雨滴散布方々・六
※注意※集合体が出てきます。苦手な方はご注意ください。
これから度々登場する予定です。その際は前書きにてお知らせします。
「おや、これは珍しい。おいで「待った待った! ……何が居るんだい?」
あたしは咄嗟にだいちの腕を引っ張って止めた。ごくりと息を呑んでから問うと。
「大丈夫。めめですよ。おいで、めめ」
軽やかにあたしの不安を一蹴すると、影に向かっておいでおいでと嬉しそうに手を差し出すだいち。微量だが“力”を指先から影へ送っているようだ。
「ほぉ……めめとはあの?」
「るん?」
「なんだろ?」
らいあ達も興味深そうに寄って来て影を覗く。
めめ?めめって、あの、人生一度でも会えたらめでたいと言われてるめめかい?会えればめでたいとしか聞いたことの無い生き物。姿形や成り立ち、意味は知らない。それがあたしの影に?
「敵意が全く無いからか、私には分からんな」
「めめの“力”は本当に微弱ですからね。きさらぎさんの“力”で隠れてしまっていますね。るるさんはよく見つけられましたね」
「るーんっ。けど悪い子かと思っちゃったるん。なんかどろどろしたもの持ってるん」
「ああ、それはきさらぎさんの中に溜まっていたものです。めめのものではありませんよ」
「あたしに何が溜まってたんだい?」
「生きていれば誰にでも溜まるものです」
「だから何が「おんやまぁ、珍かな。めめなのな」」
「ボリボリ。あんりまぁ、珍しきー。めめでござりますか。ボリボリ」
「めめめめめめっ!?」
「ちちちくばさんおお落ち着いててて」
「どちらも落ち着いてください」
「え?鬼じゃないんのん?」
気付けば屋敷内に居た全員があたしの影を覗いていた。いつの間に。
てんはことひらきに抱えられながら胡麻煎餅を食べており、さららは何故か土のついた根を垂らした雑草を手に持ち、ちくば、せい、たてこうはエプロン姿だ。
「だいちさん、影の中のめめは影に触れないと来れないよなの」
「おや、そうだったのですね。影内のめめに会うのは初めてで……。教えてくださりありがとうございます。では、失礼して」
だいちは片膝を立ててしゃがむとエイヤッとでも言わんばかりに手を影に突き刺した。手は地面には刺さらず、影にズブッと沈んだ。
あたしの影に……腕が刺さってる……。
「だいちさん、影に手を突っ込まなくても良いのなの」
「おや、驚かせてしまったでしょうか?」
うん、あたしをね。めめをじゃないよ?あたしを驚かせてんだよ、あんたさっきから。本当にあたしに遠慮ないよねぇ。
「ううん、めめが敏感なのは敵意だけなのな」
「それは良かった……来てくれますかね?」
「もう登って来てるなのな。袖を捲ってみてなの」
だいちは手をそっと影から引き抜くと袖の釦を外して捲った。
腕の表面には、大小入り交じった三十程の目が身を寄せ合うように平らにあった。目玉というより、目蓋も睫毛もあるので目そのものだった。どの目もパチリ、パチリと瞬きをするのだが、バラバラに瞬くので見ていて少々せわしい気持ちになる。
これがめめかい。めめ、目目ってことかい?分かりやすいけどね。
『のぉわあああああああっ!!!』
絶叫が辺り一面に響き渡った。誰かはすぐに分かった。うしおだ。食事を受け取りに来たのだろう。
幸いにもせいは一塊の目達に気を取られていて驚かなかった。なのでせいの安寧を第一とするしゅゆも気にせず、しゅゆが気にしないのでしゅゆ第一のたてこうも気にしない。たてこうが気にしないとたてこうに大人の落ち着きへの憧れを見出だし始めていることひらきも気にせず、ことひらきが気にしないとことひらきを地区の子以上にかわいがり始めただいちが気にせず、だいちが気にしないとだいちさん好きるんなるるが気にせず、るるが気にしないとるるが良ければすべて良しのらいあも気にしない。らいあが気にしないとらいあ命! のちくばも気にせず、そんな皆なので習っててんも気にしなかった為、我が子かわゆきなののさららも気にしない。という流れが各々の目線で分かったあたしは溜め息を堪えた。
