第一話 ノアに撃ったな…
「よっと、着いたぞ」
「え……この森の雰囲気。もしかしてグランの森!?」
クリスはグランの森に転移した瞬間、驚いた様子で、辺りをキョロキョロと見回していた。
「ま、そういうわけだ。で、ここから先は知らないから、案内してくれないか?」
「わ、わかったわ……というか、ユートさんは転移魔法が使えたの!?」
クリスは、俺の両肩を掴むと、俺のことを強めに揺らしながら聞いた。
「そ、そうだよ。ま、これは〈空間操作〉ってやつなんだけどね。あと、そろそろやめてくれ。ノアは喜んでるけど、俺はヤバい」
ノアは、俺の腕の中で笑っていた。感覚としてはブランコのようなものなのだろうか?だが、俺の場合は、首をガコンガコンされているので、止めてほしい所だ。
「あ、ごめんなさい」
クリスは恥ずかしそうに頬を赤くすると、背を向けた。
「そうですね……太陽の位置から考えて、あちらが里の方向ですね。では、ついてきてください」
「ああ、分かった」
俺は頷くと、〈結界〉で、ノアにかかる空気抵抗をなくしてから、走り出した。
「……ユートさん。凄く速いですね。〈風強化〉を使っている私に息を乱さずについてこれるなんて……」
「まあ、クリスよりステータスが高いってだけのことだ」
「ええ、そうなんですけど、私、足の速さには結構自信があるのですよ。それで負けたのはちょっと心にくるというか、何と言うか……」
「な、何かすまん」
クリスが急に落ち込んだのを見て、俺は慌てて謝った。
「い、いえ。こちらこそ、気を使わせてしまって申し訳ないです。ユートさんはきっと数多くの魔物を討伐したのでしょう? その努力を考えれば、出てくるのは嫉妬ではなく称賛ですよ」
クリスは俺の方を向くと、ニコッと笑った。
俺は頬を赤くしつつも、「あ、ありがとう」と答えた。
「ん~そろそろ着きそうですね。もう既に夜に危険な魔物が出現するグランの森は抜けました。今はエルフの森にいます。ユートさんが予想以上に早かったお陰で、日が暮れる前には着きそうです」
「まじで? 思ったよりも早かったな」
俺はもうすぐ、ファンタジーの代名詞とも言える、エルフの里に着くことに喜びを抑えられず、思わず笑みを零した。だが、その次の瞬間、
――ヒュンヒュン
「!? うわっと」
近くの草むらから、二本の矢が放たれ、俺の元に飛んできた。俺は無心で走り続けたせいで、〈気配察知〉を使った周辺調査を怠っていたことを反省しつつも、その矢を華麗なバックステップで躱した。
(それにしても、とてつもない精度だな……)
二本の矢は、それなりの速度で走っている俺の頭と足を、正確に狙って放たれていた。俺は、その精度の高さに驚愕した。
すると……
「おい! 何故お前が第二王女様を連れている!」
「やめろ! 人間に会話は無意味だ。恐らくこの人間は第二王女様を道案内役にして、他の仲間を攫いに来たんだ」
「ああ、何度もあったからな。『助けてやりました』は通用しないぞ!」
草むらから、四人のエルフの男性が出てきた。そして、二人は素早くクリスを担ぎ、残り二人が俺に弓を向けた。
「や、止めなさい! 彼は私を助けてくれたのです。彼に手を出すことは許しませんよ!」
クリスはそう叫んだが、四人は頭に血が上っている状態のようで、その声は耳に入っていないようだ。
「死ね! くそ人間!」
そう言われて、放たれた矢が飛んでいく先は、あろうことか熟睡中のノアがいる俺の胸元だった。さっきの精度からして、こいつらはノアを殺そうとしたのだろう。こいつらに襲われたことで、解除してしまった〈結界〉を張り直したことで防げたが、この時、俺は流石にキレた。
「おい。テメェら! ノアに撃ったな……」
俺は本気の殺気をまき散らしながら、二人を睨んだ。
「な、なんという殺気……」
「だ、だが、同胞の為にも、引くわけにはいかない!」
二人はそう叫ぶと、再び矢を、今度は俺の頭めがけて撃ってきた。だが、それも俺は少し横に動くだけで回避した。
「それが答えか……反省しろ。重力操――」
俺が〈重力操作〉で全身の骨を砕こうと思ったその瞬間、矢を放った二人の男は、クリスの強烈ビンタをくらって倒れ込んだ。その光景を見て、我に返った俺は、〈重力操作〉の発動を、慌てて取りやめた。
「な、何故……」
そう呟いた男の頬を、クリスはまたパチーンと叩いた。
「彼は私を助けてくれたのです。それで、私は彼をもてなそうと思い、里に招待したのです。つまり、あなたたちは私の客人を殺そうとしたことになるのだけど……」
クリスは睨みながら、淡々と四人に説教をした。
クリスに説教されたことで、ようや冷静になれたのか、四人は一斉に土下座した。
「「「「こ、此度は大変申し訳ございませんでした!」」」」
「わ、分かった。許す」
あの時の冒険者と同じぐらい美しい土下座をした四人を見て、俺は自然と許してしまった。やはり土下座は許しを請う上では、最大の武器になるのだと、改めて思い知らされた。
「では、あと少しだから行きますわよ」
「分かった」
俺は頷くと、エルフの男四人と共に、再び走り出した。
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