昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・十三
あの後、じぃが持っていた五秒に一回光る木の実を無理矢理食べさせられて微妙に元気になったおにゃもーらとぼく(ぼくも一つ食べたが、噛み砕いている間も喉元を通る間も肌から光が透けるのがおもしろくて味を気にしていなかった。何味だったのかな?口の中はいま無味)は、そらと共にじぃさんに乗って花畑を横断中だ。花の中には人間に有害なものもあるからと、乗せてくれたのだ。じぃさんは花をミシミシ遠慮無く踏んで行く。そらはぼくとおにゃもーらとじぃさんの周りを行ったり来たり。
「ありがとう、そら。君のお陰で呪いまで消えるとは。しかも後遺症も無く」
「呪われてたんだ」
おにゃもーらはじぃの背の石に生えた木にのし掛かっている。その木は“力”の多いものに寄生する木で、本来ならば触れているだけで“力”を吸われるらしい。だが長くじぃに寄生している為か、じぃの“力”しか受け付け無くなったので触れていいと言われたのでぼくは遠慮無くのし掛かった。ぼくの躊躇いない様子におにゃもーらは一驚していたけど、慣れたみたい。いまは全員ゆったりしている。
「ああ、一時でも外れる時間があるとは思ってもいなかった。久方ぶりに息がしやすい」
「一時?戻ればまた呪われるってこと?」
おにゃもーらは肩を竦め、困ったように微笑んだ。
呪いの媒体を壊さないといけない種類かな?
『それは起こらないな。いまより強い呪いでもかからなくなってるさ。そらがギッシリ加護ってるから』
「かごってる?」
『そらおにゃもーらたすけた』
「ありがとう……だが、それはそれで問題だな」
「何処が?」
「一つ、そらに多大なる借りが出来た。二つ、呪いがかからくなれば命の保証が消える。ある意味、呪いがかかっている間は生かされていた。……この世にあまり未練は無いが」
「ちょっとはあるんじゃん。ぼくん家来れば?」
「有り難いが、即見つかる」
『ここ住んじゃえよ。門番いっしょにやろう』
やったぁー仕事仲間増えるぅー、と嬉しそうなじぃの首がおにゃもーらの方へ向いている。首がかなり長いね。
「おめでとう。就職先見つかったね」
『おにゃもーらもんばん』
「私がここで生活を?」
『おにゃもーらもんばん』
『ハハッ! そら、おにゃもーらの事気に入ったんだな』
「初めは殺されかけたんだがな」
『うん?どうやって?』
「“力”での圧死だ」
「ぼくん家からここに来る前に来たのは、天井も床も無い場所だったよね」
『あー、あそこか。そらからしたら遊んでもらってたんだなぁ』
「あれで遊び?」
『そりゃそーっしょ、まず気に食わないのはそこへもここへも連れて来ないって』
「死にかけて遊び……ここでも生きられる気がしない」
同じく。応援はしたいけど勧めるにはぼく達はヤワ過ぎるかな。
『いんや、ここで生きるならそら達から加護を続々与えられるから生きられるだろうよ。見てみ?この体。でかいっしょ。加護を与えられてからこうなったから』
「へぇ、栄養豊富な場所で育ちが良いのかと思ってた」
『じぃかごんぱー』
そらがきらんと光る。じぃはほんのり光り纏う。
『ほら、こうやってめちゃめちゃかけてくれんのよ。なんでかは分かんないけど有難いわぁ』
『じぃそらあたま』
「ん、おいで」
そらはじぃの頭にふわりと着地した。寝そべっているのか、平たくなって動かない。
「かわいい。甘えてるみたい」
