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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
現在編
15/140

ふるふるてるてるほどほど~その夜・二~

かずらと当主です。

前半後半で視点が替わります。

「てんとまひろの仲は良好なようだね」


 自ら点けた小さな蝋燭の灯りに照らされた微笑みは、孫とその友人の関係を喜んでいるようにしか見えない。


「温室までの道のりで、互いに愛の告白をしていたぞ」

「ほう、それは喜ばしい」


 笑みを深め両の手を組むこいつ。

 とうに知っているだろうにわざとらしいこと。何せお前の影が其処らに潜んでいるのだからな。

 これ以上の相手は面倒と、掛け布団を捲り足から勢い良く滑り込む。

 ここ半年は互いに忙しく、就寝時はどちらかが既に寝ていたので話すのは久方振りだが、今日は色々と疲れた。主にてんの奇声に。あの奇声が夢に出ないことを全力で願いつつ、心穏やかに休みたいのだ。


「かずら」


 名を呼ばれたと同時に髪に鼻を埋めてくる。唇がこめかみに触れた。

 おいお前、私より柔らかくないか?唇。何故だ。さららに言われ、毎日朝昼晩欠かさずさらら特製の保湿剤を塗っているのに。


「かずら」


 まったく、一族の長がなんという声で呼ぶんだか。

 こういう時、我らがパートナーなのだということを強く実感する。


「てん達の相手はするのに。私とはしてくれないのかい?」

「てんと比べてどうする。お前は幼子か」

「いや、違うよ」


 くすくすっ。と微かな笑い声の後に続いた言葉に固まった。


「君の恋人さ。愛しい人、僕の唯一」


 だあぁ、よく言えるな。久方振り過ぎてむず痒いわ。半年前の我はこんな戯れ言を聞き流していたのか?どうやってしていたのだ?あぁ、痒い。僕、というこいつにもここでしか出会えないが、先程までの話はもう終わったのか。


「いいや、君を想えば自然と出てくるものさ。それに今からは休みの時間にした。僕でいい」

「思考を読むな」

「ふふふっ」


 あ、今の笑い方、今日何処かで聞いたぞ。誰だ?そうか、あの子の。


「たまたまさ。僕や私の隠し子でないよ。あの子の親は僕でも私でも分からない」


 知っとるわ! と言いそうになるのを止める。

 たぶん、こいつはわざとまひろの笑いを真似たのだ。隠し子でないとわざわざ言いたかったらしい。

 そんなこと当に知っている。健康診断で血液検査を受けさせただろうが。お前は自分の血液型も忘れたのか。


「当たり前だ、ど阿保。思考を読むな」

「僕と居て他事を考える君が悪い」

「それくらい考えさせろ」

「嫌だ」


 口を曲げて拗ねるな。……ちょっとかわいらしいなんて思ってしまっただろうが。

 悔しさに、ツンと顎を上げてみせる。


「ふん。お前は考えるというのにか」

「君の事だから問題ないさ。僕と私が考える事の全て前後は君に至るのだから」

「は」

「君が居なければ僕は私でない。そして僕でもない。君は僕や私の全てだ。例え、この先で何があろうと」


 この先に何かがあると、そんなに掠れた声で、お前は言うのか。


「お前はいったい」

「かずら」


 遮られて腹が立ったが、腰の括れに添いながら両腕を回され言葉を発する機会を失う。


「かずら、僕と居て」

「……この状態で何処へ行けと言うんだ阿呆」

「ふふふ、かずらの香りがする。ふふふふふふふふふふふふ」

「……」


 こいつはもう知らん。よし、寝よう。何があっても寝よう。そう、明日の為に休もう。

 髪に顔を埋めているのを無視して布団を被り直す。

 あの日は、ちと怒り過ぎたかもしれん。

 閉じた目蓋の裏に、かずらの著書を抱えて嬉しそうに笑む初孫の姿が、淡く浮かんでいた。






 絶句して何も言わなくなったかずらが眠りに付いても、ずっと抱き締めていた。規則正しい寝息に健康を感じて安堵する。

 この体温が無くなっても自分は生きて行けるのか。

 違うな、かずらを手放さなければならなくなった時は、私自身も僕自身も手放す時なのだ。

 癖のある長い髪に指を差し込み掬う。かずらの香りのするそれを親指と人差し指の先で潰す様に揉み、そこへ唇を落とす。


 かずら、僕の全て。君の元へ僕は心を置いて行く。心の無かった僕に心を創造した人。創ったのは君だから、置いていってもいいよね?


「愛している」


 起きている時は言えない言葉。


「愛している、かずら」


 僕が私の時は決して言わない言葉。


「愛している」


 遠からぬ未来に、例え君が僕を憎んだとしても、君の全てを。

 先程、さららがてんとまひろの元へ行った。ゆたきも連れて行ったらしい。

 行動が早いねぇ。我が子ながら逞しい。私の目があると、分かっているというのに。

 私に小さな疑念を抱えるさららが、大陸の当主と秘かに連絡を取っている事は知っている。さららのそれは権力だとか名誉だとかの欲からなるものでは無い。純に子を想うものだ。だから、より強い。そして深い。己が為だけの想いでは創り得ぬ力。恐らく今にも、私ですら抗えぬものへと変貌するであろう力。


「さららは君に似たな」


 強くしなやか。柔くも弾力性は高い。そして何より。


「私を信じ切らない」


 それで良い。そうでなくてはならない。

 賽は既に投げられている。小さなそれは坂であろうとなかろうと、コロコロコロコロ転がって止まらない。あまりにも小さく速いから、追えない追い付かない止められない。不意に現れた巨石や濁流をも意に介さず、人の意思なぞすり抜けて進む。

 見失いもするだろう。気付いた時には眼前に迫っていることもあろう。その時に必要なのは、かずらやさららのそれらであると思っている。


「どうかそのままに、私を信じないでおくれ」


 なんとも勝手な願いであることは分かっている。家族に願う事がそれでは、なんとも意気地の無いものでもあろう。

 だが、それがこの先家族を護り救うのであれば、私も僕もそうさせる事を厭わない。

 いつか動きを止めた賽が導き出した答えが、どうかかずらたちに当たりませんように。

 然し、賽はどうしても誰か一人に当たるもの。それをどうか、私一人だけに。

 どうか、この子達に笑みを。

 どうか。


 目の前の温もりを、頭に、体に、心全てに染み込ませる。


 おやすみ、愛しい人達よ。今だけはすべてを忘れて、良い夜を。


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