腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・九
進みのゆっくりなこの頃です。
「取り敢えず、皆入りなさい」
らいあに促されて入って行ったのはきーちゃんと大柄な人の二人だけだった。
あの地区長誰だっけ?あ! そういえば、せいって人の親戚の人だって聞いたことあるかんなん?まず、せいと俺は大した接点もないので噂しか知らないんだ。せいには、今朝の食卓で丁寧に挨拶してくれたなぁ、貧血っぽそうだなぁ、くらいしかない。あの地区長の事も同じくらいだ。印象は真逆だんけんども。
「おおね、お前知ってたのか」
地区総長がすれ違い様に腕を軽く掴んで止めた。おおねと呼ばれた大柄な人は、無表情で振り返った。
機嫌が悪い訳ではなさそうかな?雰囲気は怖くないから。
「阿呆、知るわけないだろう。せいが居るから行くだけだ。昨日から会えていない上に、先程も話せていないからな」
阿呆ゆうてますけど。阿呆って。地区総長は気にしていないみたい。仲良いのんかんね?
「あー、そういやお前、甥大好きだったな」
「当然だ」
「当然なのか」
と、当然なんだ。
「おおね」
少し猫背で正座をしているせいは、嬉しそうにはにかんでいた。文字通り血の気の少ない顔に、少しばかり朱が差している。
「せい、無事か」
あ、甘い! 地区総長に向けた声と違い過ぎんるん! 温度は一緒だけど甘さが違んうん!
「う、うん。おおねはうわっ!?」
せいを俯かせたのはしゅゆとかいうバリバリ戦闘派な人だ。しゅゆがせいの頭に覆い被さったのだ。
「おおねは来なくていいよ。せいにはぼくが居るからね。そっちの人達とあっちに座ったら?」
シッシッと手で払う仕草と鼻高らかな表情にちょっとイラっとしてしまった。
俺に言ってないのにんねん。あー、俺でイラっとするなんらん、おおねって地区長は。
「せいから降りろ。潰すぞ」
全身全霊でお怒りでございます。背中しか見えてない。でもなんとなく分かる。たぶんそのお顔は夜中に厠に起きた時に暗闇で見ちゃった鬼のお面と同じと思んうん。俺のばぁちゃんが顔の下から明かりを照らしながら襖を開けた時に遭遇した瞬間でも可。
兄ちゃん、俺を前に押さないで。さっきまでのカッコいい兄ちゃんのままでいてほしいんのん。待って、よつば区長、俺の後ろに回らないで。え?ららら地区総長何処に行くんでんすか?自動的に俺が一番前になっちゃうんですんけんどん?
「皆仲の良い事で。微笑ましいな。では、話を進めようか」
るるちゃんの隣に座りご機嫌ならいあの一声が「はよ座れ」と言っているように聞こえるのは、俺の思い込みではないんとん思う。
らいあって案外強引な時あるんだんよねん。大抵、るるちゃんがお腹減ってる時なんだんが。
それからしゅゆをたてこーが収め……れてないけどなんとか控えさせて、おおね区長はせいに宥められた。
上座にはらいあ。向かって左にるるとまささん。しゅゆ、せい、たてこー、きーちゃんの順。向かって右にてん、と先程の伸びやかなお声の人。
南側のど真ん中はららら地区総長。の後ろに地区長達がズラリと並んだ。俺は兄ちゃんとよつば区長に挟まれている。絶賛不機嫌中のおおね区長は兄ちゃんの隣だ。
「お初にお目にかかる者もおろう。改めて、私はらいあ。ここ零輪地区の長を務めてはいるが、実質は副区長のたろうが執務を行ってることがほぼだ。あまり政は詳しゅうない。先に謝っておこう」
目と口元を僅かにニコリとさせたらいあ。カッコいい。俺もあの笑い方したい。あ、今は兄ちゃんの姿のままだった。ってあれ、兄ちゃん二人居る事になっちゃったけど、まぁ、いっか。たぶん結構前からバレてたんだろうな。
「副区長の名前、たろうだったのか」
「そこなのか?」
地区総長の呟きにらいあが呆れている。
俺も思う。そこなんのん?
「先代がお前に置いてったんだろ?名前もなんもオレは知らねえよ。顔も覚えてねえ」
「いヤイや、顔ハおボえナよ。ボクは覚エテるヨ。ハナにぴアスをしてタヨね」
「……誰だそれは。たろうは装飾は限りなくしないぞ。ピアスの穴は一つも開いていないはずだ」
自信満々だったよつば区長は目を白黒させ、らいあは不思議そうだ。
「アレ?デも零輪のトコノ副クチョうだっテ今朝キたヨ」
「詳しく頼もう」
らいあの声が少し低まった。
あ、ちょっと俺、厠行っていいかんなん?駄目?兄ちゃん、俺の膝押さえないんでん。よ、よつば区長、涙目で見詰めないで。大丈夫、らいあだから。大丈夫……たぶんイテテテテ! 爪を、そのとんがった爪を手の甲に立てないんでん! 分かりました分かりました行かないかんらん!
