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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
過去編・しゅゆ
87/140

昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・十五

いつもの約2倍の長さになりました。

『そりゃ美子は楽子の中でも希少な一族だけど、隠してどうすんのさ?空間の歪みは美子しか直せない時あんだよ?』


 そういう驚きね。空間の歪みってなかなか起きないけど、一度起きると“力”保持者総動員して対処しないといけないって言うのだよね。


「そうだったのか……。詳しくはあまり。ただ、美子の話をした者は居なかったかのように消えてしまうと言う」


「へぇ、機構?」


「いや、オン村の規模ではないだろう。私達の預かり知らぬもの達が動いている。だから、絶対に話すな」


「了解」


『あら、人間?』


 頭に響いたのは、冬の朝のように肺の奥まで届く澄んだ、けれど冷たくはない声。


『ちいさいしゅゆおおきいおにゃもーら』


『小さな人間がしゅゆ、大きな人間がおにゃもーら……おにゃもーら?人の世も分からなくなったわね』


『ブフゥッ』


「ブハッ」


「わ、笑ってる場合か、君が名付けたのだろう」


 少し恥ずかしそうなおにゃもーら。頬がほんのり赤い。

 どうでも良いと思っていた事がどうでも良くなった瞬間って、過去の自分に愕然とするというか自分の意思を疑うというかをしながら、じわりじわりと恥ずかしくなることあるよね。


「いや、そうだけど。フフッ、じぃも、フフフッ、笑ってるよ」


『いやぁ、おもしれぇ』


 お前さんらと居るの飽きんわ。と、じぃ。ぼくも、この三人と一匹だと延々と話してられる気がするよ。

 笑い恥ずかしがるぼく達の上空では、そらと誰かの話が続いている。


『みちひらく』


『ええ、道は開くわ。これだけの“力”があって助かる。後は任せて。ああ、けれど、人間の事は人間に任せるわね』


「え?ぼく達の事って?」


『あら、気付いてないの?道を塞いだのは外の人間よ』


『ええっ!?あっち側から干渉されてるのか?見張ってたおれが気付かなかったのも、それなら頷けるな。おれは内側の門番だから』


 それは厄介だね。外からの干渉に気付く人が居ないと、今回の事が再び起こる可能性が消えない。人為なら尚更だ。

 それにしても悪どいやり方だな。


「人間が道を塞いだって……そら達をその、死なしちゃおうとしてたって事だよね。だって木がないと始まりの楽子はみんな生きていけないんでしょ?」


『きいきるみんないきるちがう』


『え!?違うの!?』


「違うの!?ってなんでじぃまで驚いてるのさ」


『いや、おれ、とおちゃんにそう聞いたのよぉ』


『きいきるそらいきる』


「えっ、木と関係して生きてるのはそらだけってこと?」


『おいおいおい、じゃあ、道を塞いだやつはそらを……。どっちせよ許さねぇ』


「同感。調べて捕まえてやる」


 息巻くじぃとぼくの頭におにゃもーらの冷静な声がかけられる。


「二人とも落ち着いて。これほどの事を行える者に関わるのならば、愚かな程に慎重でいい。まずは私の方で調べるから、君は大人しくしていなさい。どのみち、当分の間は機構からは強い監視体制が、地区本部からは同等以上の保護体制が敷かれる。私が良いと伝えるまで動くな。余計に縛られるぞ」


「んんあんあ」


「そらの真似しても駄目だ」


『おれ達もバンバン調べるぜ。石亀(いしがめ)隊全員あっちへ送って調べてやる』


「止めてくれ。大量に目撃されれば異常事態となって注目を浴びる。大穴でも“見”えたが、君達は“力”の保有量がかなり高い。人目だけでなく、監視レーダーでも感知されてしまうんだ。一日一、二体、しかも変則的な隔日で頼む」


『んんあんあ』


「そらの真似しても駄目だ」


『んんあんあ』


「そらの……おっ、本物か。間違えるところだった」


 そらはゆーらゆーら楽しそう。引っ掛からなかったねぇ、とそらに言うと『おにゃもーらかしこい』とのお返事が。おにゃもーら、褒められたよ。


『仲の良いこと。人間もみんなあなた達みたいだと良いのに』


「それはそれでやっかいだよ」


「私も大変だと切に思う」


 お互いがお互いを描いて答えているように感じる。失礼な事だけど、ぼく達だけではいけない事は目線を増やせば間違っていないと思う。きっと、この世は泣けるくらい破天荒になっちゃうよ。たぶんぼく達は闘いしか知らないから。


『あら、そう?』


『自分で言っちゃうくらい、生きるって人間として大変なんだなぁ』


 しみじみと言うじぃは、背中に生えている木の葉をカシカジ噛んでいる。物理的に歯痒いのかな?


「微妙な違いがあるかもしれないけどそんな感じ」


「語弊はあるがそういうことだ」


『そらおにゃもーらくらすそと』


『そら、あなた、外で人間と暮らすの?そう……“力”の加減には十分気をつけてね。人間は強いけど弱いの。うっかり殺してはいけないのよ、生き返らないからね。たまには帰って来るのよ。あなたが居ないとあの木は何でも取り込んでしまうもの。迷い込んだ人間を取り込みかけたときは大変だったわ』


「口調柔いのに内容がえぐいね。まさかそんな木だったとは」


「前半部分を実感した身としては頷く他ない」


『けれど、あなたが居なくなること、彼らは受け入れたの?今回の事も気付いたのはあなただけだったのでしょ?本当、あなたに責任と負担を強いて、働かない子ばかりよね』


 花畑の始まりの楽子の事かな?そらとおにゃもーら似てるのかもね。主に労働面で。


『そらおにゃもーらくらすここ』


『おにゃもーら、そらがこっち来いってさ。門番しようぜ。範囲はおれと半分個で』


「それは出来ないんだ。済まない、そら。じぃ、新人に半分も任さないでくれ」


『そうねぇ……あら! 良いこと思い付いたわ! おにゃもーらには外からの門番になってもらえば良いのよ』


 スキル・『美子さんの無茶振り』が発動した! おにゃもーらは防ぐ術が分からないで戸惑っている! って感じだね。船に乗る前に乗った列車で隣の席の子に、携帯液晶玩具で遊ばしてもらったんだ。それ風に言うとそんな感じ?


