ふるふるてるてるほどほど~その夜~
てん、まひろ、ゆたきと、新しい登場人物のさららです。
「てんな、てんな、まひろとゆたきとかずらちゃまとお茶会したのじゃ。あ、当主様ともだった。忘れてた」
「それはすてきなのぉ。さららもお茶会したいのなのな」
「まひろもさらら様としたいですぅ。明日いっしょにするですぅ?」
「そうしましょなのぉ。良かったのな。さらら、明日お休みなぁのな。お菓子持っていくなのな」
「うぴぃー。楽しみですぅ」
「うっひょー。楽しみじゃ楽しみじゃ」
「さららもなのぉ」
きゃっきゃうふふとおしゃべりを楽しむ三人が布団に寝転んでいる脇で仰向けになっているゆたきは、体をピンと真っ直ぐに強張らせたまま気配を絶とうと必死だった。
何で俺はここに居るんだ。さっきまで自室で地学を学んでいたのに。勿論分かっている。突然現れたさらら様に、「ゆたき、てんのお部屋何処だったっけなのな?」と道案内を頼まれたからだ。
忘れる?自分の子の部屋。てん、部屋替えしたっけか?してないよな?そうか、恐らくさらら様は忘れた振りをしているんだな。きっと、俺とてん達と話したい事があるのだろう。
そう考えた俺は案内をした。ら、てんに「ゆたきーっ! て、てんと、てんとそんなに離れがたかったのかーっ! かかかかわゆきーっ! いとかわゆきーっ!」と叫ばれ、まひろには「ゆたき、枕はどれがお好きですか?やわめですか?斜めですか?じゃらじゃらですか?」と問われ、さらら様に「ゆたき、こどもは寝るが勝ちなのな」と布団に放り込まれた。
てんの布団は特注で、はちゃめちゃでかいと聞いていた。てんが寝ながら転がっていくので、風邪をひかせない為だと聞いている。けれど布団の縁を飾るように大小様々な枕が並べられているのは知らなかった。
じゃらじゃらってどれだ?なんだ?スパンコールでも縫い付けてあんのか?てか、寝るが勝ちってなんだよ。俺は、夜は予習復習の後寝るんだが。
等と考えながら、ゆたきは布団の縁の枕に身を埋めるようにして変わらず寝転がっている。隣では三人がまだ話し込んでいた。
なんでこいつらは寝ねぇんだ。寝るが勝ちじゃないのか。俺が聞かねえ方がいい話もあるだろうに。
さらら様とてんは言わずもがな親と子で、まひろはてんの婚約者第一候補だ。でも、俺はただの友だちその一である。家族の会話に入れられても困る事にならないか。俺にとってもあちらにとっても。
「ゆたき」
「はいっ!」
前触れ無くさらら様に呼ばれ、俺は勢いよく起き上がった。
さらら様は、ゆたきは元気なのな、と微笑んでいる。
しまった。ちょっと恥ずかしい。
「も一度、気を楽に寝転がってなのな。あんな、三人に年の近い楽子が幾人かおってな。今日は、楽子の家の麓の村と、海老の浜の子ぉの話をしようかなと思ってなのな」
「さららちゃまのおともだち?」
てんが瞳をキラキラさせている。
さららはそんなてんの頭をなでりなでりしている。
「んんん。さららは直には会ってなくて、遠くから見ておったのな。お父様にそっと見守るよう言われた子ぉ達だからなの。でも、心の中ではおともだちよ」
当主様が?そっと?
