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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
現在編その2
112/140

雨滴散布方々・八

 

「きさらぎさん、座る場所はこちらで宜しいですか?」


 ことこと兄弟を連れて来たきさらぎへ、だいちがにこにこと微笑みながら声を掛けてきた。頷きながら、その胆力に感心するやら呆れるやらできさらぎは溜め息を吐いた。

 襖を開く前から分かっていたが、何せ、大広間の半分に座る地区長らの一部から不機嫌な風が撒き散らされているのだから。ここは“力”溜まり、物理的にではないだけましである。


「きさらぎ殿、何故ここで会議をするのです?この前は各支部では内部に間者が居る為障りがあると納得しましたが、今回は違うではありませんか」


 だいちの声の残滓を掻き消すように不満を口にしたのは十四果の地区長・いぬきだ。随分渋い顔をしている。

 おや?そんなこと言うやつだったかねぇ?


「まだ他にも罪を隠し持っていそうな者へ我々が聞き出すのならば話は別ですが」


 鋭い目をだいちへと向けるいぬき。

 ははぁ、そういやぁ、いぬきはオン村東部にある森、「ハババの森」に住む狩人の集落の子だったな。十八土炉とハババの森の狩人は多少の因縁がある。まぁ、一方は罪悪感と言う名の因縁だがねぇ。

 それが子や孫の代には罪悪感が薄れて伝わっていることも知っている。その具現がいぬきなのであろう。狩人と交流のある十四果と、狩人とは一線引く十八土炉は隣同士の地区だが交流は少ない。箱入りうしお事件の時も間にらいあがさりげなく入ってくれた。もう少し気を配るべきだったか。


「それについてはオレから話す」


「あなたの説明は分かりにくいのでもう結構」


「うぐぉっ……泣きそう」


 らららを一刀両断するいぬきへ向けるだいちの目は「まあ、困った子ですねぇ」

 という微笑ましいものだったので安堵する。

 あたしはことこと兄弟をしゅゆの隣へ座らせると、自分はしゅゆとらいあの間に座った。


「だいちの罪は『書類詐称』これだけだよ」


 本当にこれだけである。なんなら、「書き間違えました」でも済ませられるものばかりである。五色の元地区長の有利になるようにしているように見せ掛けているだけの、巧妙な子供騙しのそれに気付いている数名の地区長達は平穏な目でだいちを見ている。この前はそうではななかったので、副地区長達が気付いて伝えたのだろうが。


「ですが、オン村地区保護機構と土地を共有するあの五色と莫逆の友宣言した者ですよ?」


 その理由はあたしもまだ聞いていない。どうせ聞くなら聞かせたい者が揃っている時に聞けば良いと思ったからだ。


「はぁ……だいち。あんた、五色の元地区長と莫逆の友宣言したろう?」


「はい」


「なんでしたんだい?というかいまでも友かい?」


「ふふ、勿論いまでも莫逆の友ですよ」


「なっ……! きさま! 十八土炉に住んでおきながら何を!」


 やはりいぬきの頭に血が上ったので、らららとおおねにちょいと合図を送るが。


「だって、あの人の首と胴体はまだつながっているでしょう?」


「「「「「「は?」」」」」」


 時が止まった。いや、だいちの時だけが止まらない。


「あの人、首落ちたんですか?落ちてないでしょう?あれだけの事を十八土炉にして、言っておきながら。それが答えです。紛れもなく私とあの人は莫逆の友ですよ?あの人に利用価値がある限りはね。莫逆の友になった理由?当然、利用価値があったからです。私は利用価値を問わない者へわざわざ、『あなたは私の友です』などと言いません。口にしなければ繋がらない仲など無いも同然。ですがその仲を不要とも言えない。今回のように、餌に使えますので。喰われたのならば処理の手間も省けます。それまでの事」


 ニッコリと笑むだいち。背筋が凍る思いだ。

 無表情のらいあの右手がゆっくりと動いた。スーッと流れるように首元へ行き――最上級の防御壁を掛けた。

 それを横目で見ていたあたしたちもそれに倣った。“力”が使えず倣えない者が涙目になったが、隣の者が首へ手を伸ばすと別の意味で涙を目に溜めた。


 いぬきの勢いはすっかり地に落ちた。恐らく埋まったと思う。おおねが静かにいぬきの上着の裾を引っ張った。いぬきはストン、と崩れ落ちた。

 直後、だいちが「腑抜けの狩人の口から五色との繋がりを批判する言葉を聞くことになるとは、私も衰えたものですね」と自嘲気味に呟いた。呟いたにも関わらず遠くまで聞こえる鮮明な声だった。

 聞こえたいぬきが「なにを!?」と再び高ぶりかけ、おおねがその腕を掴む。


 先程まで柔和に微笑んでいただいちが笑みを消し、目の光で痛いほど真っ直ぐいぬきを貫いた。らいあとあたしは同時ににいぬきへ防御壁を張った。一瞬で室内へ走る恐怖と震え。

 ああ、やはりこの者は先代の気に入りだとあたしは再認識した。

 優美な麗人から発された殺気。それは、叫びながら逃げ出したい衝動に駆られるという本能を蹴り砕くほど荒々しく、激しく、尚且つ闇夜に潜むように重たく冷たいものだった。

 カチカチカチカチ……。室内に広がった音は、誰かの歯の根が噛み合わなくなった証拠である。


「狩人の子よ。十八土炉の地への懸念も干渉も詮索も不要です。あなた方が起こした過ちへの反省も無しには」


「狩人が……起こした、過ち……?」


 顔を青白くして震えながらも問ういぬき。意外とある根性は他に使ってほしかった。


「……だいち、十四果と狩人の地へは私ときさらぎが赴き、正しい記憶への訂正と定着を促そう。いまは矛を収めてはくれんか」


 囁くようにらいあが低く早口に言う。そして、頭を少々下げた。

 再度室内に走った震えは衝撃故にであった。

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