昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・二十四
壮絶な仲違いが始まったのだと思っていた内の大半の者は、困惑と猜疑の目を隠せずにいる様だった。そうでなくては、演技をした甲斐が無い。
ワタクシは誰にも知られないように、詰めていた息を薄く長く吐き出した。
一応仲間になったとは言え、オン村地区保護機構とは別の意味で油断も隙もないような者が多い多い。
「上手く誤魔化しながら消せたようだな」
「ふえっふえっふえっ、うちの子達、驚いたかぁい?うちもあれくらい演技力があるのを鍛えねばならんかねぇ。腹が白くて一つだけの子が多いからねぇ」
幸いな事に、その筆頭であるらいあときさらぎ、他数名は察していると気付いたので、心の底より少しは浮いた所から安心しておりましたよぉ。
「これはこれは、拙い演技を讃えてくださり誠に光栄ですぅ。ワタクシにしてみればお粗末様なショーでございましたがねぇ」
「人を燃やそうとして何がお粗末様なショーだこのやろう。あー、肩いってえ。膝まで割りやがって」
割る必要?ありましたよぉ。“炎”で媒体を焼く為に、あなたに動かれては困りましたので。
「どれどれ、先生が見ようかねぇ」
「うおおっ!?気配がねえ! なんだこの人」
医師?はて、医師とはなんぞやと問いたくなる身のこなしのお方ですねぇ。
「ここの医院の先生だよ。はい、止血」
「アダダッ!?ここ病院だったのか……あ、えき、お前腕大丈夫か?」
自分の怪我より人の怪我を。ああ、心配ですぅ。優し過ぎて、本当に。
「はい。スーツパワーで多少痺れた程度です」
えきの頑丈さは元々舌を巻くほどですのに、加えて怨念に近い程“力”が込められたあのスーツ。何処のどなたが作ったか存じませんが、よく製作許可が下りましたね。まさか無許可?えきなら有り得ますなぁ。あの子はいちめいの為なら身内をも差し出す子でしたから。ああ、なんて恐ろしくてかわいい子。まぁ、その身内は愛想も尽きるような事をしていた人でしたがね。ワタクシ達はえきの味方をしましたよ。そりゃあもぉ、全面的に、ね。
「スーツパワーで?ぎたい、お前、えきに何変な言葉教えてんだ」
「おやおや、ひどぉいワタクシは無実ですぅ」
人を疑えて、偉い偉い。サービスで泣き真似して差し上げましょ。
「高濃度高品質の“力”が織り込まれたスーツでして。以前こっそりカタログをお見せしました」
「あー、オレの胸板入りそうに無いやつだったな」
えき、あなたが何故こっそり見せたのか分かりますよ。「この色味のをその内着ますから、困った時は遠慮なく攻撃してください」と伝えたかったのでしょ?残念ながら、たいしょは完全に気付いていませんな。
「そりゃあ既製品はそうでしょう。オーダーメイドなら入りますよ、きっと。ワタクシがデザインして差し上げましょうか?」
「いや、スーツはいらん。とりあえず、今はジャージ上下がほしい。血だらけで焦げ穴多数ではさすがにオレも気にする。先生、ここら辺店あるか?」
真面目な子ですねぇ。人は見かけによらずと申しますが、まさしくその言葉の子ですからねぇ。
「先生が用意するから今日はこのまま入院しようねぇ。肩の痛みは消せるけれど、動かせば痛む。筋肉が再生するまで一週間から二週間はかかるよ。膝はもう直したけれど、しばらくぎこちないだろうね」
「すっげー! あ、ヤベッ。先生。服も治療も有り難いんだけどオレ無一文だった。口座凍らされたし」
ワタクシもそこは痛い所です。時計そのものでも、時石だけでも、どちらを売っても購入額の半分にもなりやしませんでしょうから。現金はナンバーで足が割れてしまいますからねぇ、どうしても物にしなければならなかったので。収集欲求の高い者に売れば口は堅い手放さないで一石二鳥ですもの。ああ、ワタクシが買ったあれやこれやでいちめいの周りを囲みたかったのに。
「うん、らいあ、この子は採用?」
「採用だな」
「うんうん、そしたら服はオン村地区本部から経費が出るからね。治療は先生はお金を所持していない人も診てるから問題ない」
「あ、どうも。……採用ってなんだ?」
「ワタクシ達、オン村地区本部の零輪地区地区長のらいあサマの部下にいちめいがなったので、いちめいの部下になるべく面接を受けていたのです」
「あー、それで採用か。えっ?やったじゃん、またいちめいの部下じゃん。なあ、いちめ……何やってんだ?」
「おやおや」
あの、しゅゆと言う小さな子はいちめいのお気に入りとなったようですね。
いちめいはポロポロと涙を溢す子に懸命に謝り、慰めている。
まだ戦いを知らない子でしたか。別の闘いには慣れているようでしたねぇ。ま、焦ることはありませんよ。どの道が自分の道か、未だに迷いあぐねる者の一人のワタクシですら、こうして歩めているのですから。
「これは……みどりさん達をお呼びした方が良いでしょうか?」
全く動揺していないように見えて、えきは慌てている。その証拠に、ネクタイをキュッと引き締めた。
「ああ、あいつら例の宝箱入ってっから」
「分かりました。では」
影を“突いて”みかげとかげりに信号を送り、影を開いてもらう。
相変わらず“力”の使い方が奇抜な方。ワタクシも負けていられませんね。
「えきは見かけによらず体力無尽蔵ですよねぇ。羨ましい」
しゅるりと影に滑り落ちて行くえき。動き一つ一つが己が可動範囲を知る者のそれ。
「お前もオレの中では生命力無尽蔵だよ」
