腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・二十一Sideだいち
「何故そうなる」
らいあ区長が代弁してくれました。
「いやぁさぁ、思い出したんだんけど、あっちの地区長に『あの賢者のお気に入りらしいな』って言われたんだんよねー。『あの賢者』って誰か分からなかったんけんど、だいちさん賢いからそうかなって」
あの賢者?誰の事だ?まさか他にも把握出来ていない者がいるのか?調べるべきだな。
「賢いかはともかく、私はあなたを目的としたこともことほぎ区長をお気に入りとしたこともありませんよ」
「だよねー。一緒に住んでてそんな気配ぜんっぜんなかったもんなん。今になって疑ってごめんね、だいちさん」
あっけらかんとしているので、どうやら簡単な確認だったらしい。良かった。
「いえ、元はといえば私の浅はかな思考と行動が原因です。あなた方に罪を負わせてしまい本当に申し訳ありません」
深く頭を下げる。しかし下げてどうとなるものでもない。巻き込まれただけの彼らの罪の跡が、他人の心や記憶、そして記録に残ってしまう。それを消すことなど誰も出来ない。頭を下げる事しか出来ないというのに私は彼らを巻き込んだ。罪の重さや深さに体を震わす。
「だ、だいちさん顔上げて! ほら! 魚! なんかさ、さっきは俺、なんてことしちゃったんだろう、これからもこの村に住めるのかな、皆に嫌われたかなってもやもや思ってたんだんけど」
ことひらきさんは片手で串刺しにした小魚を火で炙り、もう一方の手で私に同じものを渡した。
……えっ?なんですかこの魚は。いつの間に刺していたのですか?の前に魚は何処から?小魚を火で炙っている?自分で目にしておきながら信じられないのですが。
「したものは変えれない。それはその通りで、良いとか悪いとか考えたら悪いんだんからさ」
「ことひらきはちゃんと反省出来てるんるんね。こんなこともあろうかと塩を持ち歩いていて良かったるん」
「さすがるるだ。ほれ、お前の分だよ」
「るーん、ありがとるん」
「反省してるけんどん、みんなは受け入れられないと思う。そりゃそうだよんなんって思って」
「厳しいけれどそういう人もいるとは思うなのな。てん、さららが刺したのどうぞなの」
「あぴゃ、ありがとおかちゃま。るるちゃまお塩ちょうだいなのじゃ」
「どうぞーるん」
「そうだよね。俺塩かけたっけ?ありがと。でも俺、この村に居たいからさ。だから、俺頑張るよ」
「るるもお手伝いするん。ことひらきは目一杯素直な子るん。るる、始めはことほぎみたいに接してた事、しまった! と思ったるん。てん、いま焼いてるお魚は背中が小苦くてお腹は甘くておいしいるんよ」
「あっぱらぱん、なるほどお背中はおとなの味なのじゃの」
「るるちゃんに褒められちゃった。俺なりに村の役に立ってこうと思うんだん。まだ何をしようか決めれないけど。えへへ」
「さららも応援するのな。もう少ししてみんなが落ち着いて来たら学塔街に遊びにおいでなの。らいあのお魚は学塔街の川にもいるのなの。さららな、凍り鎖で漁をするのなの」
「ほお、凍り鎖?初めて聞く武器名だ」
「なのな、武器でないからかな。特注で“力”に添う作用のある鎖を作ってもらったのなの。さららが“凍”の力を込めても壊れないのなの。まず川にそのままの鎖を入れてな、それから“凍”の力を鎖に流すの。鎖は“力”に添うておるから“力”が離れなくて川に余分な“力”が流れなくなるのなの。鎖の近くにいたお魚だけが凍るから捕りすぎる事がなくなったなの」
「そうか。話を聞いていたら釣りをしたくなったな。うーむ、冬だからな。市場の養殖場に行くか。釣りコーナーがあったはず」
「え! 驚いて固まっちゃってたんよん。学塔街に行っていいの!?やったー! 行く行く! ばぁちゃんからの話とか教科書だけじゃ全然分かんないんもん。絶対行くからね、さらら様! 約束だんよん?」
「なのなの約束なのな。ほれ、ゆーびーきーりげんまーんうっそつーいたーらはりせーんぼーんつーくるっ、ゆーびすーるりっ」
