表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
現在編その2
109/140

雨滴散布方々・五

 

 しゅるるるっ。


 鞭でも振るうかのようにエプロンの紐をシュバシュバ外すしゅゆ。るるはそんなしゅゆのにおいを何度も嗅いでいる。

 ……食べ物のにおいがするんかね?あの子の食への執着は結局、毒と関係無かったようだねぇ。

 いまは完全に解毒されて抗体のみが残っているよ、予想よりも解毒が早くて良かった。しじょうはそう言っていた。解毒はらいあが手伝ったのだろう、と。

 らいあもまさも明言こそしないが、包子の里へまさとお腹の子を連れて行き置いていったのは、まさが毒の摂取を停止していたにも関わらずお腹の子が毒に侵されかけていたからではないかと、二人の言動の端々から推測は出来た。加えて、らいあ自身の体調の悪化への懸念があったはず。それでもるるが産まれるまで待ち尚且つ環境を整えてから地上へ降りただけ、その苦悩の深さが窺える。

 そうして、誰かも知らぬ者の筋書き通りに二人と一人は離ればなれとなった。


 そこへ至るまでをまさから聞いた話では、らいあとまさはるるを守るため実家へ協力を仰ぎに向かったのだと言う。

 だが、実家でも異変が起きていた。両親揃って原因不明の体調不良に悩まされていたのだ。更には二番目の兄の異変。

 まさの両親はらいあとまさの尽力で体調を改善したらしいが、今度はらいあがもともと崩していた体調をより崩した。風土が合わなかったようだ、とまさも言っていたが、あれは始まりは呪いに、包子の里では毒にやられた症状とも似ているとしじょうも思っている。


 そこへ触れるとらいあは隠すんだよねぇ。当たりと言っているとおんなじな気がするんだが、何故かは分からんが触れない方が良いんだろうねぇ。


 実は、あたしはこう思っている。

 うーん、あたしも毒って言ってるけどねぇ、包子の里で『秘匿』されているのは本当に毒なのかね?と。

 様々な地へ行商中に訪れた。中でも包子の里は、るるの里でも別の里でも「里の物を一切食べるな。水も含むな」との注意が必ずある珍しい地だった。

 理由まではやはり教えてもらえなかったがどうやら森に住む虫に毒があり、それを草とともに食べてしまう動物がいるらしかった。その動物の血には抗体が出来ており、それで包子は慣らされているから動物の肉や森の植物を食べれても、慣れていないものが食べるのは死を意味すると、十数年掛けて集めた漏れ聞こえる話の断片を繋ぎ合わせて分かった。


 なるほど、それで包子の里へは自分の食べ物は里の外から自分で持って来いと指示されてるんだねぇ。何故か洗濯はして良いと言われるんだよ。毒に冒された水なんじゃあないのかね?訳分からん。

 しっかしねぇ、それが毒だとしてよ?いくら包子が『秘匿』の一族とはいえ、まさの家族だけ見れば自分の子に毒を食わすなんぞする人達に見えないんだがねぇ。「毒を食わすくらいなら包子を止めてやる!」とでも言いそうなんだが?そこもまだ分からんところだ。


 さてはて、二番目の兄は大人しいだけで話の辻褄が合ったので、紛れもなく本人だから見守っておこうと結論付けたそうな。

 その結果がるるへの洗脳騒動であったが、洗脳が現れるきっかけが『らいあとまさが揃い、らいあが体調を崩した時』という狭量範囲に設定されていたと判明したので、そこへ皆で一気に対処出来た事が幸いした。るる自身の持ち直しの早さと“力”の抵抗力の高さもあり、あの一晩で洗脳は解かれた。


 ……いやあ、“力”での洗脳を見るのは久しぶりだったねぇ。

 まさの兄に扮していた者を学塔街当主は大陸楽子当主の手の者だと言ったが、あれは笑子で研究が行われているらしい“力”の使い方だ。

 笑子かぁ……やんなっちゃうねぇ。良い噂聞かないんだよ。当主が笑子と繋がりがあるなんて微塵も知らなそうな知り合いの大陸楽子は大丈夫だろうか?

