第十話 いい買い物
「さあ、入ってくれ」
俺は今、支部長室に入ったところだ。
「ソファに座ってくれ。昨日の賠償金を渡すから」
俺は昨日と同じように、ウォルフさんと机を挟んで反対側に向かい合うような形で座った。
「で、賠償金だけど衛兵と話し合った結果、君は四十五万セルもらえることになった」
「な、何か多くないですか?」
ウォルフさんは昨日賠償金は十八万セルくらいになるって言ってたので、ここまでもらえるのが不思議でならない。
「いや、本当は十八万セルのつもりだったんだ。ただ、あいつらにそれを話したら、『ここを出たらあいつを殺してやるー』って感じでわめきだして衛兵の手に負えなくなったんだ。結果衛兵に許可をもらった俺がそこに行ってお話しをしたことで『十八万では足りません。四十五万払います。あと、反省のために一生奴隷として過ごします』って快く言ってくれたんだ」
ウォルフさんは悪い笑みを浮かべながら答えた。
(いや、お話しっていったいなんだよ…何したんだよ…)
ルビに恐ろしい言葉が付いているのが見えたのは気のせいだろうか……
まあ、あいつらに同情するつもりはさらさらないし、むしろ自分たちで賠償金を増やしたことに関してはあきれを通り越して何も言えなかった。
「というわけでこれが賠償金四十五万セルだ」
そう言われて手渡されたのは小さな革袋だ。中を覗いてみると、金貨が四枚、銀貨が五枚入っていた。
「ちゃんと小金貨四枚と銀貨五枚入ってるか?」
どうやらこの金貨は小金貨というようだ。銀貨よりも一回り小さいので金貨と小金貨の区別がつかなくなることはなさそうだ。
「はい。大丈夫です」
「今回は迷惑かけたな。依頼をさっき受けたみたいだし行ってくるといい」
「分かりました。では、失礼しました」
そう言って俺は支部長室を出た。
(金めっちゃもらったな……)
おかげでいい剣が買えそうだ。
俺は冒険者ギルドから出て、武器・防具店へ向かった。冒険者ギルドから出るときにかなりの視線を感じたが気のせいということにしておこう……
「一応この店にある剣は全部買えるんだな…」
一番高いのが三十万セルなので、どれも買うことができる。
自分の命を守るためのものなので、どうせならと一番高いものにした。
長さ一メートルほどの白く光り輝く細剣で、ミスリルという鉱石でできている。さらに、ミスリルというのは魔力の伝導性が良いらしく、魔力を流して使うと切れ味がよくなるそうだ。
あとは冒険者が使うような靴も売っていたので、それも買った。これも一番高いものを買った。
二つで三十五万セルというなかなかの買い物をしたので、店員さんからは有名な商人か、貴族の子供がお忍びで来たと思われていたようだ。そのため接客が凄く丁寧だった。靴はサイズを測ってくれるとすぐにちょうどいいサイズの靴を持ってきてくれたちなみにこの靴には耐久力上昇の効果がついている。
俺は三十五万セルを支払うと、直ぐに靴を履き替えた。
「随分と頑丈なのに軽くて動きやすいな…」
俺は古い靴とミスリルの剣をアイテムボックスにしまった。
剣にはさやがついていたが、どうせ〈アイテムボックス〉にしまっておくので、直ぐに出して使えるようにさやは剣からとっておいた。
「準備も終わったし森に行くか~」
俺は依頼をやるために森へ向かって歩き出した。
「う~ん……見つけたはいいけど回復草ってこれであってるのかな……」
回復草は依頼票にある絵を見るに、白い花の周りに葉が生えている植物だ。目の前にそれっぽい植物があるのだが、植物って似たようなものがいくつかあるイメージがするなので、目の前にあるのが本当に回復草なのか分からない。前の世界のように写真なら分かりやすいのだが、依頼票にあるのは絵なのでちょっと分かりにくい。
俺はこの植物が何なのか知りたいと思ったときに、無意識に〈鑑定〉を使った。すると……
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名前 回復草
この植物は強い再生能力を持っていて、切り刻んでも根が無事なら直ぐに復活する。
また、この花を摂取すれば自身を回復させることもできる。
この花は食べるとゴブリンであっても美食に見えるくらい美味しくない。
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と表示された。
「これって植物でもありなのか……」
そう言えば〈鑑定〉の説明に「対象のステータスを見れる」とあったが、確かに今見ているのは回復草のステータスだ。
「ともかくこれは回復草であっているのか……」
ただ、おかげでいい方法が思いついた。それは回復草がありそうな所を見つけてはそこに向かって〈鑑定〉を使うのだ。
「よし。直ぐに終わらせるか」
攻略法を編み出した俺は〈身体強化〉を使いながらあちこちを〈鑑定〉し続けた。
「う……このペースでやるのは思ったよりも大変だな……」
目の前にあるステータスの内容が鑑定をするたびに目まぐるしく変わるのでその中から回復草を探すのは普通の人間なら無理だ。ただ、今の俺は〈身体強化〉によって頭の回転が速くなっているので何とか出来ている。
俺はこの作業をひたすらやり続けた。
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