腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・十四sideだいち
今日から本編再開します。
ペースはゆっくりと、間の空く投稿となります。
宜しくお願いします。
「だいちさん、こっち耕してほしいるん。できるん?」
「ええ、出来ますよ」
「だいち殿、こちらも頼めるか」
「はい、勿論」
あの日から、私はらいあ家にて労務に服していた。先日の『学塔街楽子一族違反来訪・あっちの地区長職務違反事件』についての正式な処罰によるものだ。
「だいちちゃま、これもう食べられますかのぉ?」
「食べられますが齧らないでくださいね。生ではいけません」
「あらら?大きな荷物を持った手紙鳥さんいらしたのなのな」
「私が受け取ってきますので鎌を振り回さずに。この辺りは刈り取り切りましたから休みましょうか。地面に置いてください。私が片付けますので」
労務とはいささか違う事も有るが。
畑から離れ、空から降りてくる手紙鳥に両手を伸ばす。鶏の卵の大きさの小鳥型手紙鳥は、三段の重箱の大きさの物を包んだ風呂敷を私の手に渡―。
バッコーン!
「うっ」
荷物に何かが当たりそうになったのを手紙鳥に張られた防御壁が阻んだ音のあまりの大きさに耳を覆った私は、物が飛んで来た方角へ目を向けた。ことひらきさんが慌てて屋根から降りて来る。
「大丈夫ですか!?釘打ったんらん金槌投げちゃって!」
「金槌」
幸い当たった先が防御壁のコントロール可能なタイプの手紙鳥で良かったと言うべきか。金槌は人も物も無い地面に向けて落とされていた。
「だいじょぶるーん?」
「はい。荷物も手紙鳥も無事です」
るるさんがさらら様を抱えて駆けて来た。今日のさらら様はるるさんの身体と同じ大きさだというのに。先程も馬鈴薯が詰まった木箱を持ち上げていたのを見た。力か“力”。どちらか、もしくは両方が強いのだろう。
「だいちさんは無事なのな?」
るるさんの腕から身を乗り出したさらら様に顔や肩等を滑り撫でて確かめられ、顔をしかめかけた。服の上からであっても他人に触れられる事に嫌悪を催してしまう為だ。相手が相手なだけに堪えてしかめずにおれたのだが。
「怪我は無いみたいなのな。良かったのなー」
「え、ええ、はい」
湧き上がらなかった嫌悪感に割合戸惑う。
何故?相手が楽子だから?それとも顔をしかめるから嫌悪感が湧いていた?後者かもしれないな。これから試して調べよう。
「音の出所は何処だ」
らいあ区長の声に直ぐ様背を伸ばす。ピリピリと肌を刺すように重い声で少し息が詰まるのは気の持ちようか。
「俺が勢い余って釘も金槌も投げちゃったんだん。それが手紙鳥に弾かれた音」
周囲を警戒するらいあ区長に首を竦めて答えることひらきさん。
私に敬語でらいあ区長にため口な事が解せない。知り合いではあるが仲が良いとまではいかない様に見えるというのに、そうではないのか?