「らいあ、めっ、るん。怖がらせちゃだーめるん」
今のらいあの頬を遠慮なくつんつん出来るのは、この世でるるちゃんくらいではないんかんな?
「そうか、私は怖がらせてしまったのか。済まん、よつば」
「ア、うウん、ダイジョブーダイジョブー」
るるちゃんの声でかなり和らいだらいあと、乾いた風の吹く日にギンギラなお日さまに当てて乾燥させた食パンのミミみたいに固くなっているよつば区長。
ちなみに、食パンのミミは、乾燥させたらどれくらい固くなるか弟たちが試したものです。俺と弟たちで調理して美味しくいただきました。天候によりカビが生えたり鳥やらなんやらに狙われたりもしたので、みなさんにはオススメ出来ません。あしからずです。(ことひらき談)
え?どしたの兄ちゃん?「弟たちの合作料理兄ちゃんも食べたかった」?兄ちゃんはお仕事で外に居たしさ、ちょっとタイミング合わなかったのんなん。うん、落ち込まないで兄ちゃん。食パンのミミなら今朝のが皆の分有るから、今夜から兄ちゃんの主食を食パンのミミだけに出来るんよん。……「そういうことじゃない」?あれ?
「んで?今朝、自称たろうとやらが来て何してったんだよ」
見兼ねたららら地区総長が間に入ってくれた。
「キのウのヨるイエニいたカきカレタヨ。イタってコタエたらありがトーッテかえっテッた」
若干硬いがさっきよりはいいかんなん。
「なんだその質問?訳わかんねえじゃねえか」
「ソレはソうオモったケド。らららの印書もっテたもの」
「やっぱ印書出たか」
「“力”もらららのダッたよ。こりゃハメられタナァ」
「よつばが間違える訳ねえから印書は本物だな」
「オサナなじミダだカラネェ。飽きるくらいミシッた力だモノね」
うんうん、と頷くよつば区長。
そっかー、幼馴染みなんだん。兄ちゃんとらいあみたいな?あれ、違うの兄ちゃん?実は、らいあとは小さい頃にちょっと会っただけだった?そっかー、そう思った。だって俺が兄ちゃんだった間、聞いてた程仲よくなかったんだんもん。あ、ごめんね兄ちゃん。しょげないで。ほら、兄ちゃん。畳に頭着いちゃうんよん。え?「らいあが移住して来て十年間わりと会ってて仲良くなってたと思ってた」?ああ、ほら、今日は俺だとバレてたからたまに無視されたんじゃないかな?ん?「それは常日頃」?……えっとー、うん、ガンバッ。
「幼馴染みだったのか。それは……大変だな」
「大変るんね、負けないで、るん」
「闘いか?勝て! 君なら勝てる!」
「え?た、闘ってはいけないですよ?」
「何?倒すの?ぼくの出番?」
「しゅゆ、せめて庭で」
「ふぇっふぇっふぇっ」
「あぱぱははぱ、おかちゃましんぱんするー?」
「なのな?さららが審判なのな?さらら手加減しないのな」
らいあの暖かい目と声から始まって、途中から何故か勝負することになり何故か審判が手加減しないと言って何故かららら地区総長が口を開けたまま固まって動かず何故かよつば区長は、なるほど、と納得して頷き何故か他の地区長は止めないでいんるん。
ん?何?兄ちゃん。「違う、止めないんじゃない、馴染みのやつらは、らいあとその愉快な仲間達は止まらない事を知っているから体力を温存してるんだ」?
そうなんだ。じゃあ兄ちゃんの出番だんねん。え?「兄ちゃんを精神的にぼこぼこに倒す気か」って?ううん、昨日俺の分の肉団子二つも食べた事なんてチットモ根に持ってないよー。さっき俺の背を押したこともサ。ホントだんよん?え?お小遣いくれる?弟達とばあちゃんにも?ほんとー?やったー。臨時お小遣いだー。……兄ちゃんの巾着型の財布、古くてボロボロだんねん?あれ?それって俺が小さい時作ったのじゃないんかんな?まだ使ってくれてたの?兄ちゃん……。ありがとう。でもそろそろ替えようね。え?やだ?やだじゃないよ。穴開いて来てるし、安全のためにも替えようよ。え?「弟の作ったものだから」?えへへ、それは嬉しいけんどん。ん?今、「弟の使ってたほうがモテる」って聞こえたけんどん??兄ちゃん?俺の目を見て。兄ちゃん?にいちゃーん!
新たな登場人物はせいの叔父、おおねです。
ことほぎとことひらきはずっと話していてもらいたくなります。仲の良い兄弟達です、いつか全員揃って出てほしいです。もちろんばぁちゃんさんと。




