竹馬の友は竹に雀を思い笑む~幼馴染みの集い・七~
学塔街当主の名前が分かりました。
そして新しい登場人物、しじょうです。この村の医師の一人です。
「いまのかわいい声俺の声じゃないよね」
分かってるよ。でもほら、万が一ってことあるじゃん。俺の声帯が劇的に進化した可能性もなきにしもあらずでさ。いや、分かってますよ。うん、誰の声だったのかなー?
「てんのお声かわゆきー?」
「うん、かわゆきーって、おおおおお眩しい! なにこの光感高いかわいい子! 天使?妖精?座敷童子?」
かわゆきーって言いながら振り向いたら天使か妖精か座敷童子かがちょこんと居た。
どうしよう、小さな子が真ん丸な目で俺の事見つめてるんだけど。え?それとも俺寝てて夢見てんの?いや、夢と違うわ。俺こんなに想像力持って無いもん。現実だわ。
「あはぱー。てんかわゆきー」
天使か妖精か座敷童子かが両腕をパタパタ羽ばたかせていらっしゃる。飛ぶ?飛ぶ?まさか飛ぶ?ていうか、この子。るるに激似じゃん。
俺はその子をジッと見てしまう。るるは普段、あまり表情の変わらない子だ。その代わりと言ってはなんだが瞳や声、行動に感情や思考が表れ分かりやすい。この子も表情と声に差異が少ないが、瞳と行動に感情が載っている様に感じ取れた。
その事と顔立ちが似ているだけでは他人の空似とも言えるが、それだけではなかった。
なんだ?何かが、根本的なものが似ている。それはらいあやまさからも時折感じ得るものと等しかった。そしてそれはこの人からも。
「うしおくん! うしおくんと呼んでもいいかね!?」
らいあの親戚の人にガシイッと強く両手を掴まれ意識が散乱した。
「ハイイィ!」
めっさビビった。そりゃもうビビった。考え事中の不意打ちはのーせんきゅーだ。声裏返ったぜ。
「我が孫への君の感性は素晴らしい!」
孫なの!?この子!?めっちゃ光放ってるめっちゃかわいいこの子、孫なの!?感性って何の?天使か妖精か座敷童子って言ったこと?
「ど、どうも」
「君と出逢えて僕は嬉しい!」
僕?一人称変わっちゃったよ?
「ど、どうも」
「どうかね?是非とも僕のアトリエにいらっしゃらないかね?」
「アトリエ?継ぎ接ぎ空間で絵描いてんの?」
何の気の無い返しだったが、らいあの親戚の人は片方の眉をピクリ、と動かし目を細めた。
「おや、何故?」
「だってさっき絵入れたけど入れてなかったんじゃん?あっちの継ぎ接ぎ空間で描いた絵だから持って来れなかったんじゃねぇの?」
ホォ……と息を吐きながら身を戻し俺の両手を離したらいあの親戚の人は、嬉しそうにツルツルの顎を撫でた。俺髭生えないんだけどお前さんもかね?