「危なきー。いきものに当たらず良きでございますなのじゃ」
てん様はらいあ区長の太ももにしがみついて運ばれて来ていた。手元に力が入っていない。“力”を使っている。
「本当にごめんなさい、だいちさん」
ことひらきさんは何度も頭を下げて謝って来る。そんなことより私への敬語を止めてほしい。とも言い出せず。
「あ、いえ。当たりませんでしたから」
らいあ区長が「ああ、そうか」と一人納得していた。
「ことひらき、屋根に釘は打てないぞ」
「へ?そなの?」
「屋根だけでなくてな、この家は自身以外を異物と見なすのだ。異物を穿とうとすれば攻撃と見なされ反撃を喰らう。釘を異物からの攻撃として捉えた家が釘と金槌を弾いたのだろう。お前が投げたのではないと思われる」
「それでかー。軽く打ったのに俺も二回転転ぶくらい反動来たかんらん驚いたー。“力”発動させちゃったかと思ったんのん」
「るるるるる。るる知らなくて。ことひらき、ごめんなさい。あのねらいあ、風見鶏の設置をるるが頼んだるん。昨日てんと一緒に作ったるんから、使いたかったるん」
「いーよー。らいあに俺も確かめなかったんだんし」
「こちらからも申すべきだった。済まん、ことひらき、だいち殿。皆も驚かせた」
「いーよー」
「いえ、怪我も無いので」
「よきなのなのな」
「ほじゃほじゃ」
らいあ区長は金槌を拾うと指先を光らせ柄をなぞっていった。
「どれ。金槌の方は生物に当たらぬようにしておこう」
ここへ来てからというものの、私は毎日驚愕している。この人は一体、どれだけ“力”の使い道と強さがあるというのか。
“力”とは、生来使える道が決まっている者とそうでない者がいる。
前者である私は防御のみ。利点は一辺倒な為込められる“力”も大きい事。
反対に後者ならば使い道が多いかわりに込められる“力”が弱い。はずなのだが。
「これでよかろう。ことひらき、一度釘を打つ振りをしてみよ」
「んあーい」
あくび混じりの返事をしながら金槌を受け取る根性を見せることひらきさん。そんな根性を私は持ちたくない。
「打っちまーす」
ことひらきさんは金槌を大きく振りかぶって。
「ありゃ?」
金槌は釘まで届かず、ピタリ、と空で浮き固まった。ことひらきさんが全身で押し込んでも金槌は動かない。
「なんなんこれ?全然動かなわーっ!?」
いくら押しても動かない金槌は引けばあっさりと動き、勢い余ったことひらきさんは尻餅を着いた。
「これはあかんな。済まぬ、大丈夫か?釘を支える手に反応してしまったようだ。“力”とは面白きものだな。はて、どのように致すか」
「大丈夫だけど尻平らになっちゃったかんもん」
「だいじょぶだいじょぶでござりますのじゃ。ことひらきちゃまのおちりはいまだふっくらりんでござりますのじゃ」
ことひらきの臀部を押して立ち上がりを手伝うてん様と臀部を押されながら立ち上がり「良かったあー、ありがとう」と笑顔のことひらきさん。
金槌にどう“力”を施すか、口角を上げて考えるらいあ区長。
……私とことひらきさんとさらら様とてん様は違反の処罰を受けている最中のはず。しかし視界に映るのは平和な光景。笑顔しかない。あのらいあ区長ですら笑んでいるという奇跡。まあ、お三方については今のままで良いと思う。けれども、私は?この程度の働きで償えるものなのか?
「るん?るるるーん?」
困惑の声に目を向ければ、手紙鳥がるるさんの顔に荷物を何度も押し当てていた。催促の激しい手紙鳥もたまに居るのだ。
「あらら、手紙鳥さんこちらへ。さららが受け取るのな」
「さらら様には重そうです。私が……ヨッと。結構重いですね」
えんじ色の風呂敷に包まれた箱らしき物。内包物の分からない物をさらら様に触れさすなどもっての外だ。おそらく、私の心配は全くの無用とは思う。なにせ、らいあ区長と“力”溜まり自身による防御壁が、屋敷を中心に空から地面の中にまで張られているのだから。なのでこれは念のために。
「送り主は“ことなき”さんになってるのなの」
領収証がハラリ、とさらら様の前に浮かんだ。手紙鳥が首から下げているビードロから出された物だ。
「わあ! 俺のばぁちゃんです!」
左肩にてん様を引っ付けたことひらきさんが飛び跳ねてやって来た。……てん様が絵でしか見たことがないコアラに見えてきた。
「ばぁちゃん何送ってくれたんだんろー?」
私から風呂敷を受け取ったことひらきさんは「皆も見てー」と叫びながら縁側まで走って行った。左肩にてん様を引っ付けたまま。
ことひらきさんは既に大物だな。あ、胃が痛い。