「はっ?」


『そうしたらそらが外へ行っても不思議ではないわ。外の門番と会うのだから』


『おにゃもーらそともんばん』


『そりゃあ良いなぁ! おれが外へ行けなくて気付かない事、おにゃもーらが気付いて教えてくれれば良いんだなぁ』


 おにゃもーらは慌てるかと思いきや、しんと静かに黙ってしまった。そらはふよふよと降りておにゃもーらの顔の前で停止飛行。近い近い。じぃは首をこちらへ捻り向けて、ん?って感じで止まった。しばらくして、おにゃもーらからは絞り出した様な声が。


「私では、力不足だと思う。文字通り“力”不足でもある。“力”の制御を誤って呪いに抵抗さえ出来ず、長い間このザマだった。私は私の実力も“力”も信じていない、信じられないんだ。この手が誰かを守れるなど、思えなくて」


 唇を噛み締めながら、おにゃもーらは掌をジッと見詰めた。血の染みた手袋は穴だらけのボロボロで、アイロンの掛かっていた制服だって縒れてあちらこちら擦り切れていて、唇の端は切れてるし、確かにお世辞にも強そうとは言えないけど。

 何言ってんのさ。ぼくの命の恩人を悪く言わないでくれる?


「何言ってんのさ。ほら、見て! ぼくの服ほとんど綺麗だよ! 怪我も無いし。おにゃもーらが守ってくれたからだよ!」


 それだけじゃないじゃないか。ぼくとぼくの苦手なものとの間に身一つで入って心まで庇ってくれたじゃないか。


『何言ってんだよー。そらに殺されかけて“力”も体力も減ってたってのに、ほら、ここ! こんなにおにゃもーらの“力”でいっぱいだぞ!』


 そう、謎空間に漂う“力”の割合は、あれだけ全力を出したのにぼくは二割にも満たなくて、おにゃもーらが六割くらい。途中そらの改心の一撃によりへこたれたじぃが一割、そらは満たすよりも放った“力”を保持する事に専念したようで一割だった。


「木の実を食べたからではないのか?」


『あの木の実は主に“力”中毒の解毒、緩和かな。“力”の回復は微々たるもんよ。ほぼお前さん自身の賜物だ。しゅゆの事もそうだろ?しゅゆ自身も頑張ったけど、お前さんも、身を張って守ってたからここまで来れたんだろ?なんか、おれの事虫って思ってたらしいじゃん。しゅゆ一人じゃ穴通れなかったろ?』


「うん、ぼくだけだったら難しかった。おにゃもーらが虫いないって確かめてくれたから来れたよ」


『おにゃもーらちからちからたくさん』


「そう、“力”も力もある」


『それにお前さん、だぁれも傷付けなかったじゃないか』


 じぃは、にこにこの笑みから悲しそうな笑みに変わった。


『すごいなぁ、お前さん。いいかい?守っていると思えないのは、お前さんが常日頃から全力で守っているからなんだよ。力不足だと思うのは、いつも全力だからだよ。当たり前に在るものには特に、麻痺しやすいんだ。おれたちは敏感なのに鈍感だからねぇ。覚えておきな。お前さんも守られていいんだ。力を借りていいんだ。周りにお前さんの全力を当たり前だと思わすのはもうやめな。お前さんの全力を食い散らさすな。お前さん自身も、全力が当たり前だと思い込んで食い散らかすのはもうやめな。自分の力量を見誤る者は、他の力量も見誤る。かけ違えた歯車全部を戻し終えるまでなど、時は待ってくれない。手遅れだろうがなんだろうが、いまこの瞬間から、変えていくしかないんだよ。守れよ、自分自身を。周りを守ろうとして自分を守らなかった時は、知らない間に周りも傷付いていくんだ。見えない所から、確実に』


 おにゃもーらもぼくも、何も言えなかった。じぃの言葉全部を一気に理解は出来なくて、けれど、理解する前に変わらなきゃって気持ちが生まれた事だけは理解出来たから。


 おにゃもーらは、一つ、頷いた。


『では決まりね。おにゃもーら、外の門は頼むわ。私達美子では手の余る、けれど人間には行きやすい場所を中心でいいわ。これが鍵よ。そらお願い』


 え?今のおにゃもーらの頷づきって門番になることへのものだったの?……違いそうだよ、美子さん。おにゃもーらが待ってくださいって言ってるよ。なんなら叫んでるよ。


 歪みからコロンッと転がり落ちて来た煌めく物へ、そらが「んんぱー」とした。ほわっと光るそれはおにゃもーらの心臓にスイーッと飛んで入った。おにゃもーらが空を仰いだ。

 ここ、空も地面も無いけどね。


「心臓に入ったの?」


『いいえ、いのちに入ったの。いのちが消えたら鍵も消える。いのちが応える限り鍵も応える。門の場所は自ずと分かるわ』


『もっんばん増っえたっ、もっんばん増っえたっ』


『おにゃもーらもんばんおにゃもーらもんばんおにゃもーらもんばん』


 じぃとそらが歓喜の舞でぼくとおにゃもーらは木にしがみつきてんてこ舞いである。誰か揺れない地面をください。

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