腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・十七Sideだいち
「あれだんよんね」
「あれですね」
「謎は何時までも謎のままだよんねん。この前から解決してない謎が積まれ積まれだんよんね」
「はい。確かに」
「今だってさ、俺達お供えしたんだんよんね?」
「ええ、しましたね」
「それでなんでこうなってんのんかな?」
「はい、本当に」
そう、本当に何故こうなったのか?答え無く分からないまま、私達は次々にやってくる毛玉生物を蹴ったり回したりしていた。
時は遡り、皆様が服を乾かしてから移動を始めた六人です。
先頭はらいあ区長と手を繋いでテンポの良い鼻歌に合わせたスキップを小刻みにするるるさん。音とリズムが外れるのはご愛嬌。
次に主に精神的な疲労で言葉無く進む私とことひらきさん。金銭的な理由で靴底を減らしたくない私は足を頑張って上げていますが、ことひらきさんはずりずり擦り歩き。
最後尾にはひらひらと踊りを踊り歌うさらら様とてん様。歩きながら踊れるように工夫されている昔からの踊りなのだとか。
偶然にも前後から異なる音楽が流れて来るので余計な事を考えずに済んでいた。ことひらきさんの足も無意識にかステップを踏んでいる。
「着いたぞ」
顔を上げると、らいあ区長の肩越しにそびえ立つ灰色の塊が見えた。
「人の石像?」
ことひらきさんの目には石像に見えたらしく、一歩踏み出そうとしている。しかし、私には。
「ことひらきさん待って」
二の腕を掴み止める。驚くことひらきさんだが振り払わず素直に止まってくれたので力を緩める。
「どしたの?だいちさん」
「私には……私には生きている人の気を感じるのですが」
「ふぇ?」
「お前は本当に面白いな」
面白がらないでください、らいあ区長。何故そんなに瞳を輝かせて私に向けていらっしゃるのですか。
「あんれまぁ、愛子の御方なのな。愛子の御先祖様こんにちは。楽子のさららと申しますなの。こちらはさららの子っこのてんですなの」
「御先祖ちゃまー愛子の御先祖ちゃまー。楽子てんですーてんでござりますーあぴゃー」
さらら様とてん様は近付いて手を振っている。
『あこ』?まさかあの『愛子』なのか?
「らいあさま、さららとてんをこの方の所に連れてきてくださって誠にありがとうございます」
「ありがたきでござりますー」
「いや、その御方から以前より頼まれていただけで。『楽子を』とな。こちらこそ事後報告になってしまい申し訳ない。外では迂闊に話しとうのうてな」
「ええ、外で話さなくてよろしゅうございました。愛子ですもの。はて、愛子の御先祖様、楽子を御用命でございますなの?」
目の前では温和な雰囲気で会話がなされているが、私はことひらきさんを背に庇っていた。懸念を抱いたからだ。強張っている私をことひらきさんは静かに案じてくれていて申し訳なく思うが、今は我慢してもらうしかない。
楽子一族は国により呼び名が変わると一般的に認知されている。
オン国の楽子、音風国の包子、ハナイ国の環子、すず国の理子は、その名を自ら公表し活動する者も多く人々の生活に溶け込んでいる為、親しみを込めて『四大子』と呼ばれている。
他にも~子と呼ばれている一族は存在するらしいが、国か一族自身が秘匿している為に情報が限りなく少ない。私は触らぬで済むなら触らぬままが良いと思う。のだが、その内の一つの一族の話題が出て来ているようなのだ。
愛子。特定の国を持たず、他の楽子一族と違い活動を公表していない一族。その為少しばかり怖がられた時代もあったが、その時期に楽子一族の誰かが愛子の誰かを「おともだち」と公言したことで愛子も多少の親和を持たれている。それはそれとして、秘匿されている一族な事に変わりがない。関わってはこちらの身に危険が及ぶかもしれないのだ。
「それは楽子にはまんだなんともなの……左様でございますなの?では連絡を取りましょうなのな。はい、さららが行いますゆえに」
まるで電話をしているかのように、さらら様は石像に手を宛てて受け答えをなさっている。
「かしこまりましたなの。さらら、また来て良いですか?なの……ありがとうございますなのな。それではまた。え?これですか?」
と、さらら様は振り返り、るるさんが抱えていた物を手の平で示した。
「これは、あちらの子っこのことひらきちゃんのおばあ様のことなき様からのお供え物でございますなの……はい。ことひらきちゃん、お供えしても良いなのな?」
「へ?うん、どうぞ。えっとー?あこ様のご先祖様?俺のばぁちゃんからです。良かったら受け取ってください」
私の後ろから顔を出して手を合わせることひらきさん。
「どうするん?ことひらき、るるが持っていくるん?」
ことひらきさんは私を見るので頷く。
何が起こるか検討もつかないので是非頼んでください。
「うん、お願いるるちゃん」
「るーん。はい、あこのご先祖さまどうぞ。いつも遊ばしてもらってありがとうございまするん。畑で出来る野菜もおいしいでするーん」
「愛子の御先祖様、住まわせていただいており誠にありがとうございます。この頃は居住者でない者も受け入れていただいて助かっております」
るるさんとらいあ区長が腰を折り礼を表すのを見て、私とことひらきさんも慌てて並び礼をする。
『よきに』
頭の中で響いた声に驚いたことひらきさんがちらと私を見る。
ごめんなさい私に振らないで。私は全力で聞かなかった事にします。
らいあ区長達が頭を上げた気配の後、ゆっくりと腰を戻し一息つこうと息を貯めると。
「あ、くるまるるん」
「「え゛」」
ブハッと息を吐きながら目を見開いた私とことひらきさんは背を合わせて立った。何故って。
「囲まれてんるん!?」
そう、囲まれていた。大量のくるまるに。顔を青白くする私達の回りでは。
「るるに投げられたいるーん?そしたら並んでねー。そーれっ」
「私は“力”で上に上げてやる程しか出来んぞ。……ホレッ。あ、しまった済まぬ。上げすぎた。何処まで行ったろうか?その内落ちてくるとは思うがハンモック型の保護層を作るか」
「あっぴゃっぴゃっぴゃっ! くるまるっこはとらんぽりんみたきじゃのー」
「あららん、さららと遊びたいのな?さららは御手鞠くらいしか出来ないのな。よきなのな?じゃあ、あなた、御っ手鞠しーましょっ、てん、てん、てっまりのしっのぶさんー」
どうした事だ。遊び?始めてしまった。
「えっと?俺もなんかした方がいい?サッカーなら友達とするんだんけんど?あっ、足に来た。ち、“力”吸わないでんねん?じゃあ蹴るよー?」
ことひらきさんまで。
下を見るともぞもぞと蠢くくるまる数体が。
「あの、こ、独楽回ししか私は出来なくて、あの、しかし、紐が無」
にゅるん、とくるまるから毛が一束伸びてぱさりと切り離された。
え、毛は自在に伸びて切れるんですか。あ、もふもふと体当たりされている。はい、紐有りますから始めますね。巻くので触りますよ。“力”は吸わないでくださいね?絶対ですよ?上手く回せなくてもですよ?はい、では回します。それっ。あ、よく回りますね。ええ、楽しいんですね?分かりますよ。くるまるが数体から十数体に増えましたから。
……肩持つかな。
そして冒頭に戻ります。
『腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・七』の後書きにて名前は○○区長と書きます、と説明していたのですが、これまでの『腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・Sideだいち』にて○○地区長としてしまっていました。ごめんなさい。訂正しました。




