番外編 遊園地へ行こう!②
「キャーーー!!!」
「あwsdrfgyふじこlp;@:!!!」
「あっはっはっ何言ってんだウォルトー!」
「すっごい気持ちいー!!」
「…………」
私たちはまず、夢の国スタジオで最も人気のあるアトラクション、『マジックショックコースター』に乗ることにした。
“魔法使いに魔法をかけられて空を飛ぶ“というコンセプトで、足元がない屋外タイプの難易度高め絶叫系アトラクションだ。
スカイタワーで騒ぐほどのウォルトにはかなり無理めかと思っていたけど、なんと本人が「乗る!」と言って聞かず、みんなで乗ることになった。
なんだろうね、仲間外れが嫌だったのかな?
『マジックショックコースター』は大体のジェットコースターがそうなように、2人掛けの席に座るタイプ。
5人と遊園地ではかなり不利な人数で来てしまったから、きちんと平等にグッチッパーで別れて、前からウォルトとニコラス、私とシリル、そしてトラヴィスは一人という感じで座ることになった。
ていうかあれだね。
グッチッパーも最初は「なにそれ?」だったのに、随分と慣れたものだね。
王太子や高位貴族の彼らがグーとかチーとか言ってるの、なんか可愛い。
ってそんなことはどうでも良くて、やっぱりダメだったかウォルト!
そしてトラヴィス! 後ろからなにも聞こえてこないけど!?
生きてる!!?
私は結構絶叫系好きだから楽しいけど、楽しんでるのニコラスとシリルだけじゃない!?
そんなこんなで『マジックショックコースター』を降りたら、案の定、ウォルトとトラヴィスが屍に成り果てていた。
「大丈夫? 初っ端からハードなの行き過ぎたよね……ごめんね」
「いや、すまない……まさかあれほどのものとは……少し休めば……うぷ」
「目が〜目が〜」
完全に顔色を無くしているトラヴィスと、いまだに目を回しているウォルトが痛々しい。
コースターの近くのベンチに座り、背もたれに完全に体を預けて2人ともぐたりとしている。
ハンカチを濡らしておでこに当ててあげたりしているけれど、なかなか気分は良くならないようだ。
「私、飲み物買ってくるね。みんなの分買ってくる」
何かスッキリする物でも飲んだ方がいいだろうと思い、私はカバンから財布を取り出した。
「えっ! じゃあ僕も!」
「シリルじゃ非力だから何個も持てないだろ? 俺が行く」
すぐに腰を浮かしたシリルを押し留めて、ニコラスは「行くぞ!」とニコニコ顔で私の手を引いて歩き出した。
後ろから、シリルの「ちょっと待ってよ〜!」という声が聞こえる。
ニコラスにしては、随分と押しが強くて驚いた。
なんだかんだ、結構周りをよく見ているし、空気を読んで気を使うことも多いのに。
ちらりとニコラスの顔を覗き込んでみたら、本当に楽しそうにニコニコと笑っていた。
「いや〜! あれは楽しかったな〜! あんな乗り物初めて乗ったぞ!」
「そうだろうね〜。向こうの世界に遊園地はないもんね」
「作れたらいいな! きっと子供たちは大はしゃぎだぞ!」
そう言うニコラスの顔は本当にキラキラしていて、遊園地にはしゃぐフロース王国の子供たちを思い浮かべているのだと思う。
トラヴィスだけでなくて、ニコラスもフロースのことが好きなんだな。
ニコラスが騎士として熱心に鍛錬していたのは、「家系が〜」とかそれだけじゃなくて、きちんとフロースのことが好きだったからなんだろう。
「いいね。遊園地、作ってあげたいね」
私は心から、そう思った。
カウンターで注文するタイプのショップが近くにあったから、2人でそこに向かった。
けど、結構人が並んでいて、列に並ぶ。
もしかしたら自販機探した方が早いかも?
「私、近くに自販機ないか探してくるね! ニコラスは並んでてくれる?」
「おう! 分かった!」
もう買い物だって問題なく一人で出来るし、スマホも持ってるし、ニコラス一人にしても大丈夫だ。
ただちょっと、女性が近付いて来ないかだけが不安だから、なるべく早く戻ろうと小走りに探しに行く。
きょろきょろしながら歩いていると、急に後ろから肩を叩かれて驚いた。
振り返れば、ニコニコしている全く知らないお兄さん、たち。
お? これはまさか……。
「ねえ君一人? 最近は一人で来る子も多いって言うもんねー?」
「もしかして年パス持ち? 俺たちあんま慣れてなくてさ。案内してくれない?」
「君可愛いから一人じゃ危ないよ? 俺たちと一緒に居た方がいいと思うな!」
いやいやいや。
あなたたちこそ危ないですから!
