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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
現在編
31/140

腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・三

らいあから見た皆です。

「らいあの漬けたべったら漬けうんめーっ!」

 バリボリ喧しい音を立ててべったら漬けを噛んでいるのは、満面の笑みのことほぎだ。


「こら、ことほぎ。べったら漬けばっかり食べて、塩分過多だよ。ほら、おにぎりも食べな」

 きーはそんなことほぎに握り飯を食べさせようと奮闘している。正確には、べったら漬けを口に運ぶ箸の合間に握り飯を割り込ませている。

 きーは口は少しばかり乱暴だが、その手付きは優しい。人へ注ぐ想いの量を過度に増やしも減らしもせず与えられる人だと思う。見習いたいが、なかなか出来ない私である。


 たてこうが握った握り飯はすべて三角型で程よい握り具合だった。副菜や汁物で塩物を食べると想定したのか、各々に配られた二つの内一つは素握りで、もう一つには黒胡麻を振り掛けてあった。

 一人で旅に出る事の多いたてこうを、始めは、自分自身から行う事を選ぶ子と思っていた。けれども、最近はそう見えなくなった。少し離れた所へ自らを置き、俯瞰して見えた物事から自分を活かす方向に力を注ぐ子かもしれないな。あくまで自分を周囲に置きつつ、人にそれを気付かせないようにする所もあるようだ。

 以前、ちくばがそれに近いようになりたいと言っていたが、未だなれていなそうだ。隠れたいという本人の願い虚しく、騒ぎの中心近くに引き込まれる事が何故か多いのがちくばだ。

 今回のちくばは村の中で降りただけでなく、せいやしゅゆ、てん等の見知らぬ人の前に居続ける事になった。初めは期待や楽しさから、後には恐怖や危機感から皆の前に居れたようだが、やはり体力気力を多大に使ったようで今朝は起きて来られていない。負担を掛けてしまったな。


「ら、らいあさん、あ、あの、もしよければなんですけど、べったら漬けの漬け方、教えてもらえませんか?教えてもらっても、おれはうまく作れないかもしれないですけど」

 せいもべったら漬けを好んだようで、口に運ぶのはほぼべったら漬けだった。と言っても薄く切った一枚を少しずつ食べているので、枚数としては二枚しか食べていない。

 せいは控え目な子だ。その控え目さの半分以上が自分自身を卑下する気持ちから在ることは心配している。しかしながらそれは、物事への情があるという事の裏返しだと感じていた。

 実際、せいが情を動かした他人、しゅゆに対して、せいは尋常でない寛容さと肯定を見せる。今も、せいの隣で「なんであいつも食べてるの?」と不満な様子を隠さないしゅゆにせいは何も言わない。言えないのでも、言いたくないのでもなく、言わない。その理由は、しゅゆが得た感情や思考を全肯定しているからだとせいから聞いた事があった。

 肯定しているから同意も賛同も否定も批判もしない。温かくも冷たくも感じるせいなりの肯定が、せい自身へ向いてもいいと思うのは私の独り善がりだろうか。


「気に入ったようで何よりだ。ふむ、そろそろ次を作る頃だな。せいがよければ共に作ろうか?」

「は、はい! お願いします」

「てんもー、てんも作るしたいのじゃー」

 私の隣から、てんがかわいらしい声とキラキラ輝く瞳で参加の意志を表明する。せいとてんは朝の挨拶の際数往復言葉を交わしただけだが、せいは微笑み頷いている。気が合ったようで何よりだ。

 おや、てんの手には椀がちいと大きかったかな?ぐらぐらと持ちにくそうだ。これを機に小さい物を揃えても良いかもしれない。今居る習字教室の子達には今の食器でよいが、その子達の弟妹も学びたいと言っていた事を思い出した。

 よし、大根も食器も()うて来よう。

「そうか。では、この後材料を揃えにそ」

「行けませんってば。この後地区長らが来んのんよ?」


 私の言葉を遮ったことほぎは、しゅゆとまさとるるから一斉に睨まれ、せいからは目の動きで信じられないと訴えられ、きーには呆れて握り飯を置かれ、しゅゆの右手を押さえたたてこうには溜め息をつかれた。

