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そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
過去編・しゅゆ
103/140

昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・後日談六

「昔、演劇してた?」


 きーさんと推考するおおね達をよそに、ぼくはいちめいに聞いた。


「?ああ、していたらしい」


「らしい?」


 いちめいは困ったように、悲し気に眉を潜めた。ぼくがどう思うのかを心配しているようだった。


「実は、私は五年程前以前の記憶がないんだ。演劇をしていたとは、ぎたいから聞いた。ぎたいは私の過去を少し知っているらしくて。突然どうした?」


 ぼくの視線はいちめいを通り越して六人を見ていた。明らかに顔が強張ったみかげとみどり。かげりとたいしょは目を鋭くして。ぎたいと得体の知れぬ笑みで。えきは何も感じ取れない顔で。

 そう、触れてはいけないんだね。


「……昨日のみんな、すごかったね。あんまりにもすごかったから、何かしてたのかなと思って。ぎたいのおかげって言ってたね」


 ぎたいの笑みが質を変え、明るくなった。


「ええええ、ワタクシの“移し”のおかげですとも。ワタクシが居る限りは悟らせませんよぉ」


「あんだけ遠慮無く燃やしゃあばれないわなぁ」


 たいしょは肩の力を抜き、えきはスッと両手の指を組み合わせた。攻撃の意思は無いと示したのだ。


「何故えきの事は責めないのですかぁ?あなたの肩抉ってますよ?」


「……信用度じゃないか?」


「ああっ! 感動ですぅ! そんなにワタクシを信じてくださっていたなんて」


「逆だわっ!」


「みかげもかげりも影から見ててハラハラしてたんだよ。みかげ達が居ないから、演技だってばれちゃわないかなって。ね」


「ね」


 双子はぼくをちらちら見ながら軽口を叩く。


「みどりは怖かったよ」


 みどりは再び食べ始める。

 彼らの合図には無駄がない。


 あの日ぼくが見た演劇には、実は、主役が二人居た。


「敵を騙すにはまず味方からと言いますからねぇ。ワタクシの“移し”を皆様が受け取ってくださって良かったですぅ」


 華やかに、派手な身振り手振りで周囲を翻弄していく商人と。


「みかげ達もよく察知し、たいしょから逃げて隠れてくれた。みどりも咄嗟に永久アトリエに二人を入れてくれて助かった。たいしょがみかげ達を自分で閉じ込めたように装ってくれてより真実味が増したな」


 素朴に、実直に、一つ一つ約束を守り為す羊飼いとが。


「「わーい、いちめいさんに褒められたー」」


 商人に安価な宝石を高く売られた世間知らずの子達。


「み、みどりはこれくらいしか出来ないから……えへへ」


 約束を果たしてくれた羊飼いが鏡を見たことが無くて自分の顔を知らないと聞き、似顔絵を描いた見習い絵師。


「これくらいだなんて。みどりさんはとても素晴らしい事をしてくださっていますよ。毎日、おいしいものを作ってくれているではありませんか」


 小道具を瞬時に入れ替えていく影に。


「ほんとだよ。みどりいなきゃ、オレずっと非常用栄養食だわ」


 移動させる度壊れていく大道具を直しながら動かす影。


「ぼく、旅の間ほとんどそれ食べてたよ。飽きるけど、栄養は良いんだよねぇ」


 ぼくも加わりたい。ぼくは何が出来るのだろう。もっと器用だったらなぁ。


「飽きるよなぁ。あれ、なんであの味の種類なんだろうな?万年変わらないもんなぁ」


「ほんとにね」


「旅してたの?なんか会った?熊とか」


 みどりはかわいくデザインされた小熊のポーチを見せた。かげりは小熊の木彫り根付けを出した。

 熊好きなの?食べた話しかないなぁ。


「会ったよ。熊は鍋になった後だった」


「「それ会ったって言わなくない?」」


 頬を膨らますみかげとかげりの目も笑い始めた。


「森ならみどり、うり坊見たい」


「うり坊は見たよ。三匹いて遊んでいてかわいかった。親はもう会いたくないくらい人相悪かった。いや、猪相か」


「どうやって遊んでたの?」


「鼻でお互いの脇腹つんつんしてた。そうだ、たてこうが写真撮ってたよ」


「みどり見たい!」


 身を乗り出すみどりは瞳を輝かせている。


「明後日持って来れるか聞いてみるよ」


「ありがとう!」


 なんであれ、この七人が何者かなんてどうでも良くて。


「しゅゆ、明日は気を付けろ。“力”溜まりについては君も学んでいるだろうが、あれは意思が在るものも有ると言われている。君を拒む素振りが僅かでもあったなら、即撤退しなさい」


 ただ、この温かい手とぼくを見る瞳だけが。


「分かった。ねぇ、いちめい」


「なんだ?」


 その声とにおいだけが。


「明後日、みんなの名前楽しみにしてるね」


「ん゛ん゛んぁあ。が、頑張る」


 それだけが、本物だから。








「駄目だ」


「なんでさ」


「なんでも駄目だ」


「なんでったら」


「駄目なものは駄目だ」


「おおねのバカ!」


 あれから無事養子になったぼくだけど、特にみんなとの仲が変わった訳ではない。

 ぼくは大家・せいの上に住み、その上にきーさんの弟子修行とオン村巡りとに忙しいたてこうが