかった時間は僅か五秒。


 その後十秒ほど気まずい雰囲気が流れた後にライザがようやく口を開いた。


「お、おいユート!ちょっとやりすぎだ!俺たちの分も残せよ!」


 と怒鳴られた。

 ただ、その言葉には怒りと言うよりは今起こった光景に対する困惑の気持ちが込められていた。


「す、すまない。ほ、ほら、まだ森から三匹出て来ているから倒してくれ。今ので俺はかなり疲れたから…」


 俺は慌てて適当にごまかした。


「全然疲れているようには見えないけど…まあ、やるか!」


 そう言うとライザとサルトはゴブリンに襲い掛かった。


「はああああっ」


「グギャ」


 ライザの一振りでゴブリンは横方向に両断されて転がった。ただ、それと同時に別のゴブリンが棍棒を振りかざしてライザに迫っていた。


「よし、ニナ!」


 その言葉に馬車の横にいたニナが反応する。


「ええ。炎の矢よ、我が敵を貫け〈火矢(ファイアアロー)〉!」


 ニナが撃った〈火矢(ファイアアロー)〉五発はゴブリンの頭と腹に命中し、息絶えた。


「サルト、そっちは大丈夫か?」


「ああ、こっちはもう済んだ」


 月光のパーティーはレッドゴブリン三匹を十五秒ほどで討伐してしまった。


(な、なんかいい連係だな……)


 三人の連係に俺は暫くの間感心していた。

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