番外編 遊園地へ行こう!①
お久しぶりです。
随分時間が経ってしまいましたが、本編とは関係ない番外編を書いてみました。
第11話から第12話の間の話だと思っていただければと思います。
全4話の予定です。
よろしくお願いします。
私たちは万全の準備で今日という日を迎えた。
事前の予習もバッチリしたし、準備は昨日のうちに全部整えた。
よし。行くぞ。
「初めての夢の国スタジオ! いざ出陣!!」
「「「「おー!」」」」
東京に出て電車を乗り換え数十分。
この駅で降りる人の目的地は、大体同じ。
「東京夢の国スタジオ」と呼ばれるテーマパークだ!
「東京夢の国スタジオ」は、海外のアニメーション映画シリーズをモチーフにしたテーマパーク。
映画マニアのトラヴィスは、アニメーション映画も当然のように嗜んでいて、映画の世界が体験出来るテーマパークにかなり興味があったようなのだ。
ある日、珍しくトラヴィスがそわそわしながら、夢の国スタジオのサイトを見せてきた。
さも「興味はありませんけど後学のために」みたいな風を装って、『蘭は行った事あるか? その……どんな感じなんだろうか』って聞いてきたその顔に「めっちゃ行きたい」って書いてあったので、思い切って週末、みんなで行くことにした。
決して私が行きたかったからじゃない。
いや、嘘です本当はすごく行きたかった!
フロース王国のある向こうの世界って、娯楽の種類が少ないんだよね。
特に貴族は。
オペラ観に行くか、音楽聴きに行くか、絵画を観に行くか、夏にほんの少し船遊びをするくらい。
現代日本で平均的な女子大生をやっていた私からすると、ちょっと高尚なのよ娯楽が。
いや行ったら行ったで楽しいんだけどさ、常にこう、フレンチのフルコース的な娯楽ばっかりじゃ胃もたれしちゃうんだよね。
軽くしようとすると本を読むか刺繍をするかっていう、インドアなものになっちゃう。
みんなでワーキャー言いながら楽しむことをしたかったのよ! 私は!!
向こうの世界でボッチだった私には、そもそもそういう相手がいなかったけども!!
とにかく、夢の国を存分に楽しむために、まず予習としてモチーフになっているアニメーション作品を一つ一つ見ることにした。
せっかくテーマパークに行くのに、「お前誰なん?」ってなったらつまんないもんね。
実は私自身、ちゃんと観たことのない作品もたくさんあって驚いた。
断片的な映像を何度も見ていると、何となくで理解してるもんなんだね。
予習をバッチリしたら、今度は夢の国スタジオの下調べ。
私自身、内面的にはもう20年近く前に行ったきりだったから、どんなアトラクションやフード、ショーがあるのかを確認して、開園時間の始まりから終わりまでフルで時間を使うためしっかり予習した。
私はチケットの事前手配や電車の乗り継ぎ時間をバッチリ調べたし、ウォルトは園内の地図とショーの時間を全て暗記したし、シリルはアトラクションの待ち時間がリアルタイムで分かるアプリを落としたりSNSを駆使した情報戦略を立てていたし、トラヴィスはとにかくウキウキしていたし、ニコラスはいつもに増して筋トレしていた。
まるで私たちは決戦に赴くかの如き気迫で、その時を迎えたのだ。
夢の国スタジオの最寄り駅に降りた瞬間。
独特な音楽と景色にどんどん気分が上がっていく。
まだ開園までしばらくあるけど、もう既に長蛇の列が出来ていた。
チケットは買ってあるから、私たちは列の一番後ろに並ぶ。
早くも周りの女子たちがざわざわと騒ぐ声が聞こえてきたので、彼らの前に立ちはだかり「声をかけるなら私を倒してからにしろ」という雰囲気で威嚇する。
すっごい白い目で見られてる。
当然の反応だけど、ちょっと傷付くのよ……。
「すごい人だな。ここはほとんど毎日やってるんだろ? いつでも来られるのになんでこんなに人が多いんだ?」
ニコラスが周りをキョロキョロしながら首を傾げる。
確かに、あっちの世界ではこんな人出は年に一度の建国祭くらいでしか見かけない。
まあ確かにね。
向こうの世界では観光地には人生で一度しか訪れないことも多いし、そう思うのも無理はない。
「とにかくリピーターが多いのよ。人によっては月に何回も来ることだってあるし。それに日本中から来てるからね、人」
「そんなに面白いの!? うわー楽しみ! ニャッチーに会えるかな?」
シリルがキラキラした瞳でゲートを見つめている。
ちなみにニャッチーとは、夢の国スタジオのシンボル的キャラクターのことだ。
青いパンツにオレンジのサスペンダーと蝶ネクタイを付けたアメショ猫で、園内には銅像も立っている。
ちなみに彼のガールフレンドはニャミーという青いドレスの同じくアメショの猫である。
「これだけ多くの人の心を掴んでいるとは、その戦略には脱帽ですね。私も楽しみです」
「徹底した世界観の構築がされているとネットに書いてあったな。どれほどのものなのか興味がある。フロースでも活かせるものがあるかもしれない」
一見冷静に落ち着いた会話のように思えるウォルトとトラヴィス。
けれど本当に冷静なウォルトと違って、興奮とワクワクが抑えられてないぞトラヴィスくん。
そんなこんなでついに開場のアナウンスが入り、一斉にゲートの中に入っていく。
すると、ゲートの前にニャッチーとニャミーが出迎えてくれていた。
久々に見た生(?)ニャッチーとニャミーだ!