「君は、意外と意外だねぇ」
「どういうこと?」
「こちらの方は意外と意外な方なのじゃね」
「どういうこと?」
「そうだよー、てん。あぁ、かわいい」
俺のどういうこと?が華麗に流されている。見た目もどことなくちょっと似てるし、この二人はやっぱ祖父と孫なんだなぁ、なんてのんきに思う。
「おじいちゃまお顔でれだれなのじゃ」
「え?汁ってんの?ほら、ハンカチ」
「まだ汁は出てないけど、どうも」
まだ?これから出す予定あり?んじゃ持っときな。二枚あるからさ。
「ねーねー、てん、またおじいちゃまのアトリエ行くしたいのじゃ」
「そうかい?じゃあ、今度のお休みにおいでね」
「うん、いく。意外と意外なお方も来られますか?」
「俺?あぁ、邪魔にならないなら行こっかね。せっかく誘われてっし」
「えぇ、どうぞお越しを。こちらから誘っておいて邪魔なんて言わないよ。では後日招待状を送らせていただくね」
「おけー」
光を放ちながら(俺から見てです)お孫さんはとてとて数歩歩いて来ると、ふに、と俺の二の腕に触った。ふに、ふに、と掌全体で押し触り、うん、と納得した様子で一つ頷くと、その柔らかそうな頬を当ててのし掛かって来た。
満足そうなので俺はそのまま背凭れ(頬凭れか?)役に徹する事にした。てかほっぺやわっけーね。つんつんしたいけど止めとこ。
それを見たらいあの親戚の人が「あああ、かわいい。孫かわいい」と全身を震わせていた。
「あの、お孫さん。この人何時もこんな感じなの?」
あ、お孫さんの前でこの人って言っちゃったよ。
「半日から一日くらい会えないと日によってはこうなるですなのじゃ」
真ん丸なおめめをくりりと俺に向けるお孫さんは気にしていないようだ。セーフか?でも気をつけよう。名前聞かなきゃ。あ、それとも当主って呼べばいいのかな?俺が呼んでいいのか聞くか。
「なるほど。じゃあ今日は会えてなかったんだね」
「うんじゃ」
「だからかぁ」
「だからなの。そしててんはてんなのじゃ。お気軽にそのまま、てん、とお呼びくださいな」
「ご丁寧にどうも。俺はうしおって呼んで、てん」
「うしおちゃま」
にこり、と花のように笑むてん。花ってあれよ、花びらふわふわ光に透ける系の花よ。ほら、せいの家の裏の庭の樹の花とか。しかし、あの花の名前知ってる人居ないんだよなー。すっげー昔からある樹らしいんだけどね。たぶん色々あって名前だけ受け継げれなかったんだな。
「宜しくー、てん」
「よろしくなのですじゃ」
もっかいにこり。花びらがぶわりと舞って見えた(俺だけと思う)。
「かっ、わっいー」
悶える俺。駄目だ落ち着け俺。このままじゃ全財産この子に渡したくなりそうでなんか危なかしいぞ。落ち着け俺! 俺の全財産はひめめに渡すと決めているんだ!
「てん、おじいちゃまもおじいちゃまも! おじいちゃまはうかびだよー」
「うかびちゃま」
更ににこり。花びらぶわり増量(うしお比)。
「かわいいぃ」
仰け反るおじいちゃま。腰大事にね。
「分かるわぁ」
「分かるだろう。そうだ、その、よ、よければ、君も僕の事は、その、うかびと呼んでもいいよ。学塔街の当主と言うと長いし、ほら、アトリエに呼ぶ子だし、だ、だから呼んでもいいよ」
もじもじと長い袖の先をいじりながら早口に言うおじいちゃま(基本俺より若く見えるけど年上なのかね?)。なんでかな、おじいちゃまもかわいく見えてきたわ。
「おうよ。僕の時は、うかびって呼ぶわ」
キョトン、とうかびがした。そして唇に揃えた指先を当ててハッとする。一人称が替わっていた事に今気付いたのかもしれない。
「あっ……。うしおくん、ありがとう」
「えー?ナンノコトカナー?」
事情は知らんけど、そんな方が良さげだもんね。そうしとこそうしとこ。
そんなこんなの俺らの横では皆がそれぞれ活動中だった。
まさの爆音声で起きたらしいせいと、たてこう、この村専任医師のしじょうがやってきていた。
たてこうはきーさんの応援に行き、せいはるるとしゅゆから事情を聞いている。せいが目覚めたからか鎌は仕舞ってくれたようだ。
高座椅子に凭れているらいあはしじょうに問診されていて、まさとちくばは飲み物を用意に台所へ行った。
