昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・七
「ほんとにある……」
それからまんじゅうが適温に下がるまでの間に、ぼくは二階へとやって来ていた。おおねが案内をしてくれた。やはり階段は押し入れの中にあった。
「外から平屋に見えるのは、裏庭の樹が表の道から見えた方が景観が良いと当時の建築士がこだわったそうだ。特級の“力”の陣で透明を維持している。維持の義務は無いが、少しの“力”だけで維持出来る範囲な事と、せいが望んでいるので継続している。ここは三階建てだ」
下から見えないよう、窓に近付かないようにするぼくとたてこう。外からは透明なんだけど、念のためにさ。
「へぇ、上もあるんだ。あれ?三階への階段は?」
聞きながらもう一つ並列している押し入れの戸を引くと、上へ行く階段があった。え?一階から二階の階段のある押し入れと二階から三階への階段のある押し入れの間仕切りあるし、これ一回部屋に出ないと上に上がれないやつじゃん。そこは蛇腹型が良かったかなー。あ、仕切りに穴空ければいけるか。
「穴を空けるなよ。このように外と中が異なる家はオン村は多い。掃除が楽だからとあえて狭くする者もいる」
「何故バレた?空間に作用する“力”なんて、なかなか使える人いないよね。すごいな」
「爛々とした好戦的な顔だった。外では使えなくても、オン村で使えるようになる者は多い。オン村では空間が歪みやすいからだ。零輪を筆頭に、強大な“力溜まり”が多数ある為と思われる」
「良い顔してるでしょ。へぇ、そうなんだ」
言葉の冒頭が暴投気味なぼくたちはこれでも雰囲気は悪くなかったので、恐らくこれからおおねとはこんな感じで遊ぶ事になりそうだ。うん、これもまた面白い。
「しゅゆ、君はここで何を得、何を求める?」
突然変わったおおねの気配。重くなる空気。けれど、ぼくには知った事ではないので乗ってやらない。聞きたいことを聞くだけだ。
「表の機構に聞かれたの?」
「何故そう思う」
「さっき、仕事中って言ってまんじゅう断ったじゃない。なのに、空き家案内なんてタダじゃしないでしょ?」
「クックックッ」
「うわぁ、笑ったぁー」
俯いて肩震わせて歯を噛み締める笑い方、それ悪な笑みだよ。似合ってるけどさ。
「何故身を引く」
「邪悪な笑みへの心の引き具合を表しただけだよ」
「失礼な。君ほどではない」
「これがぼくだよ。褒められたと受け取るよ」
言葉の暴投に戻ったぼくたちは、たぶん、視点が違うだけで似た事を考えているんだろうな。
「君、にりんとせいになんぞしてないだろうな?」
そう、にりんとせいについてだ。けど待て。その質問はちょっと待て。
「バカ言わないでくれる?あんなかわいい二人になんかするわきゃないでしょ」
「同感だ。君に偽りがないようで安心した」
思いのままに噛み付いたが怒る気配もないので、恐らく本心ではないのだろうね。
「じゃあぼくここに住むよ?後でたてこうも来る。ぼくの幼馴染み」
「その幼馴染みは来たら必ず私に会わせなさい」
「分かった」
たてこうならきっと了解を得るはず。そういえば、微妙に似てるかも?たてこうとおおね。特に体格が。
「ならば良い。……にりんとせいを頼む」
なんでそんなに歯をくいしばって頼むのさ。
「何言ってんの。特ににりんにはあんたが居るでしょ?」
「……あいつは孤独だ。村には馴染んでいる、心を開いているようにも見える。だが、孤独が消えてくれない」
歯をくいしばっているせいでちょっと聞こえずらいけど、にりんが孤独の中に居るってこと?ふん、にりんに甘えちゃって。
「あんた、にりんの事、ちゃんとぎゅっとしてるの?」
「ハァ!?なっ!?」
へぇ、あんたも驚けるんだね。眼鏡ずれたよ。
「別に触れってことじゃないよ。声でも言葉でも温もりは渡せるでしょ?案外人の温もりって忘れるの早いもんだよ。忘れられない内にぎゅっとしなよ。毎日会う度好きって言うとか」
