昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・六
「せいは切干大根煮とひじき煮と厚焼き玉子ね」
「あ、ぁりがとぅ」
「らいあはひじき煮ではなくて鯖の塩麹焼き」
「ありがとう」
「うしおはそれらの残り物と揚げ物の欠片を詰めたもの」
「おー! 盛り合わせー! ありがとおー!」
「前向き過ぎる。ぼくも見習うべきなのか?」
にこにこと首を横に振るにりん、再び。らいあも苦笑している。
にりんたちはお昼御飯を食べていた。ぼくはもう食べていたので、いまはオン村の地図をせいから借りて見ている。
ここ本当に村なの?コレものすごく広いよ?ここらの通りを覚えるだけで数日は楽しめそうだね。
あの音はどうしたのかって?それはもちろん放置だね。「近所の人が通報したろうから、放っといていい」とらいあが言ったら、にりんが「それじゃあ御飯にしましょ!」と手に握っていた塩を瓶へザァーッと戻した。一粒も溢れないってすごい。
手のひら乾燥してるのかな?保湿剤は売って無いのだろうか?違うか?高いのか?ぼくに買える範囲だと良いけれど、働いたら買って贈ろうかな。質や安全性もじっくり調べてないとだね。
「ふぇ、きゅみあどぅからきゅらの?」
「うしお、よう噛んで飲み込んでから話しなさい。なんと言うておるのか分からん」
うしおと言う人……人?もののけ?はなんか、頬袋のある動物みたいな人だな。お腹もぽてっとしていて、うーん……近所の子が飼ってたハムスターみたいな?……いやぁ、ハムスターのがかわいいな。比べてごめんよ、ハムスター。
「ねぇ、君どっから来たフグッ!」
にこにこにりんがその口に黒パンを押し付けた。
「そういうことは聞いちゃ駄目なの」
「ほぉーなの?ごべんなざい」
黒パンを咥えながら目に見えてしょぼくれるうしお。演技ではなさそうだが。
「申し訳ない。これはちいと土足のまま突っ走る故」
らいあは困ったように謝ってきた。困ってはいるが苦には思っていないようだった。
「え!?らいあが謝るくらい悪いこと聞いちゃったの俺!?ごめん! ごめんなさい!」
口に咥えていた黒パンを落としながら頭を下げるうしお。驚きつつも手をサッと伸ばして黒パンを空中キャッチするせい。
瞬発力良いね、せい。
うしおの基準はらいあなんだ。なら、ぼくはらいあに特に気を付けるべきだな。らいあがぼくにしたことはうしおの基準になり、ぼくがらいあにしたことがうしおにしたことになるのだろうから。
「そうも身構えんで良い。取って喰わん。慣れてからでよいが、気を張る場所を間違えぬよう。疲れるでなぁ」
ぼくに笑む目に偽りややましさは無く、ただ真っ直ぐな強さが奥に宿っている。
「ねぇ」
「ん?」
「ありがと。昨日の、庭で」
あ、失敗。ちょっと素っ気なかったかな。
「ああ、良い。無事で在ることが何よりだ」
頭に大きな手が乗った。わしわしと前後に揺れるくらい撫でられる。
髪、髪がぐしゃぐしゃ!
「ぬぁーもぉー」
ベリッと手を引き剥がす。
「アハハッ!」
カラッと笑うらいあ。
ああ、大人だ。いや、年齢うんぬんじゃなくてさ。大人な対応をされてしまった。嫌ではないよ?顔が暑いだけだよ。
「仲良しだねぇー」
うしおが満面の笑みで黒パンを千切っている。
どうして。
「どうして一発殴りたくなるんだろう」
「え?らいあを?」
目を真ん丸にして手が止まるうしお。
きみの主語はらいあだけなの?