あなたはワタクシの中では不屈力無尽蔵ですよ。
「うふふ、お礼はチョコレイート一箱いただきますのでどうぞ遠慮なく」
「オレが渡すのおかしくないか?アダダッ」
「ごめんね、消毒を塗っているからね。肩に埋められたのは泡沫型媒体と“診た”がどうかね?」
「たぶんな。なんか泡が張っ付いたと思ったら肌に潜り込みやがった。そういや、奥にも入ってねぇかな?話しちまってんのに、今更だけどよ」
「先生は無いと“診た”がね、申し訳ないが専門の域を出ている。もし君さえよければ、らいあにも“見”てもらおうか。君ならば連れていかれないだろうから」
「そりゃあ……“見”てもらった方が後腐れねぇわな」
「私がらいあだ。宜しく。では、たいしょ、“見”るぞ。引き摺り込まれるなよ」
「全員目を閉じなさい。先程の比ではないだろうからねぇ。持っていかれ方が酷いと先生でも戻せないから」
「えっ、嘘だろ……。しかたねぇ! よし! 来いやあ!」
……あなた、その人の“力”を気合いで乗り越えるおつもりで?ほら、“力”を使う方法もあるではありませんか……いえ、そういうところ、好きですよ。ワタクシは遠慮しますが。
素早くいちめいの隣まで避難して目を閉じる。横ではいちめいとしゅゆの会話が続いている。
「しゅゆ、泣くな」
「泣いてない」
「済まない、驚かせて。頼むから泣かないでくれ」
「だから泣いてない」
「ああ、あまり擦るな」
「泣いてないってば」
本当に仲のおよろしい事で。喜ばしいのですが、目を閉じてもらいたく。あの人の“力”には、流石のワタクシでも到底及びません。
『いちめいしゅゆいぢめたばちばち』
ワタクシのいちめいに死の気配が。始まりの楽子からなんてどう逃げ切りましょうか?
「それは駄目!」
「駄目だ。死ぬ」
『ばちばちだめ』
「「駄目」」
お話の通じる始まりの楽子でようございました。こうして逢うのは二度目ですが、ワタクシの会った子とは違う子ですね。そもそも“力”の色味が違う。ここまで自然に近い“力”……もしや……いえ、考え過ぎですね。まさか、ねぇ?
「お二人さん、ちよっと目を閉じてくれないかねぇ?らいあが“見”るもんだからねぇ」
きさらぎさんの愉快そうなお声ですこと。ワタクシと似た気配を感じますな。
「え?うん、分かった」
「あ、はい」
「らいあ、良いよお。全員、気を紛らわしたかったらお喋りしててなぁあ」
「ほんとに演技だったの?」
速攻で話す小さな子。胆の据わりは並みでないですね。
「そうだ。誤解を解くが、たいしょは私の間者だ。主だって調べられない事を調べてくれていた。そこをぎたいやえきに見られたが、二人は早々に私側の間者だと気付き、あえて『たいしょは怪しい』フリをしてくれていた。見た目と話し方で大雑把そうとか、がさつそうとか言われるたいしょだが、当人は至って穏やかで、先程のように話の間に割り込むなどまずしない。なので、怪しく思ったぎたいが“力”を驚きで発したように見せ掛けて、たいしょの身辺を探ったんだ。そうしたら、左肩に異常な物体を見付けてな。それを取り除く事で一致、連携してこうなった」
「そっか……ねぇ、連携ってレベルじゃないよね?」
「時折、ぎたいが私達に“移って”いたからな」
「……???」
「分からなくて幸いだ。これは当人以外に分かられたら失敗だ」
ええええ、ワタクシが行う限り、失敗など致しませんともぉ。いちめいもおりましたから尚のコ、ト。
「そうなんだ?まあ、喧嘩じゃ無いなら良かったよ。影の子達は?」
「みどりの永久アトリエにいる」
「永久アトリエ?」
「みどりと、みどりが許可した者しか入れない空間なんだ。もし、内部でみどりや空間に何かしようものなら、永久に出られなくなり誰とも会えない空間だ」
「すごい、それ“力”なの?」
「“力”だ。正確に言うと、その空間を“開く”、“閉じる”、“使う”、など“操作”出来る部分が“力”だな。空間自体は正体不明だ」
「正体不明なの?よく使っているね」
「みどりの御先祖数名に同じ“力”保持者がいてな、度々使っていたそうだ。その御先祖達と同じ空間だと気付いてからはより積極的に使っているらしい」
「へえー、そんな“力”初めて知った」
「私もだ。“力”も空間も多種多様過ぎるな」
「ほんとにね」
「うっぉぉお、ヤッベエー。オレ生きてるか?あんたすげえな!」
新しいおもちゃを手にした子どもみたいに興奮気味のたいしょの大声で一旦話が切れる。この部屋全員が小さな子といちめいの会話に集中していたおかげで、らいあサマの“力”の犠牲者は出なかった模様。
「それはどうも。他に媒体は欠片も無かったぞ」
「そりゃあ良かったぜ」
たいしょは「その“力”の使い方教えてくれないか?その、オレもあんたに教えられる事があるならで良いんだ。ヒントだけでも良いから」なんて控え目に交渉している。
ほら、不屈力無尽蔵でしょう?ワタクシのかわいいかわいい劇団員達はどの子も素晴らしーい子達なんですよ?
さてさて、ワタクシの子達を傷付けた者達は、どんな悲劇を見せてくれますかねぇ?
ワタクシ達?もちろぉん、喜劇を演じて魅せましょぉう。
例えそれが、ワタクシの些末な命を砕く事になったとしても。
しばらくの間、誰々目線というのを前書きで言わなくしてみます。言わずに楽しんでもらいたい気持ちが出て来まして。
また変わるかもしれませんが、宜しくお願いします。
お読みいただきありがとうございます。