 るるに使われた“力”を事前に誰も気付けなかったのは無理もない。使われた“力”自体は朧気になり消えていき、後には洗脳された意識のみが残るものだからだ。消える前の“力”の残滓自体、本人の“力”に紛れて見えない。

 るる自身の無意識の抵抗と、るるの“力”自体による抵抗とがその濃度を薄めてはいたが、本人を絶望させるには充分なものだったのはあの涙で分かった。

 るんるんご機嫌食べ物大好き! って子が泣いたときゃあ、どうしたもんかと思ったが、数分後には青筋立てて包子の里へ殴り込みに行こうとするるるの姿を見て、「あ、こりゃ大丈夫だわ」と大層安堵した。


 んだがねぇ、違うところが心配になったよ……意外と好戦的だったんだよぉ。箱入りうしお事件の時はあたしの目で見てないもんだから、あんまり気にしなかったんだ。

 その上、らいあとまさの戦闘力も受け継いでいたら?……だいちに「万が一喧嘩になっても喧嘩時は武力系の“力”は無しと定めておきなさい」と忠告しておくべきだろうか?

 あ、そうだよ! だいちだって地区長就任挨拶の時に、「地区長に推薦していただきましたが、私は“防御”しか使えなくて……」とか控え目に言っていたが、“防御”ってなんだった?と頭が混乱するくらい“防御”の域を越えた使い方をするやつだった。“防御”の括りいるんかい?って一回聞いてみたいもんだよ。そんなんだから、「これは武力ではありませんので」とか言って“力”を使う可能性は充分ある。

 いんやあ、待て待て、あたしとしたことが慌てておかしな事考えたよ。食べ物さえあればるんるんな子とあの理性の塊みたいなやつとが喧嘩していろいろぶっ壊すなんて、変な事考えちまっ「だいちさん、後でるるの戦闘訓練付き合ってくれるん?だいちさんの“力”借りたいるん」「微々な事しか出来ませんがそれで良ければ」「あっちでしようるん」……耳を疑ってる場合じゃないね?


 あたしは立ち上がるとるるを手招きした。るるはすぐにこちらへ来た。素直な子で良かった。


「待ちな、あんたたち。なんで戦闘訓練なんかするんだい?地区民を避難させないといけないじゃあないか」


「流石にそこまではしませんよ」


 出来ませんよって言わないところだけ素直だね、だいち。


「るん、大丈夫るん。ちょっと豆でばーんするだけるん」


「ちょっと豆でばーんがどんくらいのちょっとでどれだけの豆の量でどの規模のばーんなのか、あたしの想像を遥かに越えそうな気がしてならないんだよ。だから、なんでするだい?」


「ことひらきに安心して帰ってほしいるん。対鬼戦術を考えてくるん」


「鬼が何か分かってんのかい?」


「?きーちゃんのるん」


「あたし!?らいあ! あんた、あたしを殺す気かい」


「大丈夫だ、お前は死なん」


「んな訳ないだろうが」


 そんなキリリとした顔で言い切る阿呆が何処に居るんだい。ここに居たよ。


「大丈夫るん、きーちゃん」


「どこがだい」


「ことひらきはきーちゃんと鬼が別物って分かってるん。だから影に豆を投げたるん」


「ああ、そういうやそうか。んじゃなんだい?ことひらきはあたしの影に鬼が居ると思ったのかい?」


「そうるん。絵本と同じるん」


「「「絵本?」」」


 静観していたしゅゆとだいちと声が揃った。頷くらいあは知っているらしい。


「るるも持ってるん。正確に言うと、人の影に潜んでいたずらするあやかしが居て、一つ一つは小さないたずらでも積もれば大きくなってきて、ひどいあやかしに取り憑かれてるんじゃないかと気を病んだ人が病み過ぎて鬼になっちゃったっていう話なんだけど、それをことひらき、小さい頃おばあちゃんに読んでもらってて信じているらしいるん」


「それ子ども向け絵本なの?」


 しゅゆが引いている。あたしもそう思う。


「そうるんよ。前にことほぎが言ってたるん。『あいつあの絵本読んでから鬼苦手なんだよなー』って。るるも同じ絵本持ってるから、すぐに分かったるん」


「それなのにらいあはあたしを鬼って言ったのかい」


「私はいまのいままで知らんかった。いかんかったなぁ。まぁ、なんとかなりそうだがな」


「その楽観思考はどっから生まれて来るんだい。あたしにも分けな」


「けど、きーちゃんの影に何か居るのは本当るんから、討伐するのには丁度良い機会るんよ。ことひらきの目の前で倒せばより良いるん」


「「「「……ん?」」」」


 あたしたちは首を傾げた。

 あたしの影に何か居るのは本当?……討伐?


 影を見る。“見る”。何も無い。

 らいあを見る。横に振られる首。

 しゅゆを見る。同じく。

 だいちを見る。嬉しそうに笑っている。……笑っている?!あんたそんな血の通った笑い方出来るんだね。


「これは珍しい。おいで「待った待った!」


 良い笑顔でなんて事しようとしてんだい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