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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
現在編
52/140

腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・二十Sideだいち

 さらら様の旋毛が見えてもしばらく私は固まっていた。なんとか息を整えてから出した声は意図せず冷え切っていた。


「顔を、上げてください」

 さらら様の肩がピクリと跳ね、ゆっくり頭を戻される。

 しまった、誤解されたかもしれない。

「だ、だ、だいちさん。だいちさんが怒るのも分かるんだん。勝手に決められちゃったもんね。で、でも、あんまり怒んないであげて?みんな、らいあとるるちゃんを、この村を守りたいんだんよ、きっと。俺が言える事じゃないんだけんどん」

 ことひらきさんが涙目で必死に声を掛けてくる。ピリピリしているてん様も刺激しないように、ゆっくりと頭を横に振る。

「いいえ。違いますよ。紛らわしくて申し訳ありません。怒ってはいません。自分を情けなく感じていたのであんな声が出てしまいました。ごめんなさい、皆様」

「え?」

「どうやら一番守られているのは私なのです」

「ど、どういうことなんのん?」


 顔を両手で覆って深い溜め息を吐く。吐き切ってから両手を外す。

 逃げてはいけない。私を護ろうと心を砕き、知恵を絞ってくれた人達を突き離してはいけない。前を向け。目を逸らすな。私は私の足で立たなければ。


「これは私の推測に過ぎません。恐らく、しのぶさんは地下水脈を噴出せざるを得なかった。水脈の中に悪しき魔物が居たから。そして悪しき魔物を倒すのみに留まった。流れ続ける水の中からは引き揚げられなかった。魔物の残骸はいまだ地下にある。その魔物の残骸は悪用される可能性のあるものだった。だから封印の地に村を作った。魔物の残骸を誰かが掘り起こさないように。そして、掘り起こしを防ぐ為に鍵を掛けた。その鍵はなんらかの方法で人と同化して代々受け継がれている。その鍵はしのぶさんの血を引く私、だいち。そして鍵である私を狙う他の子の楽子がいる。るるさんもその他の理由で身を守りたい。安全性や結束を高める為に私とるるさんとをまとめておきたい……合っていますか?」


 らいあ地区長が長く深い溜め息をついた。

 何故嬉しそうなのですか。悪い予感しかしないのですが。

「……ああ、合っている。お前には隠せんな」

「その通りなの。そこまで考えちゃうならヒントしちゃいけなかったかななの」

「すげぇ」

「あぴゃ」

「ですが、るるさんの婚約者に、とは納得が出来ません。双方を守るためとはいえこんな方法は愚かです。特にるるさんの将来への枷になる事をしてはなりません」

「だいちさん好きるん」


 ……。ん?空耳かな?


「だいちさん好きるん」

 大きくなった声。空耳ではなかった。

「え?あの、え?る、るるさん今」

「家の後継者と鍵の話が出る前に、だいちさんを婚約者にとるるかららいあに話したるん。るるにとって二つの話は付属で婚約者の話が本題るん。だいちさん好きるん。るると結婚して法的にも家族になってほしいけど法的にはどうもと思うならパートナーでも良いるん。調べたら今は結婚してもパートナーでも権限の差はないるんから。だいちさんに先に話すべきとは分かっていたるんが常に風上がきな臭いので話せなかったるん、ごめんなさい。改めて言うるん。るると生きよう。るるが幸せと思うものはすべてあなたにも経験させるん。嫌だったら教えて。気が向いたら側にいて。でも必ずるると生きて」

 グイグイ来る。精神的にも物理的にも。

 ち、近いです。ちょ、ちょっとだけでも離れてほしい。


 離れてくれないので後退りながら「る、るるさん、私はあの、本当に年でして」と抵抗を試みる。

「この時代年齢差は問題ではないと聞くるん。世間からだけでなく、るるもるん」

「確かに。ではなくて、あのー、えっと。私は、その、ごめんなさい。嫌いではないのですが、るるさんに恋をしていないのです」

「これからすればいいるん。時間はあるん。今世でならなかったなら来世まで跨げばよいるん」

「そ、それは随分と気長ですね」

「るん、樹を育てるんと同じるんから」

 そういうものなのか?


 らいあ地区長がるるさんの背に手を添える。

「安心せよ。来世でも私がるると共におるから、絶対にどちらも見付けよう」

 それは安心と不安が七対三で混じります。

「その前にるるが探すん。見付けられなかったら頼むるん」

「了解した」

 固い握手を交わしている親子の隣ではさらら様がてん様とことひらきさんに、「あのプロポーズは稀なタイプと思うのな。でも自分の意思を伝えるのは大事なのな。誰かを好きになる前でもなってからも、自分はどうしたいのか、どう考えているのかをちゃんと確認しておくと良いかもなのな」と教えている。

 さらら様、私にも教えてください。どうすれば?

