昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・九
※注意※半ばで微々出血してます。苦手な方はご注意ください。
にりんの通り過ぎながらの台詞の後、しゅゆから引き戸の向こうの人が目視出来るようになってすぐ血が出て来ます。
にりんの台詞後からスススッとスクロールをお願いいたします。
コンコンコン。
「しゅゆ、無事か。怪我は?不調は?」
たてこうはぼくの体の線を肩から順になぞるように撫でていく。けどなんてことはない。無骨な触り方からして、気分はボディチェックを受けている怪しい者である。もしくは骨格検査を受けている人。骨格検査は何かって?いま勝手に作ったのでぼくも知らない。
「無事。怪我してない。なんともない。それから、ぼくここの二階に住むから、たてこうは三階に住んでね」
「分かった」
コンコンコンコン。
「即断だね。疑問無いの?」
「ここに来るまでに親切な方に村での生活の仕方を伝授された。直通特急列車の図書室で借りた本で主だった制度は覚えた。今回の旅は長かっただろう?最低保障制度があるそうだから、旅と同じ期間は休もうと思っている。借りられる家があって良かった」
図書室か。なるべく時間を無駄にしない、たてこうらしい過ごし方だね。ビュンッ過ぎて外を見る気になれなかったのかもしれないけど。
「そうだね、ぼくものんびりしたいかな。ねぇ、ここ、外から平屋に見えなかった?」
上があるのか!?と驚くたてこう、見たかったんだけど。
「そうなのか?知らなかった。お前の“力”が感じられたからそこだけに集中していた」
僅かだけど、別の方向に驚いたのでよしとしよう。
「そう」
生まれつき“力”を使えない体質な為に“力”を感じられなかったたてこうは、ぼくの“力”を感じたいが為に訓練して、ぼくの“力”だけならば感じられるようになった。
しばらく離れてても、ぼくの“力”、忘れなかったんだね。……あれ?まだ一日も離れてないや。昨日までの事が遠く感じるから、何日も離れていたと思ってしまっていたよ。
コンコンコンコンコン。
……たてこうで見えないけど、さっきから玄関の戸を叩いている誰かがいるらしい。背後のみんなから不機嫌な気配が流れて来ているので、招かざる者らしい。よし、困った時のたてこうだ。
「たてこう、戸を閉めてきて」
「分かった」
たてこうは素直に頷くと、くるりと玄関へ向かい、引き戸の取っ手に指をかけた。
「待ちなさい。君、待っ」
引き戸の向こうに居た人は問答無用と言わんばかりに素早く引かれた戸で姿が見えなくなっ――。
「痛! 待ちなさいと言っている!」
らなかった。向こうの取っ手に指をかけたらしい。戸はあと拳一つ分の所で止まってしまった。たてこうの肩の上の空間だけ開いたので見えて分かった。
そりゃ痛いよ。たてこう馬鹿力だから。なんで戸ごと掴まなかったの?あ、そっか。戸の側面はもう家の敷地内だから手を入れれなかったんだ。
「ハァアー、しゅゆ、済まんが連れを止めてくれんか。こうなったら話すしかない」
おおねは盛大な溜め息と共にぼくの横に来た。玄関では閉めようとし続けるたてこうと粘る向こうの人の静かな攻防が行われている。
「たてこう、もういいから戻って来て」
「良いのか?このまま向こうの指を折ればいけるぞ?」
振り向いて聞くたてこうに他意は無い。なかなかな台詞だけれど、本当に無いのだ。
「お前とお前の連れは凶暴なのか?」
おおね、何故ぼくを入れる?ぼくは止めたよね?
「素直なだけだよ」
「そうだと信じたい」
「止めるならば早く止めてくれないかね?未だにこちらの指を折りにかかっているのだが!?」
戸の向こうからは少し焦り気味の声。
で?だからといってぼくが急ぐ必要が?あー、でも、たてこうの指が疲れるのは嫌だな。
「たてこう、ぼくの作った黒糖まんじゅう食べ」
「食べる」
「うっ!?」
向こうの呻き声は、たてこうが突然手を離したので勢い余って開き過ぎた為に出たようだ。どのみち、ぼくには初めから現在までたてこうの身体で隠れていて見えず全て想像なので、たぶんそうだろうね、という程度だ。
たてこうは靴を脱いで揃え、「お邪魔します」と上がって来た。
「指見せて」
「怪我していないぞ」
「赤くもなってないね」
「ああ、心配してくれたのか?」
「ふん、別に」
「ありがとう」
「別にって言ってる」
「そうだな」
「えへへ、仲良しだねぇ」
嬉しそうに笑うおおねは、まだ腹を出して寝転んでいた。おおね以外はみんな立ってちゃぶ台の前に並んでいる。眉をキリリと吊り上げたにりんは塩と胡椒の瓶を手に。穏やかな表情のしじょうはさっきぼくが借りていた聴診器と細い懐中電灯、ぷるぷる震えるせいは紺色の座布団、愉快そうならいあは淡い藤色の扇子。
ぼく達は何と闘おうとしているのだろうか?
