昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・二十二
『んあんあんああんんあんああ』
いま、そらが盛大に駄々をこねている。いちめいが“力”で作ったシャボン玉に入れて放り投げ、らいあがキャッチしてからだ。
壁の外の全員が固唾を飲んで見守る。そりゃあ固唾を飲みたくもなるだろう。そらからは“力”が漏れ漏れで、らいあの周囲には火花やら氷の粒やら極小の竜巻やらが出来ては弾けているのだから。“力”の放出は留まらず、部屋中に満ちているがぼくは苦しくない。けれど苦しくなった人も増えて来たようだ。きーさんが手で外へ出るよう促すと、十人近く出て行った。
らいあはシャボン玉をそっと両手で包み、『んあんああ』と言うそらをあやすようにゆらゆら揺れた。
「分かった分かった。しかし危ないからいまはここに」
『んああんあんんあ』
らいあの耳の下の髪が弾けて切れた。雷撃かな?らいあは全く動じていないけど、後ろの人の足がちょっと浮いたのが分かった。
「済まん、しゅゆ、助けてくれんか」
ぼくの手首を離さないたてこうとにりんを連れてとことこらいあの元へ向かう。
「そら、バチバチしてるの止められる?ぼく達怪我しちゃうかも」
そらはシャボン玉の中でぺったんこになった。と同時に“力”の放出が止んだ。
おお、ぼくの声受け取ってくれた。ちょっと感動だ。
「そらかわいい……」
「ふむ、君が持っていてくれんか。そら、私よりはしゅゆのが良かろうて」
「うん。そら、おいで。あっ」
そらはシャボン玉をパンッと割るとぼくの鎖骨中央の下に引っ付いた。
『しゅゆ』
「そらかわいいねぇ」
『そらかわいい』
「うん、かわいいよ」
『んぱ』
機嫌は微々直ったようだ。良かった。
防御壁の中は中で騒々しい事態になっていた。いちめい達は横顔しか見えないが、見ているこちらの食欲が無くなるくらい緊迫していた。いちめいがそらを避難させた理由となった前触れ無く影から現れた人は、ぼくが見てきた中でも最高クラスの筋肉量の人だった。向こう側でゲホゲホむせている。
「ぶへっ!?息苦しいなあ、おい。何やってンだよ?ぎたい」
壁内の“力”の発生源はぎたいのようだ。山の朝霧のように白く漂う“力”は色を薄めつつある。
「これは失礼を。あなたがとぉんでもない場所から出ていらしたので、ワタクシ驚いてしまいまして」
「アン?影での移動なんざしょっちゅうしてるじゃねぇか」
「ええええ、しておりますともぉ。文鳥達の許可と“力”の元で、ね。たいしょ、あなた、文鳥達をどんな鳥籠に入れて来たのですか?」
「へえ?オレがチビッ子達になんかしたって思ってんのかよ」
「おやぁ?ワタクシそんなこと言いましたぁ?」
「あああーもおーまどろっこしーやつだなぁほんとよぉ。とにかく来いよ。あっちで話そうぜ」
「いいえ、と言ったら?」
「……お前らは賢いと思ってるぜ」
「おやまぁ、その口で何もしていないと思われるのをお望みで?図々しいにも程がありますねぇ。暑苦しいですし」
「さっき言ってたのそれだな?完全に悪口じゃねぇか!」
「ええ、悪い口ですから。もぉう、ワタクシのお口ってば、メッ!」
「お前と話してると生命力搾られてる感覚になるな……」
「ワタクシはあなたと話してると生き生きしてきますよ」
「本当に搾り取ってんじゃねえか?だいたい、筋肉を暑苦しいとかなんだよ。人は筋肉が有るから生きられるんだぞ」
「その原理で行くとこの世のほぼ全ては、ほにゃららがあるからほにゃららである、ですよ。それに、ワタクシは筋肉を暑苦しいとは言っていません。あなたが暑苦しいと言ってるのです」
「取り繕う事すら出来ねぇ悪口だな」
「おやおや、あなたに悲しむ余裕がおありで?」
「どぅおっ!?」
辛うじて着かなかった膝を細かに震わせて、たいしょと呼ばれた人はぎたい、そして静かに佇むいちめいと腰を屈めて戦闘態勢のえきを睨み付けた。恐らく、いちめい達側の誰かからの“重”の“力”が働いている。十二分に強固なはずの防御防護壁からミシミシ音が聞こえる。腕を引いて避難を促すたてこうとにりんに、先に行くように目で示す。
そらが居るから大丈夫。二人まで守れるか分からないから、先に行って。あとでまた会おう。
「おい、てめぇら」
「たいしょ、私は改名した」
たいしょの言葉を遮って話すいちめいの顔にも声にも、感情が無かった。瞳が冷たくて、まるで凍っているかのような。
「いちめいとなった。だが、お前に呼ばせる事はない」
「きしゅう」
「その名は捨てた。そして、お前もだ。たいしょ」
「何?おい、きしゅ」
「私の仲間を何処へやった」
「……ハッ……捨てただぁ?所有者気取りも大概にしとけよ、坊っちゃん。オレは誰かの物じゃねえ。駒鳥だか鳩だか知らねぇが、大方愛想尽かされて飛んでったんじゃねえの?」
「答えないのならば」
えきの“力”が発された。それは研ぎ澄まされた刃物のようだった。
「答えさせるまで!!」
いちめいが吠え、えきが駆け、ぼくの視界が半分黒に染まった。