と興奮していると、私の横をすごい勢いでシリルとニコラス、そしてトラヴィスが駆けていく。
「うわーふわふわだ! すごい可愛いー!」
「よく出来てるなこれ! 重くないのか!?」
「すごい……! 本物だ……!」
列を無視してニャッチーたちに駆け寄り、明らかにマナー違反な3人を慌てて連れ戻そうとする。
けれど次元違いの美男子たちの登場に、写真を撮ろうとしていた女子たちも、何ならニャッチーたちも呆気に取られている。気がする。
とはいえマナー違反はマナー違反。
3人の腕を引っ張って写真撮影の列の後ろに並ぶ。
「急に寄っていっちゃダメ! 写真撮るのも順番なんだから!」
「全く。いい年をした男性が恥ずかしい」
ウォルトが腕を組んで溜息をついているけれど、一応君達はティーンだし、いい年は言い過ぎだと思うよ。
周囲から痛いほどの視線を集めながらなんとか順番を守って写真を撮った。
何だろう、なんとなくニャッチーたちの距離が異様に近い気がしたのは気のせいかな。
なんてね! まさかニャッチーがここぞとばかりにイケメンに触れようとしてるとかそんな、下世話なことをするはずがないよね!
と言い聞かせながら、まずはお土産屋さんに行く。
夢の国スタジオに来たら、あれをやらないとね!
「ほ、本当にこれを着けるんですか……?」
ウォルトが例のブツを手に取りながら、明らかに引いた顔をしている。
「えー? 可愛いじゃん! 見て見て似合う??」
そう言ってシリルが身に付けているのは、カチューシャ型のニャッチーの耳だ。
も〜〜〜めちゃんこ似合っとるわ!
アッシュグリーンの髪にアメショの耳がまた合う!
何? うちの弟可愛すぎない?
あざとい! あざと可愛い!!
「楽しむ時には目一杯楽しんだ方がいいぞ! 色々種類があるし!」
そう言うニコラスは、ニャッチーの友達の犬のバッキーの耳を付けている。
バッキーはダックスフントなので、茶色い垂れ耳だ。
これまたなかなかに似合っているではないか。
「周りを見てみろ。皆付けている。郷に入らば郷に従えと言うだろう」
トラヴィスは冷静な声で言うけれど、誰よりも派手なニャッチーの耳(王様ver)を付けている。
……なんだろう、王子だからか、チープな王冠でも随分と高貴に見えますね?
しかし、随分と大きさがあるな……。
そんな浮かれている面々を前に、ウォルトはまだ少し逡巡しているようだ。
「まあまあ。抵抗があるのも無理ないよ。むしろなんでシリルたちは抵抗ないわけ? あ! でもじゃあウォルトこれは? ニャッチー型の眼鏡!」
カチューシャの棚とは別の所にあった、眼鏡の縁がニャッチーの形になっている眼鏡を見つけた。
今ウォルトはコンタクトだし、耳カチューシャと比べれば控えめなデザインだ。
ウォルトの反応を窺ってみると、眼鏡を手にしたままふるふると震えている。
や、やばい……!!
もしやウォルトは眼鏡に並々ならぬこだわりがあったのでは……?
もしや眼鏡を侮辱されたと怒っているのでは……!?
「あ、あははは! 嘘うそ冗談! 無理につける必要ないよね! ウォルトはそのまま行」
「素晴らしい!! この洗練されたデザイン!! 私はこれにします!!!」
お、おう……。
思わずウォルトの圧に一歩引いてしまった。
ウォルトは嬉しそうにそのニャッチー眼鏡をかけて、何度も鏡でチェックしている。
確かに彼は眼鏡にこだわりがある様だ。
その上で気に入ってくれたから……まあ良いか。
「ところで蘭は何にするんだ?」
「姉さんはニャミーだよね? ほら取っておいたよ!」
何やらもじもじしながら聞いてくるトラヴィスを尻目に、シリルはニャミーの耳カチューシャを差し出した。
どうやら今シリルが身に付けているものを同じシリーズのもののようだ。
なんだなんだ姉弟でお揃いにしようなんて、シリル可愛いやつめ。
そう思っていると、ずいっと大きめの王冠が視界に入ってくる。
「蘭はこっちの方が似合うんじゃないか? ニャミーの耳が似合うのは間違いないが、この王妃タイプの方がより気品があって良いだろう」
トラヴィスがそう言って彼と同じシリーズのニャミーの耳(王妃ver)を差し出してきた。
いや……どうかな。
確かにまだトラヴィスの婚約者なんだけど……でもこの日本人顔の蘭ちゃんがその王冠を被っても、ただのチープなおもちゃにしか見えないと思うんだ……。
しかしなんだろう。
シリルとトラヴィスの間に火花が散っているような……?
「ごめんね! 実は私もうこれに決めてるんだ!」
私はそう言って、クリーム色のウサ耳カチューシャを取り出した。
これはニャッチーの友達のシトロンというウサギのキャラクターで、実は密かに好きなキャラクターだったりする。
異世界に行く前はそんなに好きだった訳ではないのだけど、みんなとアニメ映画を見ていたらその可愛さにハマってしまったのだ。
だから最初からこのカチューシャに決めていた。
「どう? 似合う??」
私はカチューシャを付けてみんなに見せた。
すると、何故かシリルとトラヴィス、それにニコラスまでバッと音がする勢いで顔を背けてしまった。
ウォルトだけが「これはなかなか……」と、やけにしげしげと眺めている。
え? なに?
そんなにしんどい?
年甲斐もなくウサ耳とかしんどかった??
でも一応ピチピチのハタチなんだけど……10代の少年たちにとってはハタチも十分キツいってか?
やさぐれた気持ちになったけど、絶対自分を曲げないぞという決意をもってシトロンの耳をかぶり続けた。
誰も何も言ってくれないけど、悲しくなんかないもんね!!