「すみません。手洗いうがいをしたいのですが、手洗い場を貸していただけませんか?」
「あ、どどどどうぞ。こち、こち、こちられす!」
震えるせいはたてこうを連れて奥へ行こうとしたが足が動かなかったよう。案内を代わったにりんとたてこうは奥へ。
にりんがぼくの横を通り過ぎる時、「あの制服、機構の上層部よ。特殊な“力”に気をつけて」と言って行った。
カッコいい。にりん、妹にしてください。
「ハアァ」
気怠い溜め息は、ようやく姿が見れた戸の向こうの人のもの。
白い手袋をはめた右手の指先から血が滴っていて、これまた白いハンカチを添える所だった。
たてこう、骨折ってたかもよ。怪我なくて良かったけどどんだけきみの指は頑丈なのさ。引き戸は?引き戸は壊れなかった?
「ハアァ、オン村地区保護機構だ……。そちらの者の“力”の調査を行う。来てもらおうか」
疲れたような顔と声だが言う事は言う主義らしい。
「断る」
おおね即答。
「断る権利は無い。君、早く来なさい」
「嫌だ」
ぼくも即答。
「君は説明無しに入村した為に知らないのだろうが、“力”の有る無しに関わらず、入村するならばどのような者でも調査を受けるのだ。その順番が来ただけの事。この村で暮らすのか観光かは知らないが、どちらにせよ調査は受けなければならないという規則がある。守らねば強制退去となるぞ」
表情は疲れていながらも視線は鋭く、声にブレが無い。意志の固さが伺える。
そこは敬ってやっても良いけれど、その制服が気に食わない。ぼくの敵であるアイツが晩餐会に呼ばれた時に着るものから華美を引き、変わりに攻撃・防御等の性能を高める為の細工が襟の端から裾の裏まで施されているとしても、気に食わない。それは戦闘服だ。晩餐会だろうが、家の中であろうが、誰かを貶める為の服だ。まんじゅうを食べていただけのぼく達の目の前で着るものではない。
「待て。調査はオン村地区本部職員同行の元、オン村地区本部内で行われるのが決まりだ。そちらが連れていく必要が無い」
おおねの制止に、白い手袋の人は胸元からカードのような物を取り出した。縁取りが深い緑だか黒だか泥土色だかにも見える硬質なカードには、ビッシリと細かな字が書かれている。右下に親指の爪くらいのマークがあるが知らないものだった。
この距離だと読みにくいんだけど?ぼくは近付かないよ。面倒くさい。
「当てはまらない。特別調査の許可が下りている」
「その紋章は」
おおねは知っているようだ。その声に少し影が差している。
「さあ、来なさい」
おおねの勢いが削げたなら、ぼくが出せば良いだけだ。
「ぼくの“力”に興味があるのなら、なんで昨日地下で水から上がったぼくをほったらかしたのさ。おかげでけっこうウロウロしなきゃいけなかったんだけど?」
「何だと!?事故に遭ったというのに手当ても何もなかったのか!?」
いつの間に帰って来ていたのか、背後からのたてこうの大声にさすがに驚いたぼく。
ちょっと、不意打ち止めてくれない?
「地下ではね。自力で地上に出てからこっちのみんなが助けてくれたんだよ」
「そうか……」
たてこう、神妙な表情に黒糖まんじゅうは合わないよ。しかも、もう食べ始めてたんだね。お茶も持ってるじゃないか。
「地下での対応は少々不手際があったようで申し訳ない。しかし、君の“力”に興味があるとかそういう問題ではない。調査は義務だ」
ふーん、いまちょっと本気で謝ったね?少なくともあなたはそう思っていると言う事かな。
「特別調査は義務ではない。機構共が勝手に作り上げた欺瞞調査だろうが」
えええ、言っちゃったよ。おおねがズバリ言っちゃったよ。どちらが本当かぼくには判断出来ないけど、おおねが言葉で殴ったのは確かだよね。
「……おおね地区長、口にも気をつけることだな」
「ご心配無く。既に暗黙の了解の事案だ」
「ハァ、時間の無駄だな」
場の空気が変わった。
~半ばまとめ~
引き戸の向こうの人は機構職員でした。たてこうとの引き戸バトルを終えた機構職員は溜め息をついてます。しゅゆはたてこうの力の強さに引きながら、引き戸が壊れていないか心配するのでした。
お読みいただきありがとうございます。




