第二話 想定外の事態
「な、何故。どうしてあいつが来たんだよ……」
五人全員俺の知り合いだった。だが、その内の一人があいつだったのだ。
そう。そいつの名は――
「桜井幸太……」
俺は憎しみをこめてそう呟いた。
まさか俺を殺した奴が来るとは思いもしなかった。
気持ちとしては、今すぐにでもあいつをボコし、日本に強制送還させてやりたい。
だが――
(ここでそんなことしたら一生指名手配だな。それに……魔王を倒すためには勇者五人と俺がいないと無理だと神が言っているようなものじゃないか……)
復活のたびに強くなっている魔王を倒すのに、俺一人では無理だと神が言っているとしか思えなかった俺は、憎悪を心の中に押し込めた。
(あいつに――あいつらに俺の正体を知られるのは避けたいな……)
桜井のことで忘れかけていたが、五課の四人も俺の知り合い、クラスメイトだった。
その為、彼らに俺のことが知られ、そのせいで桜井に知られたらやばい。
幸いなことに、四人共特段親しかったわけでがなく、同じクラスだったからある程度話したことのあるぐらいの関係だった。その為、早く再開したいとは思っていない。
(さて、召喚で混乱している隙に顔を変えるか)
俺は〈アイテムボックス〉からティリアンで買った変装用の魔道具を取り出すと、首に付けて、白銀の髪と金色の瞳を持つ女性の姿になった。
「勇者よ。余はグルトニア・フォン・ハラン。ハラン王国の国王だ。そなたらが神から聞かされたように、あと一年足らずで魔王が復活する。魔王の目的は人類を滅ぼすことだ。それを阻止する為に、そなたらの力を貸して欲しい」
玉座に座っている国王は、威厳のある声でそう言うと、深く頭を下げた。
「す、すげぇ。神様に言われてたけど、俺、本当に勇者になったんだ……」
桜井は国王の言葉で勇者になったことを実感し、浮かれているようだった。
「俺達四人は召喚に巻き込まれた一般人って神様に言われたんだけどな……」
桜井とはうって変わって冷静に話す彼の名前は葉山弘喜。成績優秀で俺よりもいい大学に入ることが決まっている奴だ。でも、ゲームをすると知能が一気に低下して、はっちゃけると小耳に挟んだことがある。
「だが、神様から勇者ほどではないにしろ、かなり強いステータスを貰ってるんだ。だから役立たずと言って殺さないでくれよ」
どこぞのラノベ知識を引っ張って来たかのようなことを言う彼の名前は影山海斗。ラノベオタクで、学校では休み時間にいつもラノベを読んでいた。
「私達、どうなるの……」
不安そうに立ちすくんでいる彼女の名前は古川玲。古川は陽キャよりの人間で、クラスではいつも陽キャグループの中で笑っていたが、流石にここでは怖気づくようだ。
「玲。落ち着いて。私がいるから」
そう言いながら古川を落ち着かせようとしている彼女の名前は工藤朱里。クラス一陽キャな女子なので、桜井を除く四人の中では一番印象に残っている。いつも笑っているが、真面目な所は真面目だし、成績も優秀なので、かなりの人格者と言えるだろう。
そんな五人を見た国王は、葉山と影山の説明で五人居る理由を理解すると、口を開いた。
「力を持っていようが持っていなかろうが、そなたらは神が遣わした方々だ。くだらない理由で殺すつもりはないから安心するといい」
国王の言葉に、桜井を除く四人は胸をなでおろした。
(なるほど。巻き込まれ召喚ってやつか。てっきり魔王が強すぎるから五人も呼んだのかと思ったよ。そして、ようやく神が「桜井は警察に捕まらない」と言ってた理由が分かった。確かに異世界に逃げられたら追っては来られないよな)
色々と謎が解けた俺は深く息を吐いた。
「勇者の方々もお疲れの様子。本日は部屋でお休みください。詳しいことは明日以降説明します」
国王音横にいたドレスト様がそう言うと、扉の前に控えていた執事が五人を連れ、謁見室を出て行った。
桜井は終始浮かれ、葉山は周囲の観察をし、影山は警戒を続け、古川と工藤は緊張していた。
五人が出て行った後、ドレスト様が口を開いた。
「では、魔法師の皆さんと勇者パーティー補佐はカイル様と共に退出してください。勇者パーティーの皆さんは会議室に行きましょう……おや? ユート……殿?」
ドレスト様は俺の顔が変わっていることに気付き、目を見開いた。
「ちょ、え!?」
国王含め、みんな驚いている。
「すみません。訳あって、勇者の前であの顔を見せるわけにはいかないので……」
「訳?……ハイエルフ関連のものなのか?」
国王は不思議そうにそう言った。
どうやら俺の種族がハイエルフという設定になっていることは、フェリス経由で国王の耳にも届いているようだ。
「はい。トリエストさんからちょっと言われましてね。先ほど気づき、慌てて変えました」
トリエストさんの名前をフル活用して、俺は難を乗り切ることにした。
「分かった。詳しいことは聞かぬことにしよう。では、ついてまいれ。想定外の事態が起きておるからの」
「はっ」
俺は頭を下げた。
こうして、想定外の事態が起こった勇者召喚は終わったのであった。
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