閑話『果たしてチョコはどこまで流れるのか……いや俺に聞かれても』
のんびり閑話です。
追記・章を後日付け足した為、こちらの閑話も現在編になってしまいましたが、こちらは過去編になります。ただいま直したく方法を探しております。ご不便をお掛けして大変申し訳ありません。
「ちょっとチョコ流してくるん」
「なんて?」
「チョコ流してくるん」
「ごめんよぉ、二回言わせておいてなんだけど内容不明だったのと、その格好が蓮根掘りを連想させるんだけどどしたの?」
例にもよって俺はまた、らいあの家に日向ぼっこに来ていた。寝そべった縁側から頭を少し上げれば、防水加工のつなぎに身を包んで長靴を手に持つるる。
完全装備だな。チョコかぶっちゃうの?
「分かったるん、うしおも行くるん」
どこをどう分かったんだろう。正月の二の舞の気配がする。あのまま寝てればよかったかなー。
「るる、俺さぁ昼まで寝」
「うしおも行くのか?ならばダークチョコ部門に出て来てくれんか?私はダークが好みだがるるはホワイトが目当てでな。お前はどの味も好みであろう?うしおに頼めれれば良いのだが、どうだろうか?」
何言ってるのかまだ分からないけど俺のサイズのつなぎある?無いならお金ちょうだい。ひとっ走り買ってくるわ。
なんとかつなぎをゲットして着替え、零輪地区屈指の夢を売る市場に到着しました。
「つなぎ着た意味あったのかな?」
「るるも思ったるん。参加者は濡れて良い服って書いてあったるんけど、どうるんかな?」
「ね」
チョコ部門参加受付窓口にて名前を登録した後に身長を測られ、測定者の「はーい」の一言でくるんっと防水防御壁に包まれた二人です。
案内された控え室は市場の一画を仕切りで仕切ったのみで、各味共通だったのでるるとストレッチしてる俺。ストレッチにも柔軟に対応する防水防御壁。なかなかの性能だ。
控え室内には五十~六十人くらいかな?へぇーこれ人気なんだなぁ。
「そうそう、ねぇるる、これ何しに来たの?」
「「「え?」」」
俺の一言に一瞬静まり返る控え室。
な、なんでこんなに静かに!?
あたふたする俺の耳に聞こえて来たのは。
「なんだ、うしおか」
「ああ、うしおかあ」
「そうるん、うしおるん」
「うしおだわ、うしお」
「ああ、うしおね」
と言う呆れた……もとい、寛容なお声の数々が。
「うしおは初めてか?」
斜め前で木箱型の椅子に座るまっしろなつなぎの人が聞いてきた。初めて会う人が俺を知っていて名前を呼び捨てにしてくるのは日常茶飯事なので素直に頷く。
ホワイト部門の人かな?
「チョコ流すんだよ」
………………。以上!?
「え、他になんかあ」
「お待たせしましたーっ! 夢売り市場恒例夢チョコ大会開幕しまーすっ! では第一試合のダーク部門の皆様こちらへどうぞーっ!」
「いきなり!?他の試合見てから出来ないの!?る、るる、どうしよ」
「ほらほら、後ろ詰まってるよ、お行きなさい」
「あ、ちょっとまっ、ちょっと待って! るる! るるーっ!」
同じくダーク部門の人に控え室から押し出されてしまった。
どうする!?どうする俺!?チョコ流すって!?チョコ流すってなんだよーっ!?
『それでは始まりました! 年に一度! チョコと言う名の夢を皆様に! 夢チョコ大会ダーク部門第一試合開始致します!』
押し出された先にある舞台に数段上がると、お買い物に来た皆様方がずらりと並んでにこにこ観戦しているのが見えた。
え、すごい数の人じゃん。そんなに有名なのこれ?俺知らなかったんだけど。
マイクの音と人々の拍手の大きさも相まって顔を青くしているであろう俺は、後ろの人につんつん突かれて指定の位置へ。
「ほら、シャキッとシャキッと。舞台に上がったら後はやりきるだけよ!」
激励ありがとうございます、後ろの人。やっと顔見たー、ってにりんじゃん!
にりんはおおねのパートナーで、長屋の一階で総菜屋を営んでいる。おおねはせいの叔父?伯父?どっちか知らないや。ともかくにりんの惣菜にお世話になってる俺です。
日替わりおまかせ惣菜セットおいしいんだよねー。もちろん全部おいしくってさー、冷凍保存分も買うと両手塞がっちゃうくらいになっちゃうんだよねー。
「にりんじゃーん。元気ぃー?」
「元気だよ。そっちも元気そうね。ほら、始まるわ」
ああぁまた聞けなかった。配られて行く黒くて細長い棒を受け取る俺達。
なんだろ?温かい黒くて細長い棒?
『では皆様ご用意は宜しいですか?宜しいですね。試合スタート!』
説明は!?説明は!??
