昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・二十五
「「いーちめーいさあああーん!! ぶぅえっ!?」」
いちめいの影から飛び出したみどりとかげりは揃って防御壁に激突した。いちめいの影の位置が壁ギリギリだったからね。
「だ、大丈夫か?お帰り、みかげ、かげり、えき、みどり」
「「イタタ……大丈夫!! たっだいまー!!」」
「ただいま帰りまし「メ゛ェ゛エ゛ー」」
えきが小脇に抱えているものに部屋の視線の半分が集中した。鳴き声でお察しの通り、山羊だ。「皆様に栄養が必要だと思いましたので」と澄まし顔のえき。
いちめいが「何処から連れて来たんだ……」と引いてるよ。それと、うしおが「一杯くれ」ってさ。うしお、戦いは終わったよ。そろそろ起きたらどうかな?
もう半分の視線はぼくの目の前にいるぼくより小さな子だ。色とりどりのクッキーが並んだ大皿を手に、ぼくを上目遣いで見ている。近い。ぼくの胸に皿が当たりそうだ。
「た、ただいま。……あのね、みどりだよ。みどりのクッキー食べる?どの味が良い?」
この子がみどり。何故ぼくに?けどなんかしようって感じの悪い気配は無いから良いか。
「ありがとう。ぼくはしゅゆ。この薄茶色いの何味?」
「キャラメルだよ。塩キャラメルもあるよ」
「へぇーキャラメル味、初めて。ぼくキャラメルにしたい」
「どうぞ」
一枚手に取る。口に運ぶ前に皆がわらわら集まって来た。
「あーいいなー! みかげも食べたーい。抹茶がいー」
「かげりはざらめがいー」
「自分は苺ジャム入りが食べたいです」
「ワタクシ、チョコ味を所望します。たいしょ、あなたはバターでしょ?」
「なんでオレの食べたいもんをアイツはいつもいつも当ててくるんだ……怖くなって来た」
「ぎたいはそんなものだよ。みどり、改名したんだ。きしゅう改めいちめいとなった。呼んでくれないか」
「いちめいさん……! 良かった! はい、マーマレードジャムクッキー。あれ?いちめいさん、みどりの伯母さんに会ったんだね」
「ありがとう……おばさん?オン村地区本部にか?」
「ううん、人間だけではいけないところ。その子が居る所の手前」
みどりが見たのは、いつの間にかいちめいのおでこに引っ付いていたそらだ。
「そらが?まさか道を直したのは、君のおばなのか?」
「うーん、直したのは誰か分からないけど、伯母さんの“力”の気配がいちめいさんとしゅゆちゃんからするよ。みどりのお母さんのお姉さん。みどりは小さい時に一度しか会ったことないんだけど、“力”が特殊だから分かったよ」
「へぇ、世間って狭いね」
「そうだな」
「あ、みどり! あんたもアピールしなきゃ! あのおっかない人に。あの人、いちめいさんの上司になったから」
みかげがらいあを指差してえきがその指を握るように折り曲げた。あ、当然正しい方向に曲げてたよ。
「ア、アピール?出来るかな?えっと、こ、こんにちは。み、みどりです。えっと、えっと、あの、クッキー食べますか?」
ガクッッ! と膝を折るいちめい一同。仲良いねえ。
「いただこう。私はらいあだ。あまり甘くないものはあるか?」
「それなら、塩味と醤油味と味噌味と玉葱味と鰹節味があります」
「では味噌を。ありがとう」
「どういたしまして。あの、あの、みどりは料理得意です。でも、これくらいしか出来る事が無いんです。“力”も永久アトリエに関する物だけで、えっと、あとは、原材料とその割合が解る事と、絵を画家の癖まで模倣出来ます。あとは……あっ、食べ物なら香りだけでも、大体は分かります」
「ふむ、味噌クッキー、旨かった。ご馳走さま。では、この飴は何で出来ていると思う?香りで当ててみよ」
らいあはクッキーを一口で食べると、帯に挟んでいた楕円形の石を取り出した。継ぎ目の無い鈍く光る白い石で掌の八割を占める大きさ、厚さは親指の横幅と同じ。だいぶ使って減って、角が取れて平たくなった固形石鹸みたいでツルッと手から滑りそう。何処から飴が出て来るかと思いきや、楕円の先端から細い棒がシュッと出て来た。周りの景色が映る程透明度の高い、若草色の艶やかな棒。らいあはそれを指で摘まんで引っ張って出した。
「これが飴だ」
それが飴なの?色ガラスかと思った。
「うーん?昆布出汁一割、鰹節出汁一割、煮干し出汁一割、あとは薬草です。トイキ草二割、トコトコ花二割、ユルユル草二割、そしてカタメ草一割」
「正解だ。みどり、絵の道具はあるか?」
「はい、ここに」
「用意せよ。うしお」
「なぁーにぃ?」
床から聞こえる返事。うしおまだ寝てたの?
