第十五話 最後の力
「お前は逃げないのか?」
「逃がしてくれるのかい?」
「いや、そんなわけがない」
俺はシャオニンの言うことを鼻で笑って、否定した。
「さっさとお前を倒して、あいつを追いかけないとな」
俺はそう言うと、世界樹聖剣を横なぎに振った。だが、シャオニンはギリギリのところで上に跳んだことで、俺の攻撃を回避した。
「ん? 何をしたんだ?」
俺は、シャオニンの体が薄白く光り輝いているのを見て、そう言った。
「ああ。これは自身の生命力を代償に、身体能力を三倍に高める禁忌の魔道具だよ。一分で十年分の命を使うし、一度発動したらもう解除できないっていう結構不便なやつなんだけどね」
シャオニンは子供っぽい笑みを浮かべながら、実に恐ろしいことを言った。
そして、シャオニンが、命を引き換えにしてまで俺を殺す。もしくは、時間稼ぎをしようとしていることに気づいた。
「そうか。じゃあ、今すぐ死ね!」
俺は躊躇なく世界樹聖剣を振り下ろした。だが、それは剣によって受け流されてしまった。
(ちっ こいつは〈身体強化〉も持ってるからな……)
ただでさえ高いステータスに、〈身体強化〉と、命を代償にした身体強化を使えば、一切スキルを使っていない俺の攻撃くらいなら、見切ることが出来るのだろう。
「うん。やっぱり君はあの魔法に頼りすぎているようだね。剣術は二流以下ってところかな? あ、初心者に毛が生えたの方が分かりやすいかな?」
シャオニンは、煽り口調でそう言いながら、素早く剣を振り下ろしてきた。
それを世界樹聖剣でガードしたと思ったら、シャオニンの蹴りが、俺のすねに当たっていた。
「ちっ 実に耳が痛くなる言葉だなっ!」
俺はそう言いながら、世界樹聖剣を構えると、鋭い突きをお見舞いした。しかし、それも避けられてしまう。だが、俺の本命の攻撃はそれではない。
「はあっ!」
俺は自分を軸に、回転切りをした。
「くっ」
最初の突きをギリギリで避けていたこともあり、その後の回転切りは避けきれず、シャオニンは腹にそこそこ深い傷を負った。
「それって完全にステータス頼りの戦い方だよね。同じ剣士として恥ずかしいよ」
シャオニンは口調はそのままに、目つきを急に鋭くさせた。その後、シャオニンはポケットから取り出したポーションをかけて、気休め程度の治療をした。
一方、俺は悔しさで涙が出そうになっていた。
(こんなふざけた口調のやつにド正論言われて、何も反論できないのはマジで精神的に来る……)
こうなったらせめて、剣だけで倒すとしよう。ここで魔法やスキルを使うのは、別の意味で俺の負けを意味する。
「せめて剣だけで潰してやる」
「いいだろう。僕の人生最後の相手が技術くそ雑魚剣士なのは腹立つけど、強さだけなら不足なしだからね」
「そうか――はあっ!」
「はあっ!」
互いの渾身の一撃がぶつかった。今の一撃でシャオニンの剣は折れたが、シャオニンは予備の剣を取り出すと、再び切りかかってくる。
この戦いは、この後も少しの間続いた。だが、三分ほど経ったところで終わりを迎えた。
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シャオニン視点
(こいつ、スキルも魔法も一切使わずに、今の僕以上の身体能力を持ってるなんて……とんでもない奴だなあ……)
ただ剣を僕に向かって振り回しているだけなのに、これほどの強さとなると、驚きの言葉すら出なくなってしまう。
(それにしてもこの感触、僕は切られちゃったのかな?)
感覚からして、胴を両断されたのではないだろうか?
それにしても、死ぬ直前の時間って思いのほか長いんだなぁ……
(まあ、結構時間は稼いだからね。後は任せるよ。ディン)
あいつには人望がある。僕とは違い、人を本心から引き付ける力がある。あいつさえ残っていれば、計画を進めることは出来る。
もう一人の幹部、エレンは……何と言うか、組織以外のことを考えている気がする。僕やディンとは違い、組織のことを最優先にしない。多分実家のことについてかな? まあ、ディンが目を光らせてくれれば問題ないね。
さて、最後にこの二流以下の剣士に一言、剣士として、教えてあげよう。
「人の動きをよく見てね……」
その言葉を最後に、僕の意識は途切れてしまった。
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