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第十六話 模擬戦

「よし…じゃあ、ライザとユートが戦ってくれ」


 ウォルフさんの言葉により俺はライザと模擬戦をすることになった。

 そこにライザが「ちょっと待って」と口をはさんだ。


「あの~俺が言っちゃなんですけど魔法師と剣士って魔法師の方が圧倒的に不利だから戦いにすらならないと思うっすけど…」


 剣士と魔法師の相性なんて俺は知らない。まあ、不利ならこっちも剣を使えば問題ないと思った。


「まあ、確かに魔法師っていうのは一対一で戦うことはほとんどないからな。ただ、ユートはソロで冒険者やってんだ。それに愉快なこともやったしな。どうとでもなるだろ」


 当たり前だろ?て感じで言われると逆に不安になってくる。


「いや、まあ、何とかするしかないですけど…」


「いや、ユート。お前の強さは俺が保証する。それに噂によると絡んできた先輩冒険者三人を殴り飛ばしたっていうじゃないか」


 シンさんは俺のことを高く評価してくれた。高く評価されることは悪く思わないが少し気恥しい。

 そしてそれを聞いた三人は目を見開いて驚いていた。


「魔法師なのに力があるとか凄えな。てかそれは魔法師じゃなくて魔法戦士だな」


「まあ、それならライザとも戦えそうね。というかライザがぼこぼこにされそうね」


「おいおい、俺の腕を信用しろよ…」


「まあ…ライザ。俺は君を応援しているからね」


 三人で仲良く笑いながら話し出した。


(何か会話に入りずらいな…)


 そんな雑談はウォルフさんの言葉によって終わった。


「まあ、雑談はそこまでにしてさっさとやるぞ。二人とも木剣を持ってそこに立ってくれ」


 俺たちは壁に立てかけてあった木剣を持つと中央へ向かい、互いに向き合った。


「よし。ルールは普通の模擬戦と同じで、武器を手から離したり尻もちをついたりしたら負けとなる。あと、今回は後で試験があるから〈回復(ヒール)〉で治らないような怪我はしないでくれ。では…はじめ!!」


 ウォルフさんの合図により俺とライザの模擬戦が始まった。


「はあああああっ」


 ライザが開始早々俺に向かって突撃してきた。


「っ…はあああっ」


 俺は一瞬ビビったが直ぐに心を落ち着かせるとライザの木剣を同じく木剣で防いだ。

 そして、力ずくで押し返した。


「これでどうだっ」


 ライザはそのまま二メートルほどふきとんだ。ただ、まだ手に木剣は握られてるし、尻もちもついていなかった。


「お前攻撃のステータスも俺より上なのかよ…」


 力なら勝てると思っていたらしく、ライザはかなり驚いていた。


「ただ、俺は〈剣術〉のスキルを持っているからな。これで勝ったとは思うなよっ」


 ライザはそう言うとスキルを使い、また突撃してきた。ただ、そのスキルは俺も持っている。

 俺も同じく〈剣術〉を使うと今度はライザの木剣を正面からたたき折った。


「勝者、ユート!」


 ウォルフさんの言葉により模擬戦は俺の勝利で終了した。


「負けたか…」


 ライザは悔しそうに手元にある折れた木剣を眺めていた。


「魔法師、いや、魔法戦士だったか?それで剣士のライザに剣術だけで勝つなんて君は凄いね」


「ライザより細身なのにどこからあんな力が出てくるの…うらやましいわね……」


 二人も驚いた様子で俺を見ていた。その眼には嫉妬と称賛の気持ちが現れていた。


「まあ、これでユートの実力は分か…いや、まだ魔法を見せていなかったな。試しに魔法も使ってくれ。ここの壁は特殊で強い魔法じゃなければ傷すらつかない代物だが念のためこの的に向かって打ってくれ」


 そう言ってウォルフさんが持ってきたのは直径一メートルほどの白い円形の的だ。ウォルフさんはそれを壁についている金具に括り付けた。


「分かった」


 俺はそう言うと、


「〈火矢(ファイアアロー)〉!」


 俺の目の前から放たれた炎の矢は十メートルほど離れた場所にあった的に当たった。

 的にはぽっかりと穴が開き、後ろにある壁に当たったが、壁には傷はつかなかった。


(よ、よかった…壁に傷がついてなくて)


 的に穴が開いたことで後ろの壁に傷がついていないか不安になったが杞憂だったようだ。というか強い魔法でなければ傷すらつかないって言ってたからそんな心配はしなくても大丈夫そうだが…

 一方それを見ていた三人は少しの間唖然とした後、


「おいおい凄えな…」


「……というか今のは〈火矢(ファイアアロー)〉よね?魔法発動体もない。詠唱もしていない。それであの威力って…」


「ああ、もう驚きでなんて言ったらいいのか…」


 と驚嘆していた。


「ああ、ありがとう。それで…ニナ、魔法発動体ってなんだ?あと詠唱っていうのも」


 褒められているというよりはあきれられている感じがしたが一応褒められたことへの感謝をした。それと、ニナの言ってた詠唱や魔法発動体について聞いてみた。


「そ、それを知らなかったの?確かに詠唱は〈火矢(ファイアアロー)〉くらいまでなら詠唱せずに出来る人もそれなりにいるけど魔法発動体はあるとないとでは威力が約二倍も変わるのよ」


 ニナはありえないことを聞いたかのような顔をしていた。まあ、実際ありえないことを言ったからなのだが…


「そ、そうなのか。し、知らなかった。それで魔法発動体っていうのはどういうものなんだ?」


 もしそれが手に入れば魔法の威力もさらに上がり、強い魔物とも戦えるようになるだろう。俺は目を輝かせながらニナに詰め寄った。

 ミリはそんな俺を珍しいものを見るような目で見た後に答えた。


「え~と…今私が持っている杖が魔法発動体ね。まあ、他にも武器の形をしているものもあるわ。こういうのは主に魔石から作られているの。本当はミスリルやオリハルコンがいいんだけどとても私の手に届くようなものではないわ」


 話の途中から元気を失い、「はぁ」とため息をついてしまった。

 それを俺は不憫そうな目で見ながら、


(ん?ミスリルというと今俺の持っている剣の素材が確かミスリルだったよな?)


 店員が高い素材と言っていたこともあってよく覚えている。


「なあ、それってこれでもいいのか?」


 そう言うと俺は〈アイテムボックス〉からミスリルの剣を取り出した。

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