腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・十一
今回はことほぎ視点となりました。
「それは後にしてもらえれば越したことはないな。我らには為さねばならぬ事がある」
らいあのフォローにもならない一言にてん様が諾と頷いた。青ざめた地区総長は言葉も無い様子。
可哀想だけど助けらんないぞぉ。俺は俺の家族と地区を優先するもんで。あんなこと言ってるが、らいあは助けてくれるさ。……たぶん。
俺は弟のことひらきの、事の流れに興味津々な横顔をチラッと見ながらそこそこ安堵していた。
あー、俺来て良かったわぁ。弟になんか起きたらバァちゃんに家追い出されちまう。まったく、ことひらきのやつ無茶しやがって。いくら“変化”の“力”が使えるからって、あっちの地区長んとこ行くわアレ持って来るわらいあと話すわ地区総長と対峙するわ楽子と会うわ。なんというオンパレード。叱るも褒めるも諭すもしないとな。バァちゃんにも応援頼もう。
茶を配り終えたるるちゃんとたてこうが席に着いたのを見届け、らいあが口を開く。
「では、まず昨夜の事から纏めるとするか。学塔街当主とてんが来た。うしおが当主と遊びに出て行き、てんが泊まった。ということだな」
………………え?終わり?
「チョ、ちょっト説明ブソくじゃナい?アイダあいダ」
地区長’sだけでなくきーバァ達も頷いている。
らいあ、何故そんなに驚く?どう聞いても短いからね。
「間?そうか、そうだな。まずは……」
そこからの話は、今朝見た突拍子もない夢の内容でも聞いているかの様だった。
ううん、そんな夢絶対俺は見ないわ。万が一見てしまったら盥で水被ったり薪割ったり走ったりとにかく動くな。現実逃避は大事です。
んで?なんて?学塔街楽子当主自ら来た?
なんで?夢の中で話したり戦いかけたりした?
どういう事?うしおの代わりに人質としててん様が残った?イヤイヤイヤ、うしおの代わりにてん様ってどういう事よ可愛さ率合わないんだけど。違うな、そこじゃないな。俺だいぶ混乱してるわ。
「説明はこれでどうだろうか?不得手で申し訳ない」
「あ、いや、そこは問題ないぞ。内容が問題なだけで」
地区総長の言う通りだ。とんでもない問題だよ。
「ふぇっふぇっふぇっ、面白いことんなったもんだ」
「はあ、生更木、面白いにも程があるだろうが」
「そうだねぇ、まぁ、弱るにはまだまだだと思う程には面白いけどねぇ」
「生更木が弱るとか……無理、想像つかねえ」
「そうかい。褒め言葉として受け取ってあげるよぉ。ふぇっふぇっふぇっ」
ららら地区総長ときぃバァの仲は良好らしいな。
「改めて伺いましたら、おとうさまだからとは思うけれどな、合わないかもなのな」
さらら様は顎に人差し指を宛て思案していらっしゃる。そのお顔を、てん様が瞳を輝かせながら幾度も角度を変えて覗き込むというかわいらしい光景に、肩の力がどっと抜けた。
「さらら殿。合わないかも、とは具体的に如何に?」
らいあがさらら様へ向き合う。
らいあの落ち着きを俺達にも分けてほしいぜ。
楽子一族との遣り取りはらいあに任せた方が無難と判断したのだろう。きーバァから『待て』の合図が来た。現・もしくは元地区長ならば察知出来るこの合図だがことひらきは知らないので、膝をそっと抑えておく。
ことひらき、今は話すなよ。
分かったよ、兄ちゃん。と言ったのかは分からないがそんな感じで頷いたのを確かめる。
真向かいでは、さらら様とらいあの会話が続いている。
「なのな。おとうさまは招待状を送られたのな?合わないかものな」
「どこが合わないかもるん?」
あぁー、そっかぁー、るるちゃん達も合図知らないんだったぁー。大丈夫かな……うん、考えるの止めとこ。らいあ居るし。いや、そのらいあが実は問題なのか?
