物を得るときは仕舞いまでを、箱に入る時には出る時の事まで考えよ・二
「ま、ままままままずい! 俺封じられるかもおぉ」
は?
事態を飲み込めていないわたしの耳にひっ迫した元同居人の声が響く。
「ひめめえぇ、一旦弱まってたこの箱のまじないが強まって来てるぅ」
それがどうした。確かにこの箱にはまじないがかかっているが壊して開ければよいだろう?石でもぶつけてやろうか。
「こここ壊せそうだけど反発もありそうだよおぉ。もしそれでまじないが破裂したら、“力”溜まりと作用し合ってこの辺りがどうなるか分かんないもーん!あああどうすんの!?うううーん、この種類のまじないでこんなに強くなるものかなぁ?あー! そっかー! 入った俺の“力”を吸ってるんだ! 俺ってけっこー“力”有るんだなぁーって言ってる場合じゃないぜ! えー、でもこれ難しいなぁ。えいっ! えいっ! んもー! 何このまじない! 俺が“力”強めると“封じ”と“吸い取り”の“力”も強まる強弱調整付きなんて出られないじゃん! ハアァァァー……うーん、こりゃ仕方ない、のかな。俺の不注意だし……ひめめ、お別れだぁ」
は?
「箱から今は出らんないからさ、次にまじないが弱るまで寝るわぁ。あーあ、大失敗しちゃったなぁ。けどらいあもるるも出掛けてて良かったぜ。今日のらいあ顔色ちょっと悪かったからさ、無茶させたくないし。ひめめ、らいあに無理しないでねって伝えてくれる?俺はその内起きるよ、きっと。いつか体調良くなって出来そうだったら開けて。体調良くなってほしいからこうは言いたくないけど、もし出来なくても遠い未来に自分で開けられる気もするからさ、無理無茶はしないでねって言ってね。はあああぁ、こりゃいつ目ぇ醒めるか分かんないなぁ。あーあぁ……こんなことならもっとらいあの側に居れば良かった。ひめめもごめんなー。俺の腹気に入ってくれてたのになぁ。ま、旅立てるとこまで育てれて良かったよぉ。ちっさな頃はどうなる事かとヒヤヒヤだったぜぇ」
何を言っているのだこのたわけは。
「あれ?てかこんなに強くなる調整付きのまじないで封じられてたってことは……入ってたやつヤバいやつじゃないか!?ど、どうしよう!?ちょっ、なんでこんなの送られて来たんだよ!?“力”溜まりの防御壁通ったからつい受け取っちゃったけど送り主誰!?てかなんで防御壁は作動しなかったんだ!?どうしようひめめ、ヤバいのこの家の中か村に出ちゃった!」
アワアワ慌てる元同居人・うしお。
そんなもの、この村に住むお前の言うところの他の『ヤバいやつ』がなんとかするだろう。どんだけの『ヤバいやつ』がこの村に住んでると思うのだ。あちらこちらだぞ?四方八方に居るんだぞ?わたしでさえ見つかるのだ。お前を入れた様なやつなぞ捕まるか消されるかだわ。
「ひめめ、ひめめぇ、どうしよぉ、俺眠くなってきちゃった……お願い、誰かにヤバいやつ出ちゃったって伝えて。お願いひめめ……らいあが、ここにはらいあが居るんだ。らいあは……らいあは俺の……俺の」
段々と小さくなる声。寝たのか?寝息が聞こえるわ。しかしさっきなんと?お別れだ?ふざけているのか。
『おーい! かしらー!』
門の方からわたしを呼ぶ声が聞こえて来た。部下のうらきちだ。名前をつけた人間によると、籤を引いて『吉』が出た時にうらきちが籤を結ぶ場所に寝っ転がって居たらしい。その時は『猫がいるなぁ』くらいだったが籤を引いてからやたらツキが良く、あの猫のおかげかも!?となった。『占い』で『吉』が出た、から名付けたとか。
……いや、違うだろ。籤を引く前にそこの主様に詣ったのだろう?その主様のおかげではないのか?人間とは時折ずれたことを考えるものである。
『かしらー! みんな集まってっぜー!』
ああ、そういえば今日は零輪地区町内会全体会議の日だったか。ちょうどいい。ふざけたやつを起こす為に一肌脱いでもらおうか。