「なんか俺の知ってるのと違うね。こういうのの違いって面白いよんねん」
「呑ますよりは良いな。呑ますと聞いた時正直背中に鳥肌が立ったぞ」
「みぴゃー呑ますの怖しー」
「俺のとこは、はりせーんぼーんいっととーおすっ、ゆーびーつったー、だよ」
「それはつるな」
「つるるんね。でもつったって事は約束破ったるんか?」
「みぴゃーつるの怖しー」
「そうそう、実はだいちさんの事、今はあんまりなんとも思ってないんだん。俺の中で色々ごちゃごちゃしてるから、考えれないのかもしれないんだんけど」
「え、ええ」
魚の話をし独白を聞きそれに答えて魚を焼きつつ日常を話しながら塩を振る。
一見渋滞しているように見えて内容も行動もスムーズですごいな。私はようやく一言だが。魚は尾びれが焦げてきた。
「俺さ、学校の行事でしか実家の地区から出たことなかったんだん。なんかさ、地区から出たら知らない怖いとこって気がして。でも今は俺もっと外に行きたい。怖いけど知らないのも怖いんだん。だってみんなと会って、俺の世界狭っ!?って思ったから。距離とか広さじゃないんだんけど、なんか、知りたいんだ。みんなの見た世界を」
ことひらきさんの瞳が火の揺らめきよりも強く煌めく。
「だからさ、だいちさん。俺がもっとでっかくなったらもう一度俺とこの前の事話して。そんでその時に俺がやっぱ許さないって怒ってたら、殴られてくれる?」
ことひらきさんの眩しい笑みに私の顔は曇った。
「……ことひらきさんの決意に水を差して大変申し訳ないのですが、未来の分を今殴ってくれませんか?未来で怒っていなくてもかまいませんので」
ごめんなさい。あれだけ話を聞いておきながらと言われそうですが、なんとかして村から出て行く予定な身なものでして。未来の約束までは出来かねるのです。
「ことひらき、よく言った。だいち、何時になるか分からんかろうからことひらきがお前を探さぬようこの家におるとよいぞ」
なんて嬉しそうなんですか、あなたは。
「なのな。そうしたらことひらきも安心して学塔街に遊びに来れるのな。楽子でない子っこだと、ここからそれなりな時間がかかるからな」
こちらも笑みの目映さよ。
「あぴゃ、てんもだいちさんと遊びたいなー?」
かわいい、妖精か?ではなくて。
「るると過ごせばよいるんるると過ごせばよいるん」
め、目を見開いて早口に二回言っているるるさん。ちょ、るるさんとらいあ区長という名のパンでの物理的なサンドイッチは止めてください!
「と、とにかく私が捕まらなければよいのでしょう?それならば死ぬまで逃げればよいのです。皆さんのお手間にならないよう、離れてた方が良いかと。私一人でしたらなんとでも逃げら」
「駄目るん!」
「え?」
「駄目るん! 一人で闘わないで! るるはだいちさんと生きていきたいるん!」
「え、あの」
「るると生きてほしいるん! るる、だいちさんの具だくさん味噌汁好きるん! だいちさんのたまにの笑顔、胸がきゅっとしてあったかくなるん! だいちさんのめんつゆお出汁三種類黄金比最高で美味るん! だいちさんのお手々で背中支えてもらうのすっごく安心するん! だいちさんの南瓜スープは裏ごし丁寧で濃厚で毎日でも飲みたいるん!」
少しばかり混乱してきた。これ恋というより味覚の問題なのでは?
「えーっと、もしかして私は汁ものしか作ってなかったでしょうか?もしそうでしたら申し訳なく」
「いや、いんげんの野菜炒めとひじきと鰹の炊き込み御飯も旨かったぞ」
「ぷちしふぉんけーちもおいちかったのじゃ」
「さらら、檸檬のむーすみるくじゃむ付き食べたいのな」
「はい! 俺、豚肉のとろとろ煮また食べたい!」
そうだ、固形物も作っていた。おおむね好評で良かった。ああ、そうか、私にはまだやれる事があるんだ。
「お褒めいただき光栄です。……るるさん」
「るん!」
「分かりました」
「ほぉ」
「あぴゃ」
「なななっ」
「おおー」
「私はあなたの家政士になります」
「「「「「はい?」」」」」