まさが台所へ行った事に心配が出るのは、幼い頃台所へ水を飲みに行ったらまさに頭から氷水掛けられた思い出があるからだろうか。それとも、まさが台所に入ると、通常では起こらなそうな音が聞こえるようになるからだろうか。
ちくばが居るからなんとか大丈夫とは思うけど。
るるが持ってきた夜食類は継ぎ接ぎ空間の物なのでこちらには無かった。「いっぱい用意したのに……なんてことるん」と畳に両手を付け悔しがるるるの背を、せいとしゅゆがぽんぽんとさすったりして宥めていた。
そこへまさとちくばが飲み物も夜食も持って帰って来ると、るるは瞬時に全回復を果たしていた。それから、まさの用意したものを聞いているので、久方ぶりにまさの作ったものを食べたいのかと思いきやきれいに避けていた。その真剣な眼差しに、俺も絶対避けようと心に決めて、覚える為に頭と耳と目を全力で働かせた。
そういえば、まさの青汁はすごい味だったんだった。料理は食べたこと無かったが、恐らく料理もなんだな。
もしかして、るるはまさの味で育ったんだろうか?ここへ来た当初のるるの料理、は食べられるけど割りと破天荒だったのだ。
そうだとしたらおにぎりにまるごと煮たピーマン入れたのも頷けるかもしれない。いま目の前にあるまさが作ったという和え物の具材を見る限りでは。
あれは俺食べれない。ちくば何?もったいないから食べて?無理だよ。胃悪くしちゃう。しじょうさんが居る?そういう問題じゃないから。ちくば食えよ。待って! ごめんごめん食べないで! 泣きそうだし! まさが! まさが食べればいいから! まさほらこれ食べなよ。なんで首横に振ってるんだ……。
「てんですー。こにちはー。てんはてんなのですじゃー。こにちはーなのですー」
只今、学塔街の天使もといてんは、皆の脇を回ってご挨拶の真っ最中である。
「てん。ぼくはしゅゆ」
「しゅゆちゃまー」
「え、えと、てんさん。せ、せいです」
「せ・せいちゃまー」
「あ、いや、ただのせいです」
「ただのせいちゃまー」
「あ、いや、ごめんなさいあの、……せい……です」
「せいちゃまー」
ごめん。頑張ったせいを笑う俺を許して。そして名前を聞くたびにあっちらこっちらに小首を傾げるてんがかわい過ぎる。
「てん。るるはるる、るん」
「るるちゃまー」
うん、この二人やっぱ似てるわ。てんは光放つ子としたら、るるは風舞う子である。つまりどっちもかわいい。
「かわいいね。それの孫とは思えないよ」
しゅゆ、人をそれと言ってはいけません。今更ながら。
「うしおくん聞こえた?僕褒められてるよ!」
「いまの褒められてんの?うかびがいいならいいけど」
うかびがランランと瞳を輝かせる。どうやら、私、の時は表情わざと作ってるんだな。僕、の時はてんやるると同じに表情はあまり動かないが、瞳と声と行動がよく動く。つまりかわいい。あれだね、もう、俺の弟のような人ってことでいいんじゃないかな。なんて勝手に思ったり。
「こにちはー。てんですぅー。てんなのですじゃー」
問診を終え高座椅子の背凭れを三十度程まで倒し休むらいあを気遣ってか、小声で挨拶するてん。
齢70近いという噂のあるしじょうは、「おやまぁ、かわいらしい。こんにちは、私はしじょうですよ。ご体調に変わりがあった時はこのしじょうに御用命を」とにこにこの笑顔だ。でも両手には聴診器と細型懐中電灯。診察する気満々だ。
てんはしじょうに正面を向けつつ、蟹のように歩いてそろりそろり離れていた。うん、診察されない気満々だ。
「こんにちは、ちくばです。こちらは、らいあだよ。ご挨拶ありがとう、てんくん」
「こんにちは! まさだぞ! てん! どうだ!?たかいたかいするか!?」
待て待て待て! 自分の大振り具合を思い出して! 張り切り過ぎてお手玉で天井壊すくらいだからね!?
寝転ぼうとしていた俺は弱い腹筋を無理矢理フル稼動させて跳ね起きた。
「待て待て! てんが飛んでくから!」
「それもそうか! よし! 止めよう!」
「あぁぁ腹筋震える……」
無事まさを止めれた俺は今度こそ寝転んだ。が。
「では木の実ごっこを!」
「待て待て待て!」
木の実ごっこが何か知らんけど嫌な予感しかしない! 俺の腹筋ダメージ大から回復してないから誰かとめてくれ! うかび、笑ってる場合じゃないからね!




