腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・ニ
らいあ視点です。
新たな登場人物がいます。
「らいあちゃま、庭に何かおるのじゃ」
ああ、気付いたのか。
るるも気付いたのだろう。溜め息が長い。
「あれは気にせんでよいよ」
「よいの?危ういですぞ」
「力は危ういが……そうだな、何と言えばよいかな。そう、少々うしおに似ているからよい」
顔を強張らせていたてんは、「うしおちゃま似ならよきかもじゃの」と肩の力を抜いた。
「ちっと待って! うしおに似てるとか衝撃なんだけんどん!?」
来てしまった。来ないなら放置していたのだが。
「ナンカ来たー!!??」
あ。
「おわっ!?」
簡単に説明すると。
襖を勢いよく開きながら叫び入ってきた者に驚いたてんが力を発動。大量の泡をその者に飛ばす。その者は驚きながらも避けて庭に降り立つ。
そして今。
「ナンカ来たー!?らいあちゃまーっ! てん泡飛ばしちゃったー!」
両腕を上下に振り大慌てしているてん。真ん丸な目が潤って水が零れそうである。
「問題ない。あの者自体も泡を飛ばしたてんも問題ない。気にするでない」
「いんやん、気にしぃ!?」
そちらのことは心配していない。てんを宥めているのだから静かにしてほしい。とはてんの手前、口に出さないが念は送っておこう。そちらが勝手に庭に入り飛び込んで来たのが元であろう。と目線を送るも届かず、「気にしてぇよー。みんな俺に冷たいー」と泣き真似をするその者。
その者の態度は日頃の事なので、私はてんの頭を撫でる事に集中している。
「気にしてほしいならまず謝るん。らいあの体を冷やしてるるのお腹を鳴らしててんを驚かせた罪は重いるん」
仁王立ちでてんを庇う位置に立つるる。
お腹が空いているのに立ち向かうるる。顔をしかめているるる。勇ましいが、私の本意でない。早く食卓へと向かわせてあげたい。
「ごめんなさい!」
泣き真似を即座に止め頭を腰より下に下げたその者に、るるは溜め息を吐く。るるはてんの頭を優しく撫で膝を折り、目線を合わせる。
「てん、この人の謝罪はうしおのそれよりもひっじょーに軽いるん。るるはこの人の能力は信じているけどこの人の謝罪は信じていないるん。過ちを繰り返す人るん」
「るるちゃんの俺への言動が北極圏並みに冷えんてんなー。でもそこんがんいい!」
は?私の前でるるがいいだと?優劣を付けると?よく言えたものだな。私達を見くびっているのか。
「ほぉ……それはそれは大層な言葉だな。ことほぎ。この世から消えたいのか?」
私の小さく低い声に一瞬で顔を蒼くしたその者、ことほぎは首と両手を大袈裟なまでに振った。
「いんやん!?まだ死にたくないわ!?悪い意味で言ってないんよん!?るるちゃんがぁ、俺の胸にぃ、ぐぅっと迫る位かわいいなぁーってぇことでんなん!?待って!?今のらいあと闘ったら俺八割率で負けるかんらん! その手のもの仕舞ってぇー!?」
手?
自らの手を見遣る。驚く事に、私の手の中には久しく生み出せなかった自分自身の力で創られた武器が存在していた。
これは何故、まさか、もしかして。
頭の中で様々な仮説が浮いては消えゆく。
「どうした!?るる! らいあ! 大丈夫か!?ぬ!?きさま何者だ!?るるに近付くな! 大丈夫か?るる。って、るるどうした!?何故そんな曇ったガラス玉の様な目をしているのだ!?」
「なんなの?起きたばかりのせいが驚いてるんだけど?そいつ誰?うるさいなら消しちゃうよ?」
まさ、しゅゆ共にかなり殺気だっているのは、昨夜の事があったからに他無かろう。
一気に剣呑な場となったが止める気は今のらいあには無い。るるとてんが無事ならばよいものだし、自身に起こっている変化を考えるのが先決だったのだ。
「み、みなさん落ち着きません?俺が悪かったんかんら」
「あはは、何が悪かったの?ぼくに教えて?何をしていたの?この侵入者が」
目の笑っていないしゅゆは昨夜と同じく、その身に緻密な紋様を刻まれた巨大な鎌を既に構えている。
「おのれ! るるにこんな目をさせおって!」
まさの武器は昔と変わらず槍であった。全てが鮮血を固めたようなブラッディレッドに艶めき、刃と持ち手が同一素材な為繋ぎ目のない両刃の短身槍は、まさの右上にスゥと浮いている。
うーむ、各々美しい武器だな。どれ、私もこれに艶出しでも塗ってみるか?
「え?こんなバリバリ戦闘系な人達らいあん家に居たの?俺が来なんいん間に何があったわけな?ってか俺生きて帰れるんかんな?」
「相変わらず台風の目だねぇ、あんたは」
溜め息と共に現れたのはきーだった。
「あっ、きーちゃん。へるぷみー!」
ことほぎが安堵の表情で手を伸ばす。が。
「ふぇっふぇっ、断るよぉ。しゅゆもまさも食べてからにしな。ほれ、るる、てん。朝御飯だよ。顔洗いに行きんしゃい。らいあ、お前さんも白湯飲みに行きんしゃい。しゅゆ、せいが心配してるよ。まさ、るるの髪解いておやり。ことほぎ、あんたは庭に正座で待機」
「ぼくはせいの所に戻る」
速い。しゅゆがあっという間に部屋を出て行った。
「るる、てん、まさと洗面所へ行こう」
るる、まさ、てんも部屋を出て行った。
ふと気付けば足元に布団は無く、押し入れに仕舞われているのを驚きを持って見る。
るるか?いつの間に畳んだのだろう。
「た、待機?待機ってなんの」
ことほぎがおろおろとしている?
ふむ?ことほぎがおろおろ、か。
「待機する必要はない」
戸惑っていることほぎの言葉を遮る。二人の視線が私に集まったのが分かった。




