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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
過去編・しゅゆ
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昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・十九

「そんじゃまぁ、軽く自己紹介と行こうかねぇ」


 らいあの隣でずっと静かに立って居た、沼の表面に藻が浮いてる時の色のマーブル模様の服のおばあさんが口を開いた途端、ほとんどの人が背筋をピンと伸ばした。

 只者ではないとは思っていたよ。“力”の気配を辿らさないような人が、らいあの隣なんだもの。もちろん、辿るのはすぐ諦めたよ。こんなぼくだって命は大事だからね。


「あたしはきさらぎ。オン村の村長だよぉ。ふぇっふぇっふぇっ。よろしくねぇ」


「宜しくお願い致します」


「宜しくお願いします」


 いちめいは深く、ぼくは軽く頭を下げた。ちらとたてこうを見ると『列車』と指が動いた。

 ほぉ、言っていた親切な人はこの人かな?


「オン村での騒動は毎度の事として、問題は始まりの楽子の里、『逆境の地』だねぇ。美子に任されちゃったら……ねぇ?動く他なかろうて」


「えっ?なんで知ってるの……ですか?」


 ため口は駄目かも?と直したら、村長はにこおっと三日月みたいな目と口で笑った。


「ふぇっふぇっ、気軽に話しなぁ。あとね、村長って呼ばれるのがあたしゃあむず痒くってねぇ。きさらぎで良いよぉ。きーさんとか呼ぶ子も増えたかねぇ」


「ぼく、きーさんって呼ぶ」


「えっ……と、では、きさらぎさんと」


「ふぇっふぇっふぇっ、素直でかわいいねぇ。なんだったかな?ああ、美子のこったろ?そりゃあ知ってるさぁ。多分、あんた達が道に入った時からかねぇ?せいめいの木から声が聞こえてたからねぇ。皆で聞いてたんだよぉ。せいめいの木は分かるかい?せいの庭の木だよ」


「へぇ、せいめいの木って言うんだ」


「本当の名前じゃないよぉ。人間が勝手に付けたのさ」


「それはそうじゃない?菫でも桜でも、ぼくらが呼んでるだけだもの」


「ふぇっふぇっ、そうだねぇ。賢い賢い。そういうこったさ」


「聞こえていたとは全員の声をですか?」


「どうかなぁ?あたしの耳には五つの声が聞こえていたよぉ」


「説明省けて良かったね?いちめい」


 語尾を疑問にしたのは、門番の事バレたね。の意味を込めてである。

 美子さん、バレちゃったよ。誰がどの楽子かなんて知らないよ。どうするべき?


「……ああ」


 あれ?いちめいの顔色が悪い。これはただの体調不良じゃなさそうだね。何か気になる事があるんだろうな。門番の事で?いや、違いそうだな。


「大丈夫?どうしたの?」


「いや……少し、いや、なんでもな」


「じぃの言ってた事、思い出して?」


 首を横に振ろうとしたいちめいを止める。守られてもいい、力借りてもいいって、あの言葉、ぼくもそう思うよ。結局ぼくも、一人では生きられていないんだ。一人で生きていくって、あの人に啖呵切った癖にさ。


「え?あ……うん、そうだったな。その、仲間が、いや、元部下達が心配で」


「ああ、直属の部下?」


「そうだ。道での会話で、私がオン村地区本部へ渡ることを上は想像出来ただろう。いま、あの子達が不当な目に合っていなければと思った」


「確かめれば?」


「どうやって」


「いつもの連絡手段は?」


「二人は“影呼び”。あとの四人は通信機だ」


「影呼びって何?“力”?」


「そうだ。影から呼ぶんだ。影に向かい名を呼べば伝わるそうだ」


 本来、他人の“力”を許可無く話すことはかなりの無作法とされ、縁を切られても仕方のないことだ。そういうことをしなそうないちめいが話す理由は、ただ一つだと思う。


「この影から呼ぶの?」


 しゃがみこんでいちめいの影を覗く。そうだが私の影には何も無いぞ、といちめいもしゃがんだので。


「相手は一人?なんて名前の子?」


「双子でな。みか……君ぃ」


「てへ」


 バレちゃった。こっちに連れてきて仲間にしたいんだったら、善は急げで呼んでもらおうと思ったんだけど。いちめい、自分から言うの躊躇ってるもの。いちめいの主観だけでは証明が難しいからだろうけど、こういうのはハッキリ聞いた方が良いんじゃないかな。


「きーさん、呼んじゃ駄目かなぁ?」


「っ! しゅゆ」


「呼んじゃいなぁ。守りの得意な子達よ、防御と防護、どちらの壁も部屋の中央へ床から天井まで張っておくれ。その中に呼びなぁ。それなら良いだろぉ?」


 きーさんがあっさり諾と言い、周りの人達がサクサク動いて防御防護壁を完成させていく。


「えっ?良いのか……?」


「良いみたいだよ。良かったね」


「あ、ありがとう。いや、こちらへ来るかもお目に通れるかもまだ決まってはいないが」


「いちめいの仲間なんでしょ?来るし受かるよ」


「そうだと頼もしい」


 待っている間、ぼくは「どんな人達なの?」といちめいに聞いていた。いちめいは「表し難い」と苦渋の表情。すごい顔だけど仲間なんだよね?