「ちいと絵を描いてくれんか?小そうて良い」
「良いよーなんの絵ー?」
「お前が描きたいものがあればそれを」
「あいよー」
うしおは何もない空間から絵筆を手に取った。
え、寝たまま?絵の具垂れないかな?あれ、紙は?
部屋中に疑問符が浮かんだのを肌で感じ、その疑問符が感嘆符に変わる瞬間も体感した。
うしおは空に描き始めたのだ。
「えっ、空中に描いてる……」
「すごーい」
ざわざわざわざわと部屋の空気が今日一番に揺れている。けどこの揺れ、絵を空中に描いてるからじゃない。うしおが何かしてるってところに驚いてるんだ。うしおの謎が深まるばかりだよ。
「おやおや、あの絵はもしや、高級時計店の廊下に飾ってあるものと似たタッチですな」
「高級ホテルや高級飲食店などに飾ってある、ぎたいが『あの絵の前で演じたい』と言っていたものだろう?私もあの海の絵は見惚れた」
「あの犬生きてるみたい……すごいね、かげり」
「ね、みかげ」
さっきから聞いていると、オン村地区保護機構には高級店多そうだね。
「うしおはな、気が進まんと描かんのだ。売りに出すとかなりの金額で売れるぞ。売るのはうしおの住む地区の地区長管理の元だ。何かしらの“力”が宿るものでな。あれでうしおは生計を立てているが、当人は知っても気にしてもいない。絵を描くと必ず私に見せて、それだけで満足して絵など忘れて置いていくものだから、ちらほらと売ってあいつの懐に投げ込んでおくんだ。通帳や財布を見て『増えてるーなんでー?まーいっかー』とか小首を傾げるあいつを見るのは月一の恒例だ」
ものすごい饒舌になったらいあ。うしおの絵が褒められて嬉しかったんだろうな。
ぼくもすごいと思うよ。寝たまま描いてるところも、筆から垂れない絵の具も。あれは、“力”で作られた道具だね。そうか、全部“力”で描いてるから“力”が宿るのか。
「出来たー。らいあこれ好きー?」
「ああ、生命力に溢れた犬だな。好きだよ」
「えへへー。あっ、出ちゃった」
オオオッ!?とどよめく周囲。空中から平面の絵の犬が立体になって頭だけ出て来たからである。
「えええっ!?犬出て来た!」
「わああっ、犬出た! 絵の犬が!」
「ごめーんらいあー、絵じゃ無くなっちゃったー」
「これはこれでなかなか良いぞ」
「えへへー。お前、らいあが良いって言ってくれたよー。首から下も描いてあげるね」
うしおは出て来た犬の首からを、今度は立体で描いていった。まるで、筆で毛を解いているみたいだ。
「さて、みどりよ。出来るところまでで良い。あの犬を模倣せよ。時間はうしおが犬の足を書き終えるまで」
「は、はい! 描きます!」
「「がんばみどり!!」」
「御武運を」
「まあ気を楽になさって」
「待ってるぞ」
「がんばれよーイテテッ」
「左はしばらく動かさないよう」
「すんません。オレ左利きでつい」
「おや、そうだったのかね。しばらく不便だねぇ」
「まあ、なんとかなりますわ」
二人が描いている間、ぼくは絵を描く二人とらいあが飴を咥えているのを三交代に見ていた。
棒の飴、面白いんだ。舐めるんじゃなくて、吸ってるんだよね。中に液体が入っていて、呼吸と一緒に吸い込んで、液体が減るとちょっとだけ遅れて棒も短くなるんだ。
けど、あんまり吸っちゃいけないのかな?らいあの隣でにこにこしじょうが手の平を出していて、らいあは絶対そちらを見ないようにしてるんだけど。
回収されたら見れないから、いまじっくり見ておこうっと。
お読みいただきありがとうございました。
突然ですが、しばらくの間、前書きに「誰々目線です」と書かないで行こうと思います。
なんとなく、先に教えないで楽しんでもらいたいなーという気持ちが出て来たものでして。
また変わるかもしれませんが、その時は悪しからずです。
前回の後書きに書き忘れていたので今日、前回分にも書きました。
宜しくお願いします。
こんなに連続投稿出来たのは初めてでした。作者自身とても驚いています。
いつもはもっとのんびり投稿です。次回くらいからのんびりになると思います。
気付けば話数がこんなにも。けれどもそらのうた物語はまだまだ序盤。
これからも一歩一歩、るる達と歩いて行きたいと思います。
お読みいただきありがとうございます。