『うらきち、会議は中止だ』
門をくぐって来た卜吉に告げると、尻尾がくねくねと動いた。何かに期待をしている時のうらきちの癖だ。
『おや珍しい他に用事か?って、なんだこの箱。妙な気配しやがって』
『うしおが閉じ込められた』
『それでか』
納得するな。失礼だぞ。まぁ、わたしもそう思ったが。おそらく妙な気配なのは木箱にかけられたまじないの方だ。
これまでの事とこれからの事を伝えると、うらきちの口の端がニイイと吊り上がった。この爛々とした目を見てもなお、縁起の良い猫と言えるか?名をつけた人間よ。
『おもしれぇ、ちょうど退屈してたんだ。他のやつらも喜ぶぜ』
『殺すなよ。うしおの替わりに入れねばならん』
『そりゃあ充分言いつけねぇとだな。承知したぜ』
さて、狩りの時間だ。
そいつはやけに足が速かった。
『へっへぇーちょこまかしてるなぁ。追いかけがいがあるってもんよ!』
『あっち行ったゾー』
『こっちだよぉ』
『あれ?もうそっちにいる』
『うわっ! 擦れ違ったら毛持ってかれたぁー。はっやーい』
猫達の嬉々とした声で辺りが満ちる。
やつはすぐに見付かった。零輪地区中の退屈していた猫達の数の多さと、やつの目立つ格好によるものである。
やつはなんと小さめの湯飲みだった。湯飲みから肌色の短い手足が生えているのはなんとも珍かだが、まぁそんなことどうでも良い。捕らえるのみが目的だ。
やつは零輪地区を抜け出て南東に隣接する三緒地区へ入ったが、三緒地区の猫達に総出で威嚇され零輪に戻り、今度は北東の四葉へ。四葉からさらに北東へと突き進み、六助地区と十二が丘地区を駆け抜けた。
今はオン村最北の十八土炉地区に来ている。
『おかしらー、三緒と四葉と六助と十二が丘と十三粉と十四果には話し通したよー。三緒と四葉と六助と十二が丘は事後報告になっちゃったけど『びっくりしたじゃん。先に言ってよぉ。まーいいけどぉ。こっちになんかあったら頼むよぉ』って言ってたー。十八土炉の縁っこの方から繋がってる十一添と十七魚にも伝達猫送ったよー』
情報隊の一匹がわたしの脇腹に顔を埋めながら報告してきた。たしかぐーりと呼ばれていたか。大人になったばかりの子だ、甘えたいのだろう。許してやるぞよ。
『そうか。よくやった、ぐーり』
『んえへへぇ。あ、そしたらね、十八土炉は人間の動きが早いよ』
『人間?』
『うん、くちょー?が中心になってね、猫語が分かる“力”の人間を集めて何が起こってるのか調べてる。十八土炉中の門も封鎖されてるみたい。猫は通してくれるけどね』
『ほぉ』
『町の人間もほとんど家に入ったよ。数人ずつ固まって移動してる人間はこっちのこと観察してるけど手も声も出さない。十八土炉の猫も『そいつらはくちょーのぶかだからだいじょぶー』って言ってるから無視してる。あ、きどーたい?は門で止めてるよ。あれは、ちくふくそーちょー?が派遣したんだって。やな感じのが混じってるから、威嚇猫達で十八土炉の門から先に進めないようにしてる。気付いたくちょーも止めてくれたよ。それとねー、関係ないかもなんだけど十八土炉の猫によると、くちょーが最近変わってから住みやすくなったんだって』
『具体的には?』
『んー?えっとねぇ、ピリピリしてる人間とやな感じの人間が減ったって』
『なるほど』
『あ! そうそう! さっきうらきちがくちょーに話かけられたよ! そのまま伝えるよー。『あなた方のリーダーにお伝えください。あなた方からのお声掛けのない限り十八土炉の人間は基本手出しをしません。なんぞの時には遠慮なくお声掛けください。極力町を壊してもらいたくはないのですが、あなた方の身を守る為にはやむを得ないと思います。どうかお怪我のないように』だってー』
『くっくっ、おもしろいやつが現れたな』
『おかしらご機嫌ー?良かったねー』
『ああ、ご機嫌だ。さて、そろそろ仕舞いかな。行くぞ』
『はーい』