「なのな。てんの年と、満月市の回数がなの。てんは今年で八前後。今日までに満月の市は第千四九十二回開催してるなの。そうすると、てんが十前後になるまでの約二年間で二十回行われなければならないのな。近年の満月の市は年二~三回なのなのな?」
「そのようだな。きー、どうだろうか」
「ううむ、そうだねぇ、あたしの知る限りじゃあ多くても年八回だったかねえ。どうだい?記録の」
話を振られたのはオン村の記録簿類一切を管理している地区長だった。いつも中折れ帽子を被っているあの人は七の地区だったよな。あの地区、店が多くて楽しいんだよなー。ことひらきとは行ったことないかな?そうだ、今度一緒に行ってみよう。ことひらきは色んな物事を見るのが好きだからな。
「はい。生更木様の仰る通り、満月の市は三十二年前に最大の年八回です。翌年は二回。次点は十年前の五回が。平均して二~三回ですね」
おお、即答。記憶力が高過ぎて生まれ育った村を追い出されたと噂に聞いた。追い出すなんて、そこ逆じゃない?オン村ではその高い記憶力を真面目に発揮してくれてるらしいってのに……もしかして怪しいかな?と頭の端で思ったが、きーバァが頼っているところが見れて幸いだ。
あれだね、ことひらきの事があるからちょっと過敏になってるかな?俺。
「なのな。今年は今月と来月の二ヶ月なのな。来年、再来年と多く開催される可能性はなきにしもあらずなのなのだけれど、それでも多いのね。なのなー。うーん、おとうさま、予知夢見たのかなぁ」
「予知夢るん?」
「なの。予知夢って、確実なのとそうでないのとあるのな。絶対当たる訳ではないのな。でもこうやって、書面にしたということは」
「ふぇっふぇっ、確実かもしれない、とな?」
「なの。でもなぁ、書面の学塔街当主がまだおとうさまになってるなの。今回の事は流石に学塔街としても看過出来ないから、厳しい沙汰になるでしょうに、それはどうしてかなと思うのな」
「あぱー、おじいちゃま当主辞めたらおかちゃまなるー?」
てん様はただ無邪気一辺倒なだけなんだけどね、うん。その無邪気なお姿を、祖父だという学塔街当主が見てなくて良かったんだろうな。
「うーん、どうかなぁ?あかあさまやさららだけでは決めれないから分からないのな。恐らく、おとうさまは当主ではなくなるとは思うのな」
「あぱー、じゃあてん決めるのじゃー。おじいちゃまは引退しておかちゃまなるー。そしたらてん、皆の為におかちゃまと働きながらお勉強するのじゃー。おじいちゃまはてんにお勉強教えてくれないもん。おかちゃまがてんに教えてー」
「なんとまぁ、かわゆき事を。でもなのな、てんはまんだまんだ遊んでおるが良きなのな。大丈夫、さららはそんなに忙しくならないのな。おじいちゃまの罰には労働をお勧めするからなのな」
何故だろうか。会った事のない学塔街当主らしき人物が、背を丸めて縮こまる様子を思い浮かべてしまった。
『ぶぅえっふえっふえっ! ゴッホゴッホ! 駄目だ、腹痛てえ。腹減ってんのに笑わすなよなー』
突如屋敷中に響き渡る奇怪な大声。果たして、ことほぎ達は無事に屋敷を出られるのか!?
次回、『ことほぎと奇妙な声』。
かみんぐすーん!
……なんて頭にテロップが流れた俺、ことほぎです。
我ながらテンションが高い。あー、俺また熱上がってきたんかな。寝込んでる俺が仕事に行かなくて済む様にってことひらきが色々無茶したのに、まだ倒れる訳にはいかないんだよ。頑張れよ、俺。
ってかこの声、あいつだよな?