「今はだいちさんは流されても良いかもなのな」

 そんな殺生な。

「だってあなた、今回の件、わざと悪役したでしょ?なの」

 企みのばれたいたずらっ子の様に目を細めるさらら様。逆だな。企みを暴いたいたずらっ子の様に、だな。おや?どちらもいたずらっ子になってしまった。それはともかく、やはりお気付きか。まぁ、かなり荒かったからな。

「さららはあなたに悪役は似合わないと思うのなの。下手っぴで強引にしていたから、それでしばらくは動きにくいと思うよ、なの。今回は経験者に任せるといいのなの」

 け、経験者?聞きませんよ聞きません。口を閉じてくださいらいあ区長。これ以上はお引き受け出来ませんから。


「そういえば、だいちさんもみんなも何したんのん?」

 ことひらきさん……何をしたか知らない人とこの一週間暮らしていたのですか?警戒心が無さ過ぎて心配です。

「さららとてんはオン村への無断侵入なのな。きー様が一時入村権を情報と交換してくれたから本当は帰っていいんだけどな。せっかく来たのな、観光がてらボランティアしていくことにしたのなの。らいあとるるともお話したかったものな。そしたらなぁ、いざお話したら思ってたよりもいろーんな事が分かったのなのぉ。一時入村権が切れるまで居るかもなのな」

 もはや観光がてらと言ってしまっている。今のところはその、『いろーんなお話』にかかりきりで観光を出来ていなそうだ。それらが払拭された後、案内役をするのは誰になるのか……答えが出ている気がしてならない。


「ええと、私は主に書類の詐称ですね。あっちの地区長を支持していましたのであちらが有利になるように偽装しましたから」

「表向きはな」

 と、らいあ地区長。

 ええ、そこもお気付きですよね。

「裏では怪しい動きをしていた者を村から追い出そうとしたろう。実際八割は村を出たようだ。強引で下手にしたのもわざとだろう?だいち。お前はその者らが高い率で他意のある楽子やもしれんと思うたのだろう。楽子の存在に気付いたと悟られぬよう大袈裟に下手に、しかも独りでたち回ったな。それで?その中に更に隠されている本当の目的は達せたのか?」


 この人達はなんと柔和で率直な尋問官なのだろうか。遠回しよりもある意味胃に来るかもしれない。


「はて?本当?私にはさっぱり分かりませんで。何やら不穏な風が吹いているなと感じたのみです。私の拙い詐称で芋づる式になればよいかと。どなたが味方か分かりませんでしたので、分かりやすく企んでいたあっちの地区長に乗っかりました」

「素直にならんやつだな。自分が村を守ったのだと鼻を高くしてもよいのに」

 生暖かい目と苦笑の組み合わせは控えてください。私の顔が暑くなりますので。

「照れてるんだんよ」

「かわいい子っこなのな」

「あぴゃ、だいちちゃまかわゆき」

「だいちさんかわいいるん」

「もうやめて」

 恥ずかしくて顔が暑い。自分の拙さが恥ずかしくて堪らないのだ。

「自分でも身の丈に合わない事をしたのは分かっています。だからことひらきさんに罪を負わせてしまったのですから」


「え?俺?」

 きょとんとすることひらきさん。

「そうですよ。あっちの地区長に、“絶力”を渡すならことほぎ区長を、と推薦したのは私です」

 そう、ことほぎ区長ならばあっちの地区長の圧などに負けないと思ったのだ。ことほぎ区長とらいあ区長とが度々共に歩いている所をこの目で確認して決めた。

 ことほぎ区長が風邪をひいて寝込んでいて、ことひらきさんが“変化”してくるとは欠片も想定していなかった。

「そうなの!?良かったー」

「そうです。なのでことほぎ地区長とことひらきさんを巻き込んだのは私……ん?良かった?」

「うん。だってー、あっちの地区長なんかに良くも悪くも気に入られたくないじゃん。気に入られて呼ばれたんじゃないなら良いよー。企んだのがだいちさんで良かった良かった。後々しつこくなさそうだんしん。あっ! それともだいちさん。本当の目的って、まさか俺だったの!?」


 身を引きながら自らの体を抱くことひらきさん。

 何故そうなる。

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