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第十二話 神の涙ブチコロス

「あのね……実は、ノアちゃんが連れ去られたの……」


 クリスからそう言われた瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。その後、ようやく事態が飲み込めた俺は、本気の殺気を周囲にまき散らしてしまった。


「まだ仲間がいたのか……ブチコロス……」


 俺は血走った眼をしながら、そう決意した。


「くっ……ユート! 落ち着け!」


 ドーラさんの叫びで我に返った俺は、殺気を抑えた。


「ご、ごめん。だが、何故ノアを?」


 ノアは普通の人間の子供だ。そんなノアを、ここを襲撃してまで連れ去る理由が、俺には分からなかった。

 すると、その質問にクリスが答えた。


「多分、ユートを殺すためでしょうね。あいつらは神の涙の連中だった。そして、あの中にティリアンで見かけた異様に強い人族がいた。LV.81で、服装も他のやつと違って、シャオニンって名前のやつ」


 それを聞いた瞬間、俺はとある人物が頭の中に浮かんだ。ティリアンで会って、LV.81で、周りと違う服装をして、名前がシャオニンというやつを――


「ちっ シャオニンとかいうあのふざけた野郎か」


 それにしても一つ、疑問がある。それは、どうすればあそこから僅か一日半でここまで来ることが出来るのかだ。


「なあ、奴らはこんな短時間で、どうやってここまで来たんだ?」


 俺がそう聞くと、クリスは少し悩んでからこう答えた。


「多分、古代遺跡どうしを繋ぐ転移魔法陣を使ったのだと思います」


「古代遺跡にはそんなものがあるのか?」


「はい。ティリアンから五キロ離れた場所、そして、この里から三十キロ離れた場所に古代遺跡があります。ただ、あの転移魔法陣は安全性に問題がある為、使用禁止になっています。なので、無理やり入ったのでしょう」


「そうか……安全性に問題ってなんだ?」


 転移の魔法が使える俺は、安全性という言葉に反応して、そう聞いた。


「はい。それは、転移魔法陣の術式が一部削れているからです。その為、魔力量が多い人が入らないと、空間の狭間でミンチになってしまうのです。あ、ユートさんの転移魔法は魔法陣を使っていない為、こんなことにはならないので大丈夫ですよ」


 俺はそれを聞いて、ホッとした。


「そうか……と言うか、何故俺がここに来るとことが分かったんだ?」


 俺がここに来ることを、口に出したのは衛兵の詰所のみだ。つまり……


「ちっ衛兵の中にも神の涙の連中がいたのか」


 冒険者に神の涙の連中が紛れていた時点で、予想しておくべきだったと後悔しつつも、俺はノアを救助する為に、行動を起こすことにした。


「なぁ、奴らが逃げた方向は?」


「あっちです。北東の方角に逃げました」


 クリスは斜め右を指さすと、そう言った。


「分かった。今すぐ行ってくる。そして、ぶっ潰してやる」


 俺はそう言うと、〈アイテムボックス〉から世界樹聖剣を取り出した。そして、〈身体強化〉、〈風強化(ブースト)〉、〈気配察知〉を使うと、全速力で北東に向かって走り出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 時は少し遡る


 ディン視点


「よし、着いたか」


「は~やっぱり転移魔法陣は便利だよね~」


 俺とシャオニンは、精鋭を連れて、エルフの里から三十キロ離れた場所にある古代遺跡に転移した。因みにティリアン側の転移魔法陣を守っていた奴らは皆殺しにした。


「ね~え。先回りは大事だけどさ、これだと少なくとも十日ぐらい待ちぼうけする羽目になるんだけど」


 シャオニンは襲ってくる魔物を面倒くさそうに倒しながらそう言った。


「だが、これ以上失敗することは出来ないだろう? それに、あれほどの強さを持つものなら、勇者パーティーに選ばれる可能性だってある。それで我らが神の手を煩わせるようなことがあったらどうする?」


「分かってるって。取りあえず隠れ家に行くよー」


「分かった」


 俺はため息をつきつつも、隠れ家へと向かって走り出した。




「ねぇ、何でもうあいつらがいるの?」


「まさかあいつらも古代遺跡を使ったのかよ……あれ、バレたら十年は牢屋から出られないやつなんだぞ」


 俺は隠れ家にある鏡を利用したのぞき窓から、里方向に向かって走る奴らを見た。


「まあ、先回りをしたのは正解だっただろ?」


「う~ん……君の予想が当たったのはなんか癪に障るな~……ねえ、十秒だけ殴ってもいい?」


「おい! 何言ってんだよ! 殺す気か!」


「え~君にはあのスキルがあるんだし、ちょっとぐらいやってもいいじゃん」


「それでも痛いのは変わらないんだよ! それに、お前の一撃は、当たり所が悪ければ治らないぞ! それをやるんだったらユートにしろよ!」


「うん。それもそうだね」


 ボコボコにされるのを回避した俺は、安堵の息を漏らした。




「よし、ユートが囮に喰いついたと、通信石で連絡が来た。さっさと行って、あのガキを奪うぞ」


「うん。ちょうどあのハイエルフと仲良くしているみたいだしね」


 残念だが、あいつに真っ向から戦って、勝つことは無理だと思っている。だから、俺達はエルフを連れ去って、そいつらを餌にすることで、ユートをあの里から引っ張り出すことにしたのだ。そして、その隙に、あいつが大事にしている子供を攫う。完璧な作戦だ。


「よし、行くぞ!」


「おっけー」


 俺達はそう言うと、一斉に里の中に侵入した。エルフに害をもたらす者を拒絶する結界でこの里は覆われているが、俺達はあの人族のガキにしか害意を向けていない。その為、入ることが出来たのだ。


「では、はあっ!」


 シャオニンはあのハイエルフに一気に近づくと、素早くガキを奪い取った。流石は元帝国騎士団長と言ったところか。

 あのハイエルフの女は、魔法をアホみたいに撃ってきたが、冷静さを失った人が撃つ魔法何かに当たるほど、俺達は弱くない。

 その為、俺達は難なく逃げ帰ることが出来たのだ。





「ふぅ……それにしても、いつ探しに来るのかな?」


 そう思った瞬間、天井が崩れた。

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