「うーん、濃い、だな」


「濃い?食べ物で言うと?」


「食べ物?うーん、食べ物……比重に差があって混ざり切らない特濃のミックスジュースだろうか?」


「胃もたれしそう」


「けれど、根は良い奴等だぞ」


「なるほど?」


「ほれ、準備出来たよぉ。さっさと呼んじまいな」


 部屋の中心に円柱に作られた防御防護壁の中に、そらを頭に引っ付けたいちめいは躊躇なく入って行った。入れ替わりにぼくの体調を心配しているたてこうが来たので、仕方がないから頭を撫でられておいた。


「では、“影”を使う双子から呼びます。みかげ、かげ」


「呼ばれて飛び出るみかげちゃあーん! 影のお姫さまみかげだぞーん! きしゅーさーん! 」


 うわっ! ぼーっと歩いてる時に背の高い葉の間から突然飛び出て来た蛙よりも驚いたよ。勢いがすごかった。いちめいはコラ! と叱った。


「みかげ、出て来る時はもっと注意して出てきなさい。罠だったらどうするんだ?」


 出てきた子はぼくより一、二歳年上かな?吊り上がった目元にはお化粧で赤と茶のラインがバッチリ入っておしゃれだ。長い髪を左右の高い位置で縛っている。もしあの子が振り返る時は逃げないとだね。髪が鞭のようだよ。


「どうも?きしゅうさんと死ねるなら良いじゃん。もっちー、その前に助けるように頑張るけどぉ。きしゅうさん生きてて嬉しー! って、誰この子?ハッ?! まさか、隠し子?! きしゅうさんのトンデモヤロオオオッ!」


「ッ!!」


 みかげの腰の入った拳を素早く仰け反り避けたいちめい。

 流石、疲労中とは思えない身のこなしだよ。それはそうと、みかげって子は誰をいちめいの子だと思ったのさ。そらをかな?


「子どもが出来てるなんてっ! きしゅうさんはっ、きしゅうさんはモテるけどゴール出来ないヘタレだと思ってたのにいいいっ!」


「どういう見解だ」


「だってぇ! わっ!?ちょっと、引っ張らないでよ! バカ弟! きしゅうさん、かげりも呼んであげてくれない?」


 下を見ると、みかげの片足が膝まで影の中に沈んでいた。田んぼの泥濘にはまった感じなのかな?なかなか抜けないみたい。


「かげり」


「きじゅうざあああんっ! かげりを、かげりを置いていがな゛いでえええっ!」


 こっちもか。かげりという子は滝のような涙を散らしながら飛び出すと、体をぐんと伸ばしていちめいの足にしがみついた。いちめいはあまり驚いていないから、よくあることなのかもしれない。しがみつかれ慣れてそう。……しがみつかれ慣れてるって自分で思っておいて違和感あるな。

 かげりの短い髪には紫のメッシュ染めが何本も入っている。睫毛がすごく長くてフサフサだ。


「落ち着くんだ、かげり」


「落ち着げないいっ! ぎじゅーざんが逆賊認でい受けでぇ、かげりだぢ追い掛け回ざれてたんでずぅ」


「なんてことだ……。済まなかっ」


「そんなごどどーだってい゛いんですよおお! 問題はぎじゅーざんがかげりたぢを置いてっぢゃうこどなんでずぅ!!」


 鼻水も流れっぱなしだよ。壁の外側の何人かがテイッシュを手にしているけど、迫力に押されて差し出せない模様。


「元々みかげ達はキコーなんてどーでもいいのよ。親に無理矢理入れられただけだもぉーん。働いてたのは自分達に権力が無くて逃げ切れなかっただけだし、きしゅうさんと会ってからはきしゅうさんと居たくて居ただけだし。だから……みかげ、踊ります!」


「きゅ、急だな」


 同感だよ。この部屋の人ほとんど思ったんじゃない?そんな顔してる人だらけだもの。らいあですら目が点だよ。そんな目線も何のその。みかげはくるくる踊り出す。


「みかげ、花のはたちでぇっす。特技は下痢間近の女の子のフリ。得意技は拳で殴る事足で砕く事、影を移動する事。知ってる人や物の影の中ならぁ、他の人や物も連れ渡れまぁっす。どうですぅ?みかげの事、買ってほしいなぁ。オン村地区本部のみ・な・さ・ま。かげり! あんたも売り込みアピール、全開で行ってらっしゃーいっ!」


 みかげの影が起き上がりそれを破壊する、を繰り返しての自己紹介は、迫力が凄過ぎて内容を覚えられなかった。いつの間にか顔を拭いていたかげりは、錐の様な物を左右の指の間に挟み立ち上がった。


「はーいっ! かげり、はたち! 特技はどこでもどんな風にも泣ける事! 得意技は“影渡り”と“影刺し”に“影反転“! 相手の“力”が何であれどうであれ、一時間は絶対影ごと固定出来ます! 投擲も得意です! 遠くからもぶっ刺せます! あと、きしゅうさんの吐息一つでご体調が分かっモゴッ!?」


「あー、申し訳なく」


 かげりの口を押さえた耳と頬を赤くしたいちめい。ちなみにかげりは錐を投げながらの自己紹介だった。投げた錐は地面に突き刺さっている。危ない双子だな。


「好かれているようで何よりだ。影の“力”を操る者達、いちめいの上司はこの私、らいあとなる。お前達は更にその下だぞ?」


 らいあ!?と二人は驚いて抱き合った。


「らいあって、あの?会ったが最期って言われてる?」


「大変だ……。けど、きしゅうさんと離れる方がもっと嫌だ!」


「みかげもよ!」


「「それで宜しくお願いします!!」」


 ファイティングポーズでお願いする人初めて見た。それでさ、誰か、らいあが普段何処で何してるのか誰か教えてくれないかな?強いみたいだからちょっといろいろ盗み覚えようかと思ってさ。……どうしたの?おおね。止めておけ?だからさ、あんたはなんでぼくの思考を読めるわけさ?えー、顔に出てるぅ?そんなにかなぁ?

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