『だろぉ?ほんともぉかわいいのよー。ま、無理にとは言わないけど帰るまでに考えときなよ、おにゃもーら。この様子だと、そら、遊びにまた行くぞ?その時に死ん、オッホン。居なかったら、そら、嵐呼ぶかもしれないぞ?』
『おにゃもーらあらしほしい』
途端、前方から雷鳴が。見れば数メートル先の空に暗雲が渦巻いて広がり始めていた。
「いらないいらない消してくれ」
焦るおにゃもーら。ぼくもあの中へはごめんかな。
『そら、嵐はいらないってよ。ほら、お前さんの名前に反応するだろ?気にいってる証拠。ねぇ、名前本当におにゃもーらなの?外の名前おもしろいね』
「違うんだが、この子に付けられた」
「本当は?」
「……いや、いい。名も呪いの一部にされてから、私の名は無いも同然だ」
『んじゃ、おにゃもーらだな』
「おにゃもーら」
『おにゃもーら』
おにゃもーらを連発するぼくとそら。だって、なんか、ぼくが名付け親になったみたいで胸がウズウズしるんだもん。ちょっとふざけちゃお。そらは真剣に呼んでいるんだろうな、返事してほしくて。
私はどうすれば、と困惑するおにゃもーらに、じぃは『笑っとけー』と笑っていた。
「おにゃもーら、花似合うね」
花の似合う人だなと、唐突に思ったので。言いたい事は言っておく精神なもので。
「初めて言われた」
おにゃもーらはただ驚いただけのようだ。目を真ん丸にしている。
「初めて言った」
「そうか。き、君も似合うぞ」
照れてる。案外かわいいね。
「ありがとう」
『かあーっ、あまずっぺえぇ。持ってけ一輪!』
ブォン!!っと風が唸るくらいの速さで、じぃは足元の花を引きちぎった。……ちょっと待て?そらが頭に乗ったままでは……良かった、まだ頭に引っ付いている。ん?この花は……。
「びっしり刺だらけ! この花は持てないよ」
『あれ!?スマン! こっちは』
ブォン!!
口元の花を勢い良く投げ飛ばし、じぃは目の前の花を引きちぎった。ちょ!?そらが乗ってるから!
「申し訳ないがそれは人間には毒がある」
『ええ?! じゃあこいつ』
ブォン!!
口元の花を以下略。ちょ!?そらが!
「うへぇ、歯のある動くのはいらなーい。ねぇ、そらが」
『これはどうだ?』
ブォン!!
口元の以下略。ちょ!?そら!!
「発光物質の成分は?」
『知らんなぁ……これは?』
ブォン!!
以下略。そらが乗ってるってば!!
「普通ないの?」
『普通って、全部普通だぞ?』
「あー、なるほど。ぼく見てるだけでいいや。ねぇ、そらが頭に乗ってるからね?」
「……一見ただの薔薇に見えても何か違うのだろうな。私も見ているだけで」
『じゃあ石は?』
「黒曜石だっけ?」
『おう、あの穴のでも良いけど、疑似石で良いならお前さんらの周りで転がってるのはおれから出たのだ。いつだったか来た人間も一欠片持ってったし、好きなの持って行きな。その内転がって落ちるだけだからさ』
「それは……オン国の国宝になっているかもしれない。“力”の凝縮が異常なまでに有り過ぎる、と聞いたことがある。これがその……。確かに、見た目は普遍的な疑似石だが、奥に有り得ない程の“力”が内蔵されているな」
おにゃもーらが手に取ったのはポケットに入りそうな大きさの疑似黒曜石。もしかすると。
「へぇ……ねぇ、それブースターになるかな?」
「なるが危険だ」
おにゃもーらの眉間に深い皺が。前から思ってたんだけど、紙がほしいな。皺にぐいっと挟んで笑いたい。
「上等じゃん?」
「まずは自身の“力”の制御から学べ」
おや、ぼくが正論に従うと?