もしかしてナンパ? ナンパなの!?
もう久しくされてないから忘れていたけど、これはもしかしなくてもナンパなの!?
夢の国スタジオですんなよナンパ!!
「いえ友だちと来てるので〜」
私はゆっくりと彼らから距離を取るも、急にガッと手首を掴まれた。
あ〜〜〜あかん。
この人たち、やってはいけないことが分からない人たちだ。
最初に肩を叩かれた時から、薄々分かってはいたけども!!
「ねぇ、ちょっと冷たくない?」
「俺ら悪い奴じゃないよ〜?」
「その友だち女の子でしょ? 俺らと一緒に回ろうよ!」
「ちょっ……痛い!!」
「お前、その手を離せ」
まるで地を這うような低い声が聞こえたかと思うと、大きな手が私の手首を掴んでいた男の手を捻り上げた。
「ニコラス!」
「痛てててて!なんだよおま……」
男たちは上を見上げて、固まった。
……そりゃそうだ。
筋骨隆々な背の高いヨーロッパ系外国人(しかも異次元級の美形)にここまで凄まれたら、大抵の日本人男性は怯むと思う。
私、こんなに怒ったニコラスの顔見たことないや。
ああ、いやあの卒業パーティーの時もこれくらい怖いかったかな?
ううん、きっと今の方がすごい怖いかも。
「失せろ」
トドメの一言。
ニコラスの凄みの効いた声を聞き、男たちは一目散に去っていった。
まー、見事。
脱兎の如く、という逃げ方、初めて見たかも。
「ありがとうニコラ
「大丈夫だったか!? 怪我ないか!? すまない、俺が行けば良かったよな!!?」
そう言ってニコラスはうるうると瞳を滲ませている。
最近分かってきたけど、さてはニコラス、涙腺が緩いな?
「大丈夫大丈夫。手掴まれただけだし。びっくりはしたけどね」
「嘘付くな。顔を見れば分かる」
そう言われて、初めて気付いた。
顔に変な力が入ってる。
自分のおでこを触ったら、眉間に皺が寄っているようだった。
それに……手が少し震えていた。
無意識に、恐怖を感じていたのかも。
「……きっと、俺のせいだよな。本当に、謝っても謝りきれない……」
「ははは! 大袈裟だよ。私が自分で探しに行くって1人で来たんだよ? それにまさか夢の国スタジオであんなことする人がいるとは思わなかったし。ニコラスのせいじゃないよ」
「違う。蘭が、それだけ恐怖を感じた理由だ。きっと、卒業パーティーのことが影響しているんじゃないか?」
ニコラスにそう言われて、ハッとする。
……確かに。
あっちの世界に行く前にも、こういうことはあった。
でもこんな震えるようなことはなかったはずだ。
ここまで恐怖を感じているのは、確かに、あの卒業パーティーの記憶があるかもしれない。
気にしてないつもりだった。
あの時はどうせこうなるだろうと諦めていたし、どうでもいいと思ってた。
けど、あんなに大勢の前で引き倒されて、怪我をして、男性に囲まれるのは、私の心の傷になっていたんだ。
いくら誰にも期待してなかったとはいえ、傷付いた。
悲しかった。
怖かった。
そう、怖かったんだ。
自分でも自覚していなかったけれど、ニコラスに腕を掴まれて肩を脱臼したという経験は、私の中でトラウマになってしまっていたみたいだ。
「あの時は……早くクローディアを捕まえなければという気持ちが急いていて、必要以上に力が入っていたんだと思う。怪我をさせるつもりなんてなかったんだ。でも冷静に考えて、お前は逃げようともしていなかったし、あんな風にする必要なんて全くなかった。はっ何が騎士だよ、笑わせる。か弱い女性を傷付けて、こんな……こんな風に恐怖を植えつけて、俺は……俺はっ……!」
そう言ってニコラスは、ついにぼろぼろと涙を流し始めた。
「すっすまない……。俺が泣いたらお前が怒れないだろって、前もシリルに言われたのに……。俺は泣く権利だってないのに……。すまん」
腕でごしごしと涙を拭って、必死に涙を堪えようとしている。
ああ、本当に後悔してるんだな。
