昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・十八
あれから、ぼく達はしじょうの医院へ無事運ばれた。
機構職員は上に連絡するとかなんとかモゴモゴ言って走って帰って行った。彼らがせいの庭に入って来れたのは、あの木の花を見たい村の人の為に花の咲いた時期だけせいが庭を開放しているからだとか。そういえば、ぼくも入ったんだった。
しじょうの医院にはオン村地区本部関係者達が集まっていたらしく、ぼくとおにゃもーらは治療、シャワー、軽食をにりん達の助けを受け経てから彼らと会った。おおね、にりん、うしお、せい、たてこうにしじょうも居てちょっとホッとしたのは内緒。
あちらの世界の事をどれだけ話せば良いのか分からなかったけど、らいあが何故かいろいろ知っていて、ぼくとおにゃもーらは多少付け足すだけで良かった(らいあを見るおにゃもーらの目が眼前に迫る巨大な亀でも見る目になっていた。おもしろかった)。
そして、ぼくにはおにゃもーらをオン村地区本部へオススメすると言う大仕事が残っていた、のだが。
「来い。退屈などさせない」
らいあがズボオッ! と逞しく引っこ抜いた。弱々しい反対意見もちらほら出たのだが、らいあが論破した。
うん、おにゃもーらの言ってたことが少し分かって来たよ。
そして。
「機構に残るメリットなぞもう無かろう。ここへ来たからには今まで以上の束縛と虚しい労働が待っておろう。それでは新たな情報なぞ得れん。即来い。この手を取れ。お前の応えに答えられるのは、私達だけだ」
と、直ぐ様オン村地区本部に正式採用された。
オン村地区本部の長ってらいあなの?後の人、誇らしげに頷いてるけど一言も話してないんだけど。
おにゃもーらはうんともすんとも言わなくて、じっと深く考えていたけれど。
「お前がほしい。“力”ではない、お前自身が」
等々、らいあが滾滾と口説き落とした。分かったのでもうやめて下さい、と顔を両手で覆って耳を赤くするおにゃもーら、かわいかったよ。
機構にはどう説明するのかとの反対意見に対しては。
「私の名を出せ。私の名を知らぬ者など構うな。知っていて来る者は潰せ」
以上。皆頷く他無く。おにゃもーらの言ってたことだいぶ分かって来たよ。
それに、とうとうおにゃもーらの本名が判明したよ。『季秋』だってさ。そしたら、そらがね。
『おにゃもーらきしゅうちがう』
四方八方ジグザグアグレッシブ飛行再びだった。
「ああ、おにゃもーらはおにゃもーらだもんね」
『ちがうおにゃもーらおにゃもーらいいおにゃもーらきしゅうちがうおにゃもーらおにゃもーらかわるいい』
「えーっとー、つまり、おにゃもーらがおにゃもーらなのは良くて、おにゃもーらがきしゅうなのは違って、おにゃもーらがおにゃもーらって名前じゃなくて変わっていいってこと?」
『そらおにゃもーらあったかいおにゃもーらきしゅうちがう』
ジグザグアグレッシブ飛行をしながら、きしゅうちがう、を連呼するそら。これはもう、アレしかなくない?
「おにゃもーら、改名したら?」
「……そら、私に名を付けてくれないか?」
これには結構驚いたよ。ぼく達にとって、名前は祈りらしいんだ。水の少ない地には水の名を冠する者が多く、吉事の少ない地では吉兆の名前で溢れる。親が子に、又は子の未来に求めるものよりも、その地で求められているものが付けられる事が多い。だから改名も多いんだ。水の名の人が引っ越した先で水より日を求めたら即変える。祈りであっても環境で変わって行くもの。
けれど、改名を他人に託す事はまた別の意味となる。『あなたの希望になります』って宣言したようなものなんだって。だからその時は、土地の利になる名で無くなったりする。
『いちめい』
そらの返答は決まっていたかのように早かった。そらが呼んだと同時に脳裏に二つの漢字が並んだ。一と命。そらが“送って”くれたようだ。
「一命か。良い名だ。宜しくな、いちめい」
何故からいあは満足そう。まるで、こうなることを予知していたかのような。
一命、人ひとりのかけがえのないいのち。そらにとって、おにゃもーらはそういう存在なんだね。それか、そらにとってそうであってほしい、と言うことか。
名は祈り。いのちの在り方を支え守る為の標。名付けは、名を付けられた者と付けた者とに、そうであろうそうでいたいとそうでいてくれてほしい共にいたいと、新たな願いの生まれる瞬間。
『いちめいそらくらす』
「……ああ、一緒に暮らそうな」
おにゃもーら改め、いちめいがそらの頭と思われる場所を一本指でそっと撫でたが、ハッ! と何かに気付くと勢い良くぼくを見て、触ってしまったがここ頭だと思うか?毛か肌か布かどの質かよく分からない。との口パクが来た。
うーん、高さ的にたぶん頭だと思われるよ。そらは大人しいし、嫌なところではなさそう。肩かもしれないけど。顔面じゃなきゃ大丈夫だよ、きっと。