「うん、宜しくね、おにゃもーら師匠」
にっこり笑ってやろう。
「…………………………は!?」
そこまで驚く?ぼくからしたら当然だけどな。
「あのね、ぼくは自分の目で見て耳で聞いて肌で感じた事が第一なの。だから、例えらいあからだろうと、紹介されてもどう感じるかで断ると思うんだ。おにゃもーらはその点クリアしたから」
「不合格にしろ。私は機構だぞ?」
機構って言うのすっごい嫌そうだね。
「あんたの表の顔なんてどうだって良い。ぼくの感じた事とぼくの意思がすべてだから」
「私の意思はどうなる?」
「変えて。損はさせない」
「とんだ自信だな」
「欲深いでしょ?それだけが取り柄なんだ」
「取り柄?まぁ、取り柄と言えば取り柄か。……確かに、君を見ていると、自分が恐ろしく謙虚に見えるな」
『さっきの話を聞いても詳しくは分からないけど、おにゃもーら、なんか我慢してるんだろ?良い子ちゃん似合わなそうなのに大変だな』
何処までも他人事の様な言葉だが、じぃからは本当に案じている気配がする。
「良い子……?そうか、そうだな」
ニヤリ、とおにゃもーらは眼光鋭く笑んだ。狡猾な笑み、似合ってるよ。
「そろそろ、良い子の仮面は捨てるべきだよな」
「よし、機構辞めてぼくの師匠になろう」
「いや、機構は辞めない。そら、私に“幻影”をかけてくれないか?いまも呪いにかかっているように周囲に見せてほしい」
呼ばれたそらは勢い良くおにゃもーらの前に来た。楽しそうな、嬉しそうな気配がする。
『まぼろしんおあー』
『おお! 新しい掛け声かわええ』
じぃ、感動するのは良いから揺れないで。君の背は生えてる木以外ツルツルなんだよ。ぼくは慌てて木にしがみつく。
「君、“目”で見てくれないか?」
木に掴まるおにゃもーらの心臓は再び靄に覆われていた。
「あの空間で見たように見えるよ」
「よし、このまま機構で働くが、君、オン村地区本部へ私を売れ」
おにゃもーらなんか元気になったねぇ。目が生き生きしてるよ。
「人身売買は違法だよ」
「違う。私が機構の情報を流すから、その情報を受け取ってもらえるよう進言してほしい」
「ああ、じゃあらいあに」
「零輪の地区長は止めてくれ」
「なんでそんなに嫌がるのさ」
理由が全く分からないんだけど?
「あの人は一旦身内に入れれば易しいが、そうでないものには容赦が無さ過ぎる。他経由でオン村地区本部に入ってからでないと身が持たない」
そりゃそうじゃない?おにゃもーら敵だったんだし、とはまぁ、言わないでおくよ。身は持ってほしいからね。
「そうなんだ。ぼくには優しかったよ?」
「無条件でか?」
「うーん、らいあの体調が悪くなって“力”を渡したけど、それくらいかな」
「込み、か」
おにゃもーらがボソリと呟いた。
「何って?」
「機構では仕事量を減らさんとな。あいつらに汲みするのはもう懲り懲りだ」
無理矢理話をはぐらかされた。かなり気になるんだけど。まあいいや、ぼくはぼくの目を信じよう。例え間違っていたとしても、自分の選んだ道を進まない事はないのがぼくだ。
『おにゃもーらもんばん』
そらはおにゃもーらの周りをぐるぐる。
『そら、おにゃもーらはまだあっちで仕事があんだとよ』
『んんあおにゃもーらもんばん』
上下左右にジグザグ飛ぶそら。おお、アグレッシブ。
『ありゃ、珍しいな。そらが駄々捏ねてらぁ』
「仕事量減らしたら門番出来る?」
「済まない。これからは地区本部への時間を増やしたい」
「そら、遊びに来る時間増やしたら?」
『んんあんあ』
ふらふらとじぃの頭に戻ったそらは、ペショリ、と音が出そうなくらいに平たくなってしまった。
『ありゃりゃ、拗ねちゃって。そうだなー、おにゃもーらと暮らしたらもっと一緒に居れるんだけどなー』
『そらおにゃもーらくらす』
飛び上がり光るそら。元気になったね。良かった良かった。
『そっかー、たまにはこっち来いよ』
『そらじぃとこくる』
「ま、待ってくれ。私の家は機構に監視されていて」
『そんなのそらがなんとかするって。ほれ、多大なる借りを返す時だぞ』
「なんて代償だ……」
頭を抱えるおにゃもーらの周りを光るそらがぐーるぐるぐる。
「良かったね、そら」
『そらしゅゆあう』
おや、ぼくとも遊んでくれるんだ。
「うん、遊びに来てね。おにゃもーらの家、ぼくも行きたいからこっそり連れてってね」
『そらしゅゆおにゃもーらいえ』
「嘘だろ……いまからドッと疲れが」
力無く木に凭れ掛かかるおにゃもーら。その木、良い窪みがあるじゃん。ぼくの後ろの真っ直ぐなんだよ。移動しよっと。
『アハハ、楽しそうだなぁ。おれも行こうかな』
「「場所が無い」よ」
『……そら、おれ小さく出来る?』
『できる』
『よっしゃあ! 遠足だ遠足ぅー』
「にりんにお弁当作ってもらうよ。何か食べたいものある?」
きゃいきゃいはしゃぐぼく達の横で、「人生で初めて胃が痛いかもしれない」と遠い目になったおにゃもーらは独り天を仰いでいた。




