竹馬の友は竹に雀を思い笑む~幼馴染みの集い・六~
「せいという子は眠っているだけだよ」
しゅゆの尖り切った刃の鎌や防御壁のこのこまかーいヒビを見ても態度も雰囲気も変わらないのはすげぇわ。すげぇけど、俺越しにしゅゆ挑発するのは本気で止めてよ。たぶん俺、逃げ切れないからね。
「ニセモノを消せばせいの目が覚めるかな」
据わってる。しゅゆの目が据わってる。やっぱ俺離れよう、と思ったらああぁ! 押さえ込んでいる手首を逆に掴まれてるよ! なんでよ! 離せよ!
「私に関わらず明日の朝には起きるよ」
そう! 関わらず! 関わらず起きるってさ! しゅゆ!
「せいを待つ間に消そうかな。うしお、どいて」
それがこの人、磁石みたいに手が離れないんです。俺ら磁気あんのかね?
「二人とも話してるけど話してないるん」
だよね。噛み合ってるけど噛み合ってないね。俺もなんとなくね。
「しゅゆ、たてこうはどこいったるん?」
るるナーイス! 延ばして! 時間を限りなく!
「しじょうを呼びに行ったよ。きーさんはせいの元に」
「るん」
……しゅうりょーう!! てか、たてこう居ないの!?激怒りのしゅゆを止められる人全員留守なの!?
「その、人を傷つけ、ないで、くれないか」
鶴の一声はらいあの一声。奇跡のようにしゅゆの肩の力が抜けたのが分かる。鎌は構えたままだが。なんちって。……すみません。
「……らいあが言うなら仕方がないけど、何かする素振りをしたら消すよ」
「あぁ、ありがとう」
ほっと息を吐くらいあ。
え、めっちゃ安心してんじゃん。そんな表情させる人なの?この人。俺長々と押さえ込んじゃってますけど。
俺の下の人とらいあを交互に見ていたまさが、もしかして、と目を開いた。
「まさか、まさかだが、その怪しい人物はらいあの御親戚か?その腕輪が、らいあのと似てて……」
腕輪?と見れば、らいあが床の間に飾っている腕輪と石の色以外同じものが確かにその腕に。
「「そうだ」よ」
「えええ似てねえ!」
「似てないかもねぇ」
「似てないるん」
「似なくてよかったね」
「まさもしゅゆに同感だ! 似なくてよかった!」
「あはは! そうだね。私はらいあと似なくてよかったんだろうな」
「え?あれ?」
俺はぽかん、と目の前を見た。
だってこの人俺の下から出て座ってんだもん! いつの間に! その気になればいつでも出れたんだな! そりゃあ余裕綽々だろうな! こんちくしょう! 抑えてて痺れた俺の手はどうしてくれる!
ニコニコ笑っている笑みは最初の不気味なのではないが。
「その顔やめてくんない?せいだけどせいじゃなくて困るんだけど」
「では、起きようか」
「へ?」
視界が、一瞬、ぶれた。
「お帰り」
「おおおおお! 顔近っ!」
眼前にきーさん。「うるさい」とデコをピンされました。
だって顔近かったんだもん。ちなみに俺は拗ねている。だって俺の下の人が座ってたんだもん。俺の力っていったい……。ていうか気付かない俺って……。
顔を向ければ、きーさんと怪しい人以外、首を傾げながら起き上がろうとする所だった。俺は畳に仰向けだ。
え?俺ら寝てたの?あっ、そういえばさっきこの人起きようかって言ってたか?
「るるちゃんとしゅゆくんは?」
ちくばが探すまでもなく、二人とも居なかった。
「るん語尾の子は自室だろう。鎌の子は居間だ。おはよう。みなさん」
朗らかに挨拶してくるもんだから、一瞬怪しい人なの忘れちったじゃん。んで?鎌の子は分かるけど、るんごびって何よ。ごび、語尾?まあ、そうだけどさぁ。
跳ねるように立ち上がったまさは、「行ってくる」と部屋を飛び出して行った。
「しゅゆは自分で来るよな。さてと、お前か。せいの顔してたの」
「そうだよ」
「似てないな」
怪しい人は……怪しい人ってのもなんだなぁ。らいあの親戚らしいし。名前知らんし、長いけど、らいあの親戚の人にしとくか。
らいあの親戚の人はぽかん、と口を開けた。その顔だと俺より若く見えた。
「先程も聞いたが?」
「さっきは中。いまは外」
「あぁ、成る程」
短い文でも会話が成り立って楽だ。ちょっと気が合うのかもしれない。
ダダダダダダダダ! と近づいてきた床の響きと打撃音(恐らく足音)と共にしゅゆが駆け込んで来た。何時にない俊敏な動きと凛々しい顔、手には鎌。
鎌は無くて良かったのになー。
「ぼくをわざわざ居間に移動させたの誰?周りのやつら?顔覚えるから後で教えて。きーさん、せいは?」
しゅゆ運ばれたの?誰がそんなことしちゃったの?
らいあの親戚の人を見れば、ニコリ。
うん、お前さんの護衛ね。でしょうね。もし俺だったら離れて起きるか先に起きて逃げるかするわな。
「しじょうとたてこうがついてるよ。ただ寝てるだけだとさ。自発的な睡眠で問題ないとよ」
「よかった。ありがとう」
「いんやぁ、ふぇっふぇっ。あたしを連れて外に出た時は驚いたが、なんともいい選択だったようだねぇ」
何処がよ!?
「きーさん。きーさんもたてこうもいないから俺大変だったんだぜ」
「ふぇっふぇっ、いい壁作ってるもんねぇ」
その通り、俺の人生で一番の出来である。その証拠にまだ残ってる。俺が作ったものだからいっしょに移動してきたんかな?
スッパーン! と襖が弾くように開いた。デジャブ。
「るるるるるるるるるるるるるるるるーん!」
何時でも何処でもるる元気。
そんなキャッチコピーが俺の頭に生まれた瞬間だった。
「うおうぉを! どっから来てんの!」
「ここ」
そう、天袋。押し入れの上の細めのとこね。まさかそこから人がズルズル這い出てくるとは夢にも思わなかったよ。
「天袋だねぇ。隠し通路が有ったなんて、ぼくしらなかったよ」
ちくばはるるが降りるのを助けながら、へぇー、と感心している。
「るるが掘ったから有るのは最近るん」
掘った?掘っちゃった?壁の中柱の中を?
「るん。らいあのとこにすぐ駆け付けれるようにしたかったるん。らいあ、体調悪いの、隠すもん」
ちくばと顔を見合わせる。両手で服を握り締めて俯いたるるを叱れない。ちくばも同じ思いらしい。「そうなんだねぇ……」とるるの頭を撫でり撫でりしている。
「俺の知り合いに耐震の点検依頼しておくわ」
「そうがいいかも「るるーーーーーっ!」
ちくばの声を覆い隠す大爆音の声にるるが顔を上げる。その目尻を、俺は見ないようにした。
「あ、まさちゃんだ。どうしたるん?」
まさ忘れてたぜ。
「るる呼びに行ってたんだよ。会わなかった?」
「るん。目覚めてすぐ壁に飛び込んだから」
「か、壁は飛び込む所じゃないからな?」
「るん?」
るるは「なにいってんのかわからない」って顔だ。どうしよう。るると意志が疎通しない。
「るるーーーーーっ!居たああああああああっ!」
襖を剥がし取る勢いで部屋に飛び込んで来たまさ。るるに抱きついて「べやっべやにいながったがらぼがもざがじだのにいないがら」と泣いている。
「るんるん、ごめんるん。別の道から先に来ちゃったるん」
「ぶえおえあぁぁ」
「るんるん」
まさ、るるが浮いてるから。るるはるるで抜け出そうとしているし。
「不味いな」
らいあの親戚の人が呟いた。
「このタイミングに何食べてたの?」
「その不味いではなく。爆音声の子の声で周辺住民が集まり始めた。幾重の結界も意味を成さない爆音とは素晴らしいね」
爆音声の子。紛れもなく、まさの事だな。
「ふぇっふぇっ。あたしが行って来てやるよぉ。坊や、早いとこ話しちまいなぁ」
きーさんはふぇっふぇっと笑いながらゆっくり歩いて行った。
きーさんの背が見えなくなってしばらくして、「ぼうや」とらいあの親戚の人がポツリと言った。
俺より年上だろうに。きーさんからしたら坊やかぁ。そしたら俺は何よ?
「申し、訳ないが、あなたは私の?」
らいあの声にハッとそちらを見る。らいあはちくばの手を背にしゃんと座っていたが、顔は冷えた色をしていた。
あー、ホットミルク飲ましてやりてぇ。
「ああ、小さい頃に会ったきりだったから覚えてなくても無理はないよ。叔父だ。君のお父さんの弟。そして」
ニコリ、とそいつは笑みを作った。
「学塔街当主を担わしていただいている」
「……るる」
らいあはまさの腕から無事逃げ出したるるを引っ張り、自分の胸に抱え込んだ。「やっぱり消す?」としゅゆは嬉しそうに構え、まさはらいあごとるるを抱き締める。「まさちゃんるるつぶれる」ともごもご言いながらもるるはおとなしく、ちくばは顔色悪くもらいあ達の前に移動した。俺はというと。
「手首離してくんない?」
「離したら鎌の子が来て危ないじゃないか」
「それは俺の台詞だっつの! あのな、危ない方にお前から突っ込んで行ってんだよ! てか学塔街当主って何だよ。やべぇの?やべぇヤツなの?」
「まさか。私は名だけさ」
「違う意味でやべぇじゃん。てか、がくとうがい?って噂しか聞いたことないんだけど実際何なの」
「学びの街だ」
「学び?学校?」
「学校もある。巨大な壁に囲まれた街だ。これまた巨大な塔が並び立っていてね。学びの塔の立ち並ぶ街、で学塔街」
「なーる。んで、そこの町長的な?」
「町長は他に居る。私は学塔街楽子の当主だ」
「ああん?らこ?あの手紙お前か?」
「そうだよ。箱の中身は気にいってくれたかな?」
「なんも入ってなかったぞ」
「え?」
え?めっちゃ驚いてるよ?
「何も入っていなかった?」
「うん、入ってなかった」
ホントにめっちゃ驚いてるよ。え?俺の記憶違い?いやいや、入ってなかったよね?うん、入ってない入ってない。皆で見たからな。
「入って……」
らいあの親戚の人が溜めて。
「なかった」
俺が繋げる。
俺この人と昔から友だちだったっけ?って気持ちになってきたぞ。
「え?」
「ん?」
本当に本気で驚いてるけど。それに俺も驚いてるんですけど。
「本当は何入ってたの?」
「孫の姿絵」
孫の絵かい!
「何入れてんのあんた」
「だってかわいいんだもん孫。自慢したくて」
自慢かい。こっちだってかわいいるるが居るわ。本人の許可無く自慢はしないけど。
「そりゃあかわいいだろうけどさ」
「ずっと抱えていたいくらいかわいいんだ」
ずっと抱えている姿を想像して、孫に嫌われるこの人も想像した。
ずっとだもんな。嫌がられそうだわな。
「あれだ、気持ちは分かるがかわいそうだからやめてやれ」
「それが、したくても出来ないんだ」
「な、なんで」
あまりの悲痛な表情に思わず身を引く。
いったい孫に何が。
「どうしてか全方向から止めが入るんだよ」
「だろうな」
周りはまともそうでちょっと安心だ。
途端、「あぁあ」と頭を抱え出すらいあの親戚の人。
「なになに!?頭痛いの?」
「いや、頭は痛くない。驚かせて済まない。箱に入ってない理由が分かったんだ。どうやらあちらで入れたんだな」
「あちら?あぁ、さっきの継ぎ接ぎ空間」
「そうだ。しまったなあ。今日は自分のしか持ってきていないからお見せすることしか叶わんな」
「そんなことより、継ぎ接ぎ空間と現実の境が曖昧なことのが問題じゃん?」
「それは何時もの事だからねぇ」
「それもどうよ。今日初めて会った俺でも心配になるぜ」
「そうなのじゃ。何時もおじいちゃまをみんな心配になるのじゃ」
俺と誰かの声が一文分被った。
え?俺こんなかわいい声だっけ?なんて一瞬思った俺は、気が付いていないだけでとんでもなく眠い状態なのかもしれない。