仲が良いってことだよ、うん。そこへうしおも入れてやっとくれ。ついででいいからさ。
『何それ何それ!?!?目?目?ナニ!?なんなの!?』
いまだ騒ぐうしおに間延びした寝起きみたいな声が掛かった。
『なんとまぁ、君の声は大きいねぇ。んんー?これは珍しい。めめか』
「おじーちゃまー!」
てんがあぱぱはーと嬉しそうに笑い両手をパタパタ上下させる。
あの爺にこの孫だが、面立ちに共通点があるだけで内面には無いと全力で願いたい。
「こんにちは、めめ。来てくれて嬉しいです」
喜色ばんだ感情のこもった声をだいちが発する。
あたしにゃそっちのが珍しいよ。
「ほお、この子がめめ。ん?まだ影におるな。来てくれるだろうか?」
らいあはそう言うと両の膝を地面につけて影に手を入れた。
「るるも」
「ぼくも」
「ぼ、ぼくも」
「では、自分も」
「てんもてんもー」
「さららも久しぶりに」
とるる、しゅゆ、ちくば、たてこう、てん、さららの順に手が影に入る。
影に手を入れなくても良いんでなかったのかい?
「ほわぁ……」
とか、ふにゃあ……みたいな事を囁きながら、せいも恐る恐る手を入れる。
「鬼じゃなんいんなら……」
と、ことひらきも手を突っ込む。
これであたしとだいち以外の全員が影に手を入れている事になった。
……あたしはいつまでこの格好で居れば良いんだろうね?片一方の足をだいちの方へ踏みしめた格好なんだよ。一歩出している側の膝がぷるぷるしてきたよ。
『ど、どういう状況?』
『めめを知らないかい?めめに会えるのは珍しいから無理ないか。放たれている“力”が弱くて、滅多に気付けないからねぇ。めめは生き物の身体に潜み渡り生きるものなんだが、その時に身体の悪いもの全般を吸収してくれるんだよ。めめが身体に来てくれると体調が良くなったり、呪や毒が薄まったり消えたりするんだよ。昔、私も世話になった』
『へぇーすっげー。ねぇねぇ、めめって人の目なの?みんなの目がめめになっちゃうの?』
『ハハッ、まさか。人の目の集合体に見えるだけだよ。ちなみに、瞬きで意志疎通出来るよ』
『えっ、すごっ!』
『結構感情豊かだよ。それに好奇心旺盛。とてもかわいらしい生き物だ』
「おお、来た」
「るーんっ!」
「わぁ、粒々」
「こここんなに沢山」
「お初にお目にかかります。たてこうと申します」
「あっびゃぱらんぱーん! かわゆきー! てんー! てんだよー!」
「ななーん、ふふっ、ちょっとだけくすぐったいなのん」
「ここここここんにちは」
「おわぁ、人の目だぁ」
全員の腕で瞬く大量の目達。キョロキョロキョロキョロあっちこっちを見回して忙しい。
「愛らしい。おや、私の澱みも吸ってくれるのですか?有り難い」
だいちの唇は緩やかな弧を描いている。周囲ではパチパチと瞬く目をかわいがる声と気配で満ちている。
「ふふ、忙しくなりますね」
だいちがそっと呟いた。
それはこのめめ達の瞬きだけで充分だよ?
「何故だ?」
怪訝そうに聞くらいあ。だいちの唇がよりハッキリ弧を描く。
「これ程の数のめめの大移動は前兆ですから」
「なんのだい?」
見たことのない笑みに自分の声が強張っていると感じる。
「ある時は山崩れ、ある時は水草の異常繁殖や湖の水涸れ、又ある時は」
その笑みが深くなった。楽しいから笑っているのではない。そこに潜むのは。
「戦」
怒りだ。