薄々気付いていたが、この街-『学塔街』の外、通称『大陸』に住む楽子と学塔街の楽子とは、繋がりが細いように感じる。
社交的なさらら様ならば、自身は勿論、てんやまひろをとうの昔に会わせていそうだから、より違和感を覚える。
「かわゆき?かわゆき?」
「かわいいなの。麓の村の子はるるちゃんといって、るんるんな子なの。海老の原の子はのびるちゃんとはばたきちゃんといって、のびのびてちてちしている子たちなの」
「会えるですぅ?会えるですぅ?」
まひろの足がパタパタ動いている。
さららはそんなまひろのほっぺをふにふにしている。
「そうねぇ、会いに行こうかねぇ、なのな」
「え?人の居る『大陸』に行くんですか?」
人の居ない場所へは何度か行ったが、居る土地は初めてだ。
驚いて起き上がると、さららは布団に付いた手の指の爪の際を程よくぐっぐっとしてきた。
ツボ?ツボ押し?なんのツボですか?ちょっと気持ちいいんであんまり凝ってなさそうです。
「そうなの。あちらの御当主の許しが出たからね」
「え?」
「え?」
まひろとおれは同時に声を上げた。てんは驚かない。それどころか、「珍かでございますのぉ」なんて言ってのんびり枕をもみもみしている。
「そうなのな。お父様もしっかり驚いていらしたのなの。突然にお手紙が来たものだから、偽物かと思って返事したら本当だったんだってなの」
「あんりまぁ。それは吉でございましょうかのぉ」
「さららはそうであると切に願っておるのなの」
「てんもでございます。学塔街と大陸とで別れるには、まんだ時期尚早と思いますじゃ」
「ええ、ええ、そうなのな。まんだ、繋がる余地はようあるのなのな」
まひろとおれは、二人の会話を口を開けて聴いていた。
大陸に御当主?まさか、楽子は当主が二人居るのか?
「そこでな、ゆたき、まひろ」
「は、はいっ!」
「うぉうはいっ!」
「二人も知っておいてほしのなの。特にゆたき、あなたはてんの友としか自身を見ていないようなのだけれど、さらら達は違うからね」
違う?当主様と勉強会をして、育てていただいていると、てんの側に居て良いと言われていると思っていたのに。つまり、俺はてんの友でも側近候補でもな……。
「ゆたきはてんの友であり兄であり弟であり側近であるのなの!」
さららに稀なハッキリした物言いに、心臓がドクンと跳ねた。
「そじゃそじゃ。てんの友であり家族であり同僚なのじゃ。故に、そんなに遠くへ行かんでたも。この先でも、てんはそなたとちこうにおりたい。じゃから、そんな顔するでない」
顔……。俺は、どんな顔をしているんだろう?
「ほれ、てんを置いて行きそうな顔をするな。よいか、ゆたき。まひろもじゃ。てんはそなたらを連れてゆくからな。何処へ行こうと何があろうと、共にゆくからな。覚悟しておれ、離さんぞ。決して決して離さんぞ」
いつの間にかてんは泣いていた。でっかい真ん丸な目から、ボロボロ涙が溢れている。
まひろも泣いていた。うえっくひっく、と小さく肩を震わせながら頷き続けていた。
大袈裟とも思える彼らの言動はそうと言い切れない。彼らが掴んだ未来への鍵に含まれた何かがそうさせたのだから。
膝が冷たいと思ったら、俺も泣いていた。
なんで泣いてんだろ、俺。てか、泣いたのいつ振りだろう?
「ゆたき、おいで」
さらら様に呼ばれ、その側に寝転がる。てんがさらら様を迂回してゆたきの上にのし掛かって来た。まひろもやって来た。
うん、潰れそう。
さりげなく、てんをどかす。
てんが乗って来る。
てんをどかす。
てんが乗って来る。
まひろがてんに乗る。
うん、潰れる。
「ゆたき、まひろ、あなた達はさららの子ぉだからね。てんと三人、大切な子ぉだから、困った時や迷った時はさららを頼るのなの。そうでない時も、さららを頼るのなの。なんてったって、あなた達はさららの子ぉなのだからなのな」
「潰れるワアアアアアッ!」
「あびゃーっ!」
「うびぃーっ!」
さらら様がなんか話してたけど如何せん重すぎた。全力でてんとまひろを隣にうまく転がす。
「あんらまぁなの」
「ゆたきがおこっておるー」
「ゆたきがおこたー」