ニコラスは元々正義感も強いし、気配り屋さんだから、色々な誤解が解けた今、本当に本当に後悔しているんだろう。
シリルには「許す必要なんてない!」って言われたりしたけれど、私は、私は許したいと思う。
私だって早々に諦めたりせずに、みんなと話せば良かったんだ。
勝手にゲームの世界だろうと思い込んで、テンプレ登場人物だと決めつけて、会話することを怠った。
それは私の落ち度だ。
確かに、だからと言ってあの卒業パーティーでのことを忘れることは出来ないけれど。
それでも。
「ニコラス。泣かないで。確かに、あの日のことは忘れられそうにもないし、すごく怖かったし、痛かった。でも、今ニコラスが心から後悔して謝ってくれてるのは分かるよ。だから、もういいよ。大丈夫」
私は出来るだけ優しく、笑顔で言った。
ニコラスに私の気持ちが伝わるように。
「ううっ……! 蘭……! すまない……本当にすまなかった……!!」
涙を拭った筈の瞳からまたぼろぼろと涙をこぼしながら、ニコラスは子供のように泣いた。
本当に、真っ直ぐな人だなと思う。
大きな体に似つかないほど繊細で、気が回って、優しい人。
私は、こっちの世界に帰ってきてから、ニコラスのことがとても好きになった。
こんなに素敵な人だとは、思ってなかった。
……けど、さすがに道の真ん中で筋骨隆々な男性にわんわん泣かれるのは、マジで困る!!!
「ニコラス! 分かった! 分かったから!! もう泣き止んで〜大丈夫だよ〜。ほらめっちゃ見られてるから! 行くよ!!」
「うっ……ごめん。今泣き止むから……。泣き止むから〜あぁ〜」
私は余計に泣き出したニコラスの手を引いて、道行く人の痛い視線から逃れるようにその場を後にしたのだった。
結局飲み物が買えていなかった私たちは、見つけた自販機でペットボトルを買って、足早にトラヴィスたちの元に帰った。
ニコラスは列に並びながら私が絡まれているのが見えて、急いで駆けつけてくれたらしい。
……結構遠かったのに、よく見えたな。
視力まで良いんだなニコラスは。
私の分まで含めてペットボトル5本を悠々と持ってくれる。
流石に力持ちだ。
で、みんなが居るベンチに戻ったら、少し回復したらしいトラヴィスとウォルト、そしてぷくぅと頬を膨らませているシリルが居た。
「遅〜いっ! 何してたのさ!!」
「えぇっと……特に何も? ねえニコラス」
「おっおう。何も何も」
「怪しい……」
ニコラスはじとりと睨むシリルを尻目に、トラヴィスとウォルトにお茶を渡して、私も蓋を開けて一口飲んだ。
私が絡まれたなんて言ったらシリルは心配するだろうし、公共の場でわんわん泣いたなんて、ニコラスにとっても不名誉だろうしね。
そう思ってシリルからわざと視線をずらしていたら、ニコラスとばちりと視線が合った。
するとニコラスは真剣な表情で、口を開いた。
「蘭。お前を傷付けた分、これからは絶対に、俺が守るから」
しん、とその場が静まり返る。
グロッキーなトラヴィスとウォルトまで固まっている。
トラヴィス! お茶! お茶が溢れてるよ!!
「なっ何それ〜!!? やっぱり何かあったんでしょ2人とも!! 姉さん隠さないで教えてよ!!」
「いやっ! 本当に何もないって!!」
「おい……ニコラス、その役目は婚約者である俺の役目だぞ」
「ちょっとトラヴィスは黙っててよ! ニコラス! 姉さんに何したんだよ!」
「いや何でも。はははは!」
「何笑ってんだよ〜!!!」
急に騒々しくなるみんなに、何だかおかしくて私まで笑ってしまった。
「〜〜っ!! 言っとくけど姉さん! ニコラス料理超ヘタだからね!? この間目玉焼き丸焦げにしたの覚えてる!!?」
そんなよく分からないことを叫ぶシリルがまたおかしくて、また笑った。
本当は、ニコラスの言葉に少しドキリとしたのは内緒だ。
騎士に憧れる女性の気持ちが、ちょっとだけ、分かった気がする。
なんてね!
さあさあ!
トラヴィスとウォルトも復活したようだし、次行こう!!