「きみをだよ」
「あぁ、俺ならよく言われるぜぇー。なんでかねぇ?」
「能天気過ぎる」
「それも言われるぅー」
と、震える声がか細く上がった。
「お、おれは、うしおさんみたいにな、なりたいです」
「おおねの為にもやめたほうがいいわ」
「やめておけ。おおねが崩れ落ちる」
「とめた方が良いとぼくの全神経が言っている」
ぼくを含む三方向から止めが瞬時に入った。せいはきょとん、と不思議そうなだけだった。
気持ちは分からなくもないけどさ、うしおになったらなったで困りそうだよ?会って数十分のぼくですらそう思うからね、よっぽどだよ。たぶん。
「へぇー、良いんじゃない?俺は歓迎するけどなー」
うしおの口に白パンと緑色のスティックパンが同時に当てられた。
「うまそうだな」
おおねの眼鏡が曇っているのは、ぼくが蒸した黒糖まんじゅうの湯気でだ。
えっと、熱くない?あと二歩横に動く事を勧めるよ。あ、そっか、湯気に気付いていないにりんに当たらないように壁になってるのか。それにしてももう少しずれても問題なさそうだよ。いま直撃じゃん。
「食べる?熱々だよ」
お昼御飯を食べ終わっても外は微妙に騒がしそうで、面倒がって誰も出ずにいた。各々自由に過ごしている中、にりんとぼくは、ぼくが作れる唯一の料理である黒糖まんじゅうを一緒に作っていたのだ。
まんじゅうが出来あがっておおねがやってきたので、にりんはお茶を入れている所だった。
「いただこう、と言いたいのだが、仕事中でな」
「なら持って行きなよ。せい、ここの容器使って良い?」
「うん、これなら、熱いの入れれるよ。この菜箸使えるよ」
せいはわざわざ立ち上がって持って来てくれた。食の細さを目の当たりにしたからか、体力温存してほしいと思いつつ、気遣いに胸がほんのり明るくなるようである。
「ありがと。何個いる?」
「俺三個ー」
後方床から上がるはのんびりした声。
「うしおにはまだ聞いてないから、後でもう一回言って」
「ん?俺三個ー」
「ん?ぼくの話そんなに難しかったかな?」
「ん?」
腹を出して畳に寝転がるうしおは純粋に分からないようである。座椅子に凭れるらいあがその腹をぽよん、と優しく揺らすと、うしおは嬉しそうに口を開けて笑んだ。
「随分打ち解けたようだな」
眼鏡の曇りを指で拭っているおおねはおそらくせいに聞いている。ぼくの勘が言っている。この人、せいの事目に入れても痛くないくらい好きだ。
「う、うん。今日は、楽しい。あっ、ごめんなさい、しゅゆさん、は、事故で来たのに、楽しい、なんて」
「大丈夫大丈夫。事故は大変だったけど、いまはぼくも楽しいからさ」
そう、事故に遭ったと忘れるくらいいまが楽しい。
「そ、そう」
頬を染めて俯くせいには庇護欲を駆られる。
なんか、守らなきゃって気がするのはなんでだろう?
「はい、おおね、お茶……って大丈夫?湯気当たりまくりじゃない。こっち来て」
にりんがおおねをちゃぶ台まで連れて行った。
せいに器を持ってもらって、ぼくはまんじゅうを取り出していく。
「温かいおまんじゅう、初めて、だな」
目を細めて嬉しそうなせいにホッとする。かわいいな。
「和菓子屋のは冷めてるからね。まだ熱いから、もう少し冷まそう。きっと柔らかいよ」
「うん。良い香り、がする」
楽しみ。と笑むせい。
なんだろう?にりんといいせいといい、ぼくの胸を鷲掴みにする人多くない?ここら辺で空き家探さなきゃ。善は急げだ。
「ねぇ、この辺りで安い空き家貸してくれる所ないかな」
せいから器を受け取り運びながら全員に聞いてみる。
「それならここの二階が空いておろう」
らいあが言うが。
「え?ここ平屋でしょ?」
「見た目はな」
「見た目はね」
「見た目はねぇー」
「見た目は、そうなん、だよ」
「見た目だけだ」
え?どういうこと?




