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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
過去編・うしお
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物を得るときは仕舞いまでを、箱に入る時には出る時の事まで考えよ・八

 私がうしおフォークに拳を繰り出してナイフとともに遠ざけるのに必死な時、樽人は護衛に医師の到着を告げられていた。


「入り口前で待機をしていただいてください」


「ハッ!」


「らいあ、痛いとこないるん?寒くないるん?何かあるん?」


「そうだな……眠気とだるさと疲労感がある。耐えられない程ではないな。心配させてすまなかった、るる。ここは?うしおは?」


「らいあが無事ならよいるん。だいちさんちの客間るん。うしおは“力”が足りなくて食器に戻ったるん。でも元気るんよ。机の上で踊っているん」


 ……これは踊りではないぞ、るる。おそらくらいあの元へ行こうとしているんだぞ。


「医師がこれから来るよ。ねぇ、だいちブーツ破いたんだよ。紐だけ裂けばいいのにね」


 おや、るるに続いてしゅゆも名前呼びか。珍しい。樽人への壁の取り払いが早いな。


 るるもしゅゆも他人と一定の距離を取る子だ。特に名前。二人ともに、名前を気軽に呼び始めない癖がある。のだが。

 らいあも気付いたのか、樽人へ向ける目に興味の色が宿る。


「お話し中すみません、皆様、十八土炉の認定医師が来ました。診察は受けられますか?」


 樽人がそっと声をかけた。三人は頷き、樽人は医師の入室を求めた。


「倒れた患者はだ、樽から頭抜けなくなったのか?酸素と工具持って来てくれ」


「はい!」


 倒れた患者は誰?と言おうとしたのだろうか。途中、一目で医師らしき者は樽人を患者と認めたようだ。看護師らしき者に指示を出し、樽人の元へ向かう。

 うん、分かるぞ。抜けなくなった可能性を思うよな。だがその者は自主的に行ったらしいぞ(現在進行形で)。


「いえ、私ではなくこちらの方、らいあさんです」


 樽人は『止まれ』の形に上げた手を流れるように下げてらいあを示した。動揺を一瞬で消した医師はらいあに一気に近付くと断りを入れて脈を探った。


「こんにちは、十八土炉認定医師のもりなかです。らいあさんですか?」


「酸素と工具持って来ました!」


「のなかさん、樽は抜けるのでお構い無く。患者はこちらの方、らいあさんです」


「え?その声だいち区長?あ、は、はい、分かりました」


 動揺を抑え込み職務を果たすべく動く看護師に、護衛の同情の目が絶えなかったとさ。







「頭打ったか?これ何本に見える?というか見えてるのか?」


 らいあの診察を終えた医師は今度は樽人の前に指を出していた。

 らいあは“力”の乱れと木箱の事から来た疲労との診断だった。少し休んだのち帰る事となった。


「打っていません。見えています。一本です」


「誰かに“力”使われたのか?酸素の問題は」


「使われていません。酸素は大丈夫です。空気の循環は強制にしています。その他も問題はありません」


「問題ないなら良いが……何故樽……いや、ここで聞くものではな」


「診察終わったるん?なんで樽被ってるん?」


 医師の気遣いをぶった切ったるる。稲妻の如し緊張が走る一同。

 いや、らいあとしゅゆとるるとうしおは緊張なぞしていない。私?私は少ししたぞ。うしおがまた動き始めたからな。ナイフは立たすなと言うとるのに。らいあの方へ行くつもりか?ナイフとフォークは置いていけよ。ほら、その二本はわたしが拳で倒してやるから。


「恥ずかしかったもので」


「なら仕方ないるん。みんなもそろそろいつもの通りに過ごするん」


 緊張までもをぶった切るるる。

 樽に触れなければ皆落ち着いておるのだぞ、るるよ。


「そうだな。首痛めたり肩凝る前に外せよ」


「はい」


「それなんの樽るん?」


 再び緊張がダダダッ! と走る。

 るるよ。人間達を落ち着かせてあげよ。


「酒用ですが未使用ですよ」


「ならなおよいるん。るん、さっきの刺繍、“力”玉と交換してくれるん?るるはるるるん」


「あ、ぼくはしゅゆだよ。ぼくとも“力”玉と一枚交換してくれない?」


「ええ、お二人が良いのであれば。“力”玉は必ず適切な事柄のみに使わせていただきます。“力”玉の譲渡時は公的な書面を作らせてください。お休みの間、ゆっくりお好きな色を選んでくださいね」


 名乗られたのに名乗らぬ無礼を働く者ではないはずだ。樽人は明らかに意図して名乗る事を避けている。

 るるは頬を膨らませた。機嫌が急降下した証だ。


「だ、だいち区長。私達はこれで」


 るるを見た医師は離脱を試みる。

 なかなかの危機回避能力があるな。私もみりぃと湯飲みと出て行こうかな。しかしうしおがなぁ。ナイフが気になる。私が見ておらんと。


「はい。どうもありがとうございました」


「いやいや、だいち区長が緊急高速車を新型に、しかも増やしてくれたおかげで速く多く着けるようになったんだ。礼を言うのはこっちだ」


 やりおるな、お主。さりげなく樽人を持ち上げてやったのだな。るるの怒りの低減目的か、他地区から来た者から見た十八土炉地区長への好感上昇目的か。……後者に思えるのはわたしだけだろうか。


 樽人はまじないの影響の報告を聞きに医師達と共に出て行った。が、すぐに帰って来た。


「ごめんなさい。飲み物も出さず」


『何を言うておる。お前は区長なのだろう?そちらを優先するのは当然の事だ。行け』


 ここはいのちだけでも年長者な私が言うべきだろう。


「ありがとうございます。ですが、ご体調の優れない方もいらっしゃいますし……やはりお水だけでも持って来ます」


「取りに入って良いなら、ぼく行ってくるよ」


「そうですか?すみません、お願いします。台所は廊下を真っ直ぐですので。あ、お湯を沸かしていただいても構いません。お茶菓子もありま」


『分かったから早う行きなさい。しゅゆの事だ。お前が思うよりも勝手知ったる庭の如く手を出して来るわい。任せればよろしい。逆にしてほしくないことを述べておいた方がよいぞ』


「では、二階はご遠慮させてください。一階はご自由にどうぞ。トイレも浴室も一階にあります。掃除もしてあります」


「分かった」


『綺麗好きなのか?樽人よ』


「そういう訳ではないのですが、第一級防御の避難場所ですからね。何時でも使えるように清潔さは気をつけています。それに休日は……暇な時が多いので」


 ああ、護衛達とみりぃの手が口元へ。確実に猫が増えるな。あの様子では人も増えるかもしれん。

 安心せよ。私も来てやるぞ。

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