「ゼェ、ハァ、お前ら、お……重いわ」
「にくか! てんのにくかが!」
あ、重いに反応したてんが肉に取り憑かれた。
「落ち着け。肉が有ろうが無かろうが人は重いんだよ!」
「にくが、てんのにくがあああっ!」
「だあーっ!」
「てんさまがごらんしんですぅー」
てんがタックルしてくるので、うまい具合に転がしていく。その内てんが楽しみ出したので、ちょっと遊び心を入れて転がすと喜んだ。
その間、ゆたきはさらら様がまひろと話しているのが聞こえていた。
「まひろ」
「はいですぅ」
「あのね、無理にとは言わないのだけれどね、てんのこと、様なんて付けなくて良いのよなのな。お父様もお母様も私もなのだけれど、誰のことも、様なんてなくても気にしていないのよ」
「はいですぅ。実はね、二人きりのときはてんってよんでるの」
「あら、そうなの?」
「うん。あのね、まひろはてんが尊いの。だからね、てんのこと、みんなの前ではてんさまと呼びたいの。みんなにも、てんのこと大事にしてもらいたいから。けど二人の時はまひろはてんを愛してる人って伝えたいから、てんと呼ぶんだよ」
「あんらまぁ、なんてかわいいのなの」
「うふふ。さらら様、まひろを想ってくれてありがとう」
「うふふ。まひろ、てんを想ってくれてありがとうなの」
「うふふ」
「うふふ」
あれはいい親子になるなぁ。あぁ、もう親子のようなものだよな。
「ゆたき」
「あん?」
タックルを止めたてんが抱き付いて来たので受け止める。
「ゆたき」
「あんだよ」
「ゆたきもてんと結婚したい?」
「いや全然」
秒で否定する。欠片もその気は無いのだから。
「まひろとは」
「全くもって」
もはや喰い気味だ。やはり欠片もその気は無いのだから。
「そかそか。よきよき」
「なんなんだ」
「いや、恋のとらいあんぐるになってはいかんかと」
「なんか読んだな?」
「『ときめき! 恋の三重奏!』を読んだのじゃ」
「そんなおもしろくない題のよく読んだな」
「てんも思った」
「思ったんかい」
「思ったけど、枕の下に隠してあったから」
「え?まさか、まひろが」
「いや、ゆたきの」
「おれ!?いや、お前いつおれの部屋に入ったよ?」
「ノックしたが勉強中でゆたきが気付かんかったから、布団にてんの匂い付けたろうと思うての」
「何をしてんだお前は。ドアの鍵掛けてなかったのか、おれ」
「いんや」
「は?いや?」
「掛けておったよ。当たり前じゃろう。ゆたきはそこらしっかりしておろうて」
「んじゃなんで」
「窓は換気に開けておろう?」
「窓! まさかの窓! 何をしてんだお前は!!」
「恋の逢瀬ごっこを」
「あほ! 窓なんか、一人で危ないだろ!」
「命綱はあったよ」
「え?誰が付けたんだよ」
「当主様が」
「当主様あー!!」
何やってんだ! あの人は!
「当主様がてんに恋のとらいあんぐる注意報を出したのかと思うての」
「出したかはしらんが、今後発展しないし元々出てないから安心しろ」
「そかそか」
「全く、当主様も当主様だが、お前もお前だぞ。んな危ないこともう止めろよ。一人で窓から来るなんて」
「一人じゃないよ。当主様も窓から入って布団に寝た」
「何やってんだあの人は! てかなんで気付かないんだおれは!」
「抜き足差し足忍び足じゃ」
「胸を張るな」
「ぬあはっぬあはっぬっあっはっはぬん」
「てんー、ゆたきー、さららおねむなのな。おやすみなさいなの」
「おやすみなさいですぅー」
「あ、すみません。おやすみなさい」
「おやすみー。おやすみー。おやすみー。おやすみー」
「一人分多いぞ」
「ありら?」
話が途中になった気がする。まぁ、てんの側に居る限りそんなものだな。
ゆたき、まひろ、てん、さららの順に並んで横になる。
この先何かが起こるとしても、願わくば、今日の日を羨むこと無く懐かしめますように。
因みに、足の裏がチクチクすると思ったら、スパンコールびっしりの枕がありました。
あれは枕の機能を果たすのか、まひろは俺があれを選ぶと何故思ったのか。答えは分かりませんが、置いたのは本と同じあの人だと思います。
おやすみなさい。よい夜を。