現にいま、ぼくはたてこうの温度を少し忘れている。ゾッとするね。たてこうの温度なんかに気を取られている自分に。
「ヌッ、グッ、ウゥッ」
唸り、瞳を閉じ両の拳を握るおおね。殴ってくるの?負けはしないよ。けど違う感じだなそれ。なんだそれ。
「それどういう感情の最中?」
「……分からん」
「まさか嫌なの?」
「嫌ではない!!!」
「声、下に聞こえないの?」
「あ」
にりんの事になるとうっかりさんになるのか?だったら仕事をうっかりしてでもにりんにははっきりしてほしいんだが。
「とにかくあんたパートナーなんでしょ?ぐだぐだしてないでパートナーならパートナーしか出来ない事から考えなよ。ぼくはぼくなりに、にりんとせいとキャッキャウフフしたいししてるからさ」
「……言い方は苛立たしいがその通りだ。善処するよう心掛ける」
そう言うのならばこの人はそうするのだろう。
「頼むよ。ぼくはまだ知らないことが多すぎるだろうからね。人の事だけじゃなくて、機構とか本部とかいろいろあるってにりんに聞いたよ」
派閥争いだかなんだかどうでもいいけれど、間近で火の粉を飛ばすのならば容赦はしない。けれどその前に、火の粉の側へ寄らぬようにしなければキリが無い。
「ああ、いま居る機構は適当にあしらっておこう」
やっぱりまだ居るの?
「あしらえる相手なの?」
「……なんとか。多少地面が割れるかもしれんが」
「武力じゃん! 止めてよ、地震なんて起こしてせいとにりんが驚いたらどうすんのさ」
「同感だ。しかし難儀かもしれんくてな。機構はお前の“力”に興味を持っているようだ」
「昨日地下ではほっぽってったってのにぃ?」
しまった。不快過ぎて顎が出てしまった。おおねの肩が吹き零れそうな鍋の蓋くらい揺れている。そこまで笑うなら声出して良いよ、もう。
「た、確かにな……地上に出てから起きた事で興味を持たれたか……それとも『そらのうた』が関係あるのか」
「あ、それ、『そらのうた』。しじょうさん?が教えてくれるって言ってたけど、まだ聞いてないや」
「そういえば、そろそろしじょうが診察に来る頃だ。私も詳しくは知らないのだ。聞いてみるか。下りよう」
「うん、まんじゅう食べよう」
「私もいただいて良いのか?」
「あんたが良いなら良いよ」
「ならばいただく」
古めかしい木の階段はまったく鳴らず、見掛けによらない頑丈さに感心しつつ一階へ戻ると。
「来た来たー。まんじゅう食べよー」
寝っ転がって食べるの?うしお。あ、せいの隣に正座してるしじょうさんが。
「お邪魔しているよ。お嬢さん、ご加減如何かな?」
前半はおおねへ、後半はぼくに向けた言葉だった。ぼくをくまなく“診”ているのが分かる。ぼくはそれを受け入れる。
「元気だよ。まだ満タンではないけどね」
「そのようだね。しかしお嬢さんの“力”は流れが上手いね」
部屋奥のしじょうから時計回りに、せい、うしお、らいあ、おおね、ぼく、にりんと座る。丸いちゃぶ台にはまだ温かいまんじゅうが並べられた大皿と、全員分の飲み物と取り皿。準備万端だね。
「初めて言われたよ。流れが上手いとどうなるの?」
「流れが上手いと無理な力で動かない。余分な溜めが出来ない。溜めないという事は滞らない。滞らないと言う事は淀まないと言うことだよ。淀まないと言う事は腐らず発酵もしないと言う事だ」
なぞなぞみたい。面白いね。
「ふぅん。なかなか良い“力”を持っているんだな?ぼく」
「でも発酵しないんだよー?発酵しないとパン出来ないじゃーん。まんじゅう食べよー」
ぼくはパン酵母ではないから、発酵出来なくても良いと思うよ。それに、さりげなく願望を入れてくるのは嫌いじゃないよ。ま、聞くかは別だけどね。今回は聞いてあげる。せいが「わくわくして待ってます」って顔でかわいいからね。