『さあ始まりました夢売り市場恒例夢チョコダーク部門第一試合! えー、試合の開始直後ですがここで重大なご報告があります。ご来店の皆様、日頃は零輪地区第一市場をご愛顧いただき誠にありがとうございます。この度零輪地区第一市場は『夢売り市場』と名称変更致しました。数年に一度の『初夢売り』を愛してやまない皆様からの改名の勧めのお声がこの市場内を埋め尽くす程に……申し訳ありませんたいぶ誇張しました。えー、この市場内の壁の短い方の一面を、あのほら、西の出入り口のある右側の細い方です。ええ、あそこを覆い尽くすくらい届けられまして、社長の、あ、おやっさんの鶴の一声で『夢売り市場』となりました。えー、これからも名前に負けない、夢を売る市場としてほどほどに頑張って参りますので、皆様どうか『夢売り市場』、『夢売り市場』をご愛好くださいますよう平にお願いを申し上げます。えっとー、私の見間違いでなければ皆様と一緒に拍手をしてくださっている選手の方がいらっしゃ……うしおさんだったかぁ。うしおさん、拍手は嬉しいけど試合中ですからね、チョコ流しちゃってください』
司会者が度々同僚になる子だったのでつい聞いちゃってた俺です。たまに試食コーナーの日雇いする時にさ。
「ごめん、俺ルール知らないのに来ちゃったの」
『あれ?受付けで説明あったはずですよ』
「あっちゃー、ごめん、人多いから耳栓してたわ」
『えええ!?受付けでは外してくださいよ。もぉ、もう一回説明しますよ?耳栓外してますよね?今うしおさんの目の前の台には“力”の“固定”が高さも幅も三十センチメートル分かけられています。なのでその手のチョコを流して何か作ってください』
「えー?これチョコなのー?なまぬるいなんかだと思ってた」
『生温いなんかってなんですか!?それでよく持ってられましたね!?』
「えへへー」
『褒めてはいないんですが……えっとうしおさん、話しておいて大変心苦しいのですが、後三分です』
「えあえあえ!?」
『さぁ! 十七分間手を止めていたうしおさんはここから怒涛の追い上げなるか!?ではでは選手の皆さん頑張って! 』
「俺十七分固まってたの?おもしれー。何作ろっかなー?」
『固まってても動いててもうしおさん自体おもしろいからなぁ』
「マイク入ってるよー」
『それはもちろん承知の上です』
なんて事がありつつ。一回戦無事突破、二回戦に進みました。
るるもだぜ。やったね。
それからまあまあ時間が流れた。次の試合待ちの間は買い物したり軽食のおやつを食べたり。
『えー、皆様お楽しみいただけましたでしょうか?今大会全部門試合、無事終了致しました! 選手の皆様もお疲れ様でした! それでは皆様お待ちかね! 優勝者と各賞受賞者の発表です!』
あちらこちらに走るライト、は無いけど固唾を呑む俺達。
まぁ俺はるるの横であくび堪えてただけだけどね。
『まずはダーク部門! 優勝者は!?』
「ただいまらいあー、欲しかったのこれー?」
「おかえり、るる、うしお。ん?これは?」
「なんだっけ?とろひー?」
「ただいまるん。うしおトロフィーもらったるん。るるは参加賞の夢売り市場模様入りホワイト板チョコと二回戦進出記念の夢売り市場柄紙箱入りホワイト生チョコるん」
「ほう、これがトロフィーか。初めて間近で見たぞ。では優勝したのか?」
「いんや、楽しませたで賞」
「ほお、さすがうしおだな」
「賞はどーでもいーんだけどー、欲しかったのこれ?」
「いや、そっちの手のだ」
「え?これ?るると同じく参加賞と二回戦進出記念じゃん。チョコはダークだけど」
「参加賞のチョコがかなり美味と聞いて食べたかったんだ。生チョコもあるのか?一粒もらえないだろうか?」
「全部あげるよ。楽しかったし。そっかよかったー、優勝賞品の夢売り市場型チョコだったらどうしようかと思ったぜ」
「うしおなら作れそうるんよ。三分でなかなかかわいい鯉を作ってたるん。お目目が真ん丸飛び出てたるんけど」
「ぜひ二人の作品が見たいものだな」
「いまは参加者全員分、すっごくたくさん“力”使って市場に飾ってあるぜ。“保存”でしょー?“保護”“防御”“保管”“保冷”その他。ありゃ一級の“力”だわ。一週間くらいで家に送ってくれるってさー。俺の、るるのとここに来るからね」
「そうか、楽しみだな」
「るんるーん。他にもチョコ買って来たるーん。チョコ食べるーん」
「俺お好み焼き焼くわ。なんか甘くない匂い嗅ぎたい」
「るる豚玉」
「私はそば入りを」
「俺豚玉玉子そば入り」
「あっ! るるもるるもー」
「私もそれで」
その後ソースを見てダークチョコを思い出した俺はついつい紅しょうがを入れすぎて悶えましたとさ。




