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第十五話 俺は畏怖されたくないんだ

こんなにシリアスな話を書いたのは初めてかもしれねぇ……

「はい。これで互いの強さが分かったね」


 フェリルの言葉に、俺達は頷いた。


「あとは連携を高めるべきじゃないかな? 勇者が来てからだと遅いと思う。勇者はここに来た時点でとんでもないステータスを持っているが、戦闘経験がゼロだから、技量の強化には時間がかかるだろうし」


「そうね。王都の近くにもダンジョンがあるから、そこに潜ればいいわ。あのダンジョンを踏破するにはAランク冒険者が15人必要と言われているから、このパーティーにとっては丁度いい場所ですね」


「あとは前衛と後衛を決めた方が良いわ」


「そうだな……俺とディールとシャノンが前衛、フェリルとユートが後衛、バールは状況を見て、どっちに入るか決める。これが良さそうだな」


「そうだな。ただ、それだとバールの負担が大きくなるから、その役割は時々ユートと変わった方が良いな」


 てな感じで、俺が口を挟む間もなく、どんどん話が進んでいった。

 そして、五日後の話が終わったら、みんなでダンジョンに行くことになった。


「てかさ、ユートってそのレベルで光属性が使えるんだよね? と言うことは、もしかして〈再生(リバース)〉を使えたりするの?」


「ん? 使えるぞ」


 フェリルの何気ない問いに、俺はそう答えた。


「ん? と言うことはお前もしかして死者蘇生が出来るのか?」


 俺の試験が終わってから、やけに視線が好意的になったバールが、そう俺に問いかけた。


「まあな。魔力はめっちゃ使うけど」


 俺は頭を掻きながらそう答えた。


「死んでも何とかなるのは良いですね」


「確かにな。だが、前に本で読んだんだが、蘇生が出来るのは死後五分間だけなんだよな? それ以上経つと、魂が天に上るから蘇生出来ないって聞くけどそれって本当なのか?」


「分からんが、多分本当だと思うぞ」


 俺は心の中で、え、そうなの!?と思いながら頷いた。


「そうなると、ユートはダンジョンの中では魔力を温存するようにしないと駄目だな。ただ、それだとフェリルの負担が大きくなるしなぁ……」


「いや、そもそも万が一を考えて、最大戦力であるユートを蘇生役に回すのは止めた方が良い。魔王戦では蘇生する暇なんてないだろうし、あのダンジョンで死ぬようなら、魔王戦では足手まといにしかならないだろ?」


「そうね。蘇生を考えた立ち回りは止めた方が良いわね」


 その後も勝手に話が進み、俺の役割は、気が向けば回復する後衛となった。

 口を出せと言われても、こういった知識はゼロに等しいので、口の出しようがない。


「それでは、また五日後に会いましょう」


 こうして俺は帰路に着く……はずだったのだが、シャノンに声をかけられて、足を止めた。


「あのさ、ユート。ユートは本当にハイエルフなの?」


 シャノンが俺の目をじっと見つめながらそう問いかけてきた。


「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」


 じっと見つめられたことで、俺は視線を横にそらしながら、そう言った。


「……嘘ね。盗賊を捕縛して情報を聞き出し、アジトを特定した回数が驚異の67回の私を舐めないで」


「その経歴は聞きたくなかった……」


 俺は視線を横にそらしたまま、そう言った。

 ……俺って顔に出やすいのかなぁ……いや、シャノンの尋問の腕前が高いだけだろう。


「ステータス偽装の魔道具を使ったのね。それもかなり高位の物。そして、指にはめているのはステータス隠蔽の魔道具かしら? これもかなり高位のものね」


 ああ、ほぼ正確だよ。シャノンさんは凄いね。これはどうするのが正解なのだろうか……

 ただ、幸いなのは、勘づいているのがシャノンだけということだ。一人なら、どうとでもなる。


「あのね。世の中には知らない方が幸せなこともあるんだよ」


「それ、さっきも聞いたわ。それで、あなたの目的は何?」


 俺の言葉は、見事にスルーされてしまった。まずいなぁ……


「勇者を手伝い、魔王を討伐することだよ」


「……それは本当のようね。それなら、何でそこまでしてステータスを隠すの? 私たちは互いを信用してステータスを見せた。あなたも私たちのことを信用してよ……」


 シャノンの悲し気な表情に、俺はどうしたらいいか分からず、頭を掻いた。


(流石にこのステータスを見せられるわけねぇだろ……あの五人の中で、誰かしらは絶対漏らすって……全員が秘密を守るなんていう都合のいいことがあるわけないんだよなぁ……)


 もう仕方ない。ここはきつく言っておかないと駄目だ。


「シャノン。俺は皆を信用できていない。あの中で、誰かが漏らす可能性があることは否定できないだろう? いや、俺のステータスが普通なら、見せても何ら問題はない。ただ、俺のステータスは結構やばいんだ。流石にこのステータスが広まって、大勢の人から畏怖の目で見られるのは嫌なんだ!」


 俺は〈重力操作(グラビティ―)〉を強めにかけて、シャノンを跪かせた。


「こ、これは……」


「はぁ……こんなことになるのなら、勇者パーティーに入らず、単独で行動し、勇者が魔王と戦う瞬間に飛び入り参加した方が良かったかもなぁ……まあ、今更そんなこと言えないな。あのな、シャノン。俺はみんなから強いと褒められることは結構好きなんだ。ただ、畏怖されるのは嫌いなんだ。あ、絡んできたクソ冒険者等は例外だけどな」


 俺はそう言うと、シャノンに背を向けた。


「ま、まって! 私はあなたのことをそんな目で見ない!」


 シャノンはそう叫んだ。

 俺への気遣いと、信用されていないことへの悲しみが、ひしひしと伝わってくる。


「勇者パーティーのみんなはそうかもしれない。ただ、それが国の王や貴族ならどうだ? Sランク冒険者が何人いても、相手にならない化け物は、消した方が良いと思うんじゃないか?」


 俺でも、隙は必ずある。例えば、食事に即効性の超猛毒を入れられて、〈解毒(げどく)〉を使う間もなく体中に毒が回って死ぬ。あとは、寝ている間にこっそり毒を入れられる。これをされれば、流石の俺でもなすすべなく死んでしまう。


「それに、俺の本当ステータスを見ずとも、魔王に勝つことは出来るはずだ」


 今回の魔王がどれほど強くなるのかは分からないが、勇者と俺がいて勝てないようなら、もうどうしようもないだろう。


「それじゃ、これ以上追及はしないでくれ。今の話はなかったことにしてくれ」


 俺はそう言うと、心残りを感じつつも、帰路についた。

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