竹馬の友は竹に雀を思い笑む~幼馴染みの集い・五~
いつの間にか星★がついていました。
押してくださってありがとうございます!
嬉しいです!
そいつの襟元を掴んで身体を畳に押し倒し、首筋にそれを当てる。
「うしお!」
誰かの咎める叫びなど気にもならない。
「んで?」
俺は冷たいそれを首筋に当てたまま、何故か一切の抵抗もしないそいつの身体を押さえ込む。
「お前の目的何よ?……せいにそっくりなダレカサン?」
そいつはせいにそっくりな顔を、せいが絶対しない笑みへと歪ませた。三日月のように目を細め、唇の片側のみを引き上げたのだ。
うぉっ、止めろ! せいの顔でそんな表情してんじゃねぇよ。
「そうだね、気付いていただろうね。私の隣に居座った頃には」
せいの声帯から発される等と到底思えない、ほの暗いトンネルの中に居る錯覚に落とされる響きの声だった。背筋の皮膚が粟立つ底の知れない不気味な気配が、声からも、その身からも漂って来ている。
うをぉお。やだこの人ー。手ぇ離してぇ。心ヘタレそう。離さないけど、離さないけどヘタレそう。
「初めましてだねぇ、らいあ以外は」
「呼ぶんじゃねぇ。初めましてだろうがなかろうが、てめぇに呼ばせる名前はここには無い」
「おや、こわいこわい」
クスクス笑うそいつが俺を怖いと感じている様子は皆無だった。
俺も俺を怖いとまったく思えないが、そもそもこいつはどんな屈強な生き物も怖いと思わなそうな感じだ。
「コホッ、う、しお」
「らいあ、まだ話しちゃ駄目だよ。まさが薬用意してるからね」
弱々しいらいあの声のすぐ側からは、泣きそうなちくばの声がした。そちらは見れないがきっとちくばがらいあを支えているんだろう。
力無く掠れた声で呼ばれた名は、俺のヘタレそうな心に力を与えた。が、その後に聞こえた、「らいあ、るるより後ろに居るん。るるが守るん」に仰天する俺。
るる前に居んの!?しゅゆとたてこうはどーしたよ!?
「しゅゆ! たてこう! るる前に出すな!」
呼び掛けるも返事はるるからしか来ない。
「しゅゆとたてこうはきーさん連れてどっか行ったるん」
「えええ!?どっか行ったの!?何処行ったの!?お願い嘘って言って!」
「嘘じゃないけど要望にお応えするん。嘘」
「嘘じゃない優しさありがとう!! 」
なんて言いながらも動揺し続ける俺。るるの落ち着いた声が今現在唯一の安定剤です。
しゅゆもたてこうもきーさんも居ないとかどうすんだよ。まさとちくばはらいあから離れないだろうから、らいあは守られる。でも、この家を守るやつが居ねぇ。るるは強いが実戦経験の無い子だ。無理させられない。俺の力なんて高がしれているし。ていうかコイツ、俺なんか目じゃないくらい強いぞ絶対。
「そうだね、私は強いよ」
下から聞こえる楽しそうな声。
押さえ込まれているのに余裕綽々過ぎるんじゃねぇ?理由はさっき思った通りだろうがな。
「お前にゃ心読まれたくないわ!」
「それは失礼。君の瞳がうるさいもので、つい」
「絶対お前に『君の瞳に乾杯』とか言われたくねぇ!」
「うしお、それは言ってないるん」
「確かに私は『君の瞳に乾杯』とは言ってないな、さっきまではね」
「うをおおお! 言ったああぁ! 今言っちゃったあああ! トリハダアアアァァ!」
「うしおうるさいぞ。まさでも静かなのに」
「うしお静かにして、らいあに響く」
「君はうるさいね」
「うしおびーくわいえっと、るん」
まさとちくばには本気で叱られました。ごめんなさい。
「私はらいあを傷つけていないよ」
「直接してねぇだけで、手紙やら家の周りの奴らやら空箱で疲れさせただろうが。それにここなんだよ?現実じゃねえな。空間のあちらこちらに継ぎ接ぎがあるなんてヤベエとこ入れやがって。てか、せい何処やったんだよ?せい」
「この子かい?胃もたれしていたので休ませてあるよ。現実の客室の布団に」
「胃もたれしてたのかよ……。なら泊まってきゃいいのに。あ! おい、無理矢理気ぃ失わせたんじゃねぇだろうな」
「まさか。胃もたれで気分が優れない上に睡魔と闘っていたのでね、自宅の自室だと思わせただけだよ。あの子には胃にやさしい物を後ほど贈ろう」
「いらんわ。俺が買ってくるからお前はさっさと帰れよ。怪我したくなかったらな」
「怪我?」
不思議そうにしている時点で俺たちからの攻撃を気にしていないのだとハッキリ分かる。
けどな、それはちょっと楽観的過ぎるぞ。
「そう、怪我。んで、お前の部下か?この家の周りに居んの」
「私の護衛だ」
「えぇーヤダァ、お前昼からこの家に居たの?」
「屋根裏部屋にね。清潔で快適だったよ。日照で暑くない。断熱材がきちんと使われているようだね」
「あとは小さな冷蔵庫と簡易キッチンを置く予定るん」
「それは素晴らしい。ならば壁や床に防油防水シートを貼ると尚良いよ」
「なるほどん」
屋根裏部屋あるなんて初めて聞いたぜ。さては、るる、内緒で作ってたな。にしてはバレた感がない。らいあ公認か?まぁいいや、後で聞こう。今はそれよりも。
「るる、怪しい人と話してはいけません! お前はるるに話し掛けんな!」
「その人怪しいるん?」
「私は怪しくないよ」
「充分怪しいから!」
第一、不法侵入してるから! 俺?俺はらいあ公認だもん。……だよね。そうだよね。ひめめと過ごしてた間だけじゃないよね?
「それ?」
背後から聞こえた声に、ゾワッ!と全身に鳥肌が立った。
ヤベェ!
振り向く前に目一杯“力”を注いだ防御壁を張る。
ガッキーン!! と頭の痛くなる音に首をすくめる。
「何してるの?うしお。それの味方をしてるの?」
「ちっげーよ! あほ! 俺の方に攻撃されたらつい守るに決まってんだろーが!」
「そっか、よかった。うしおも錆びにしないといけないのかと思った」
細々としたヒビの入った防御壁の向こう側のしゅゆは、うっすらとした笑みを浮かべていた。その手には、その背より長く鋭い鎌がある。しゅゆの髪の色と同じ鎌の柄には、細やかな紋様が縦並びに浮き彫りにされている。刃は研いだばかりのうすら寒くなるような輝きがあった。
穏やかで愉快そうな声が、緩やかな弧を描いた唇から流れていく。
「うしお、離れて。せいのニセモノを消さなきゃ」
「おおおおお落ち着けよぉ」
「うしおがね」
「それもそうだな」
うん、俺が一番慌ててるわ。
お読みいただきありがとうございます。