 ことほぎよ、泣きそうな目で見ないでくれ。振りであるのは分かっておるが。あ、違うな。今回のことほぎのは振りではないのだな。ああ、もう。


「あい、そうだったな、ことほぎよ。せい、てん、べったら漬けは後日にしてもよいかな」

「は、はい! もちろんです」

「はいなのじゃー」

 あっさり頷いてくれる二人。友人大人数で囲む食事が今朝もある嬉しさに、この後の事を忘れていた私には純過ぎる優しさであった。済まぬ、そしてありがとう。


「お、俺が呼んだんじゃないんかんらね。みんな自分から()よるんだんからね」

「はいあい、承知しておる。その前にお前が来てたのは、先に話を纏めておこうと思うたのだろう?」

 涙目の子の言う通りなので頷く。

 まったく、()()()は何を考えてこの子を寄越したのか。見知らぬ者の中に放り込まれて困っておるのに、ようけ頑張っておるぞ。きちんと労いなさいと言うておくか。


「うんっ! そう! らいあ口下手というかぁー頑固というかぁーさ。でもうまく伝わんないといけなんいんじゃん?だから俺が間に入っちゃろうかなーって。えへっ、俺やさしー」

 ウインクすることほぎにしゅゆが盛大に舌打ちした。たてこうはいまだその手を掴んでいる。

 しゅゆは一度覚えた怒りをなかなか手離さない子だ。怒りを抱く事自体少ない為に目立たないが、その激しさや深さに周囲の方が折れそうな程に時にはなるのだった。

 せいへの影響が有るものには特に苛烈になる憤怒とも言えるその熱を、芳しくしなやかな垂れ桜のような佇まいの中に秘めているしゅゆ。

 そして一度現した怒りは矢の様に放たれ、真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに相手を射貫くのだ。その素直さに私は恐れ、感嘆する。自分自身にとってまっとうな怒りに。自分自身をも火種にする怒りに。

 あの頃、そんな風に私も怒りたかった。そうか、もしかすると私はしゅゆに羨望の眼差しを向けてしまっているかもしれないな。


「口縫いたい」

 ボソリと呟くしゅゆはたてこうの手を退かそうとしない。たてこうは乗せているだけだ。なんだかんだ、この二人は互いを信じ合っていると思う。

「こわっ!?なんかこのん子ん怖いぃー!」

「はいはい。地区長らに話すんならよう動かないかんのだろう?べったら漬け以外も食べるんだねぇ。まったく、ほら、生野菜も食べなぁよ」

 泣きそうなことほぎへきーが皿を差し出す。

「きーちゃん、俺野菜いらない」

「はい」

「き、きーちゃん、俺の取り皿に生野菜しかなくなったんだんけども?」

 涙が増えた気がする。


「ちくちょー?」

 てんが首を傾げる。唇の端についた米粒が朝日を受けてキラリと光っている。

「そうるん。この村は市かな?ってくらい大きいるんからね、地区で分けられているん。村の中に地区長さんがたくさん居るんよ。らいあも地区長さんるん」

 るるは自分の唇の端をつついて、てんに米粒の存在を教えている。一つ瞬きをしたてんはるるを見ながら米粒を摘まみ、パクリと口に入れた。


「私は名ばかりだ。寝込んでばかりいる。実質、地区長執務を行ってくれている副地区長には頭が上がらないよ。今も、各地区長へ連絡を取って時間調整をしてくれているらしい」

「いつ知ったるん?」

「お前たちが顔を洗っている時、手紙鳥が来た」

「そうだったるん。まだおるん?」

 るるがキョロキョロと手紙鳥を探している。

 済まんなぁ、返事を持たせて先程飛び立たせたよ。


 手紙鳥は自分で作る事も店で買う事も出来る、力を使った非科学交信手段だ。流通当時は完全に鳥型のみだったそうだが、連絡を伝える、もしくは物を運ぶという基本の能力以外はほぼ自由に作ってよいとなった為、今では様々な見た目のものが作られている。

 真白で尾長の柳眉な鳥、液体の入った硝子瓶に蝙蝠の羽の生えたもの、中には林檎そのものがその身一つで飛んで来た事もあった。

 店で買った物には高度な盗難防止壁と傷害防止壁が掛けられているので、素でも雨の中でも、鳥型を野鳥と間違えて射られても問題ないのである。

 自分で作成する場合は高度な防止壁を張れる者はさほど多くない事から、簡易な物を作り当たり障りのない時に使うのが大抵だった。


ちなみに、今朝のは副地区長が好んで使う、いつもの山鳩型であった。手紙鳥は面白い物で、生き物の柔さを見事に再現しており、見た目では違いがほぼ分からない。触れてみて、体温が無いな、手紙鳥だな、と気付く時も多いのだ。


「らいあちゃまちくちょー?」

「そうだよ」

 朝日を受けたてんの瞳がキラキラ輝く。

「あぴゃ。あはぱらぱあぱあは。らいあちゃまちくちょー。かっこいー。あぴゃあははあぱぱあははあぱ」

 独特な笑い方のかわいらしいことよ。喜んでくれたようで何よりである。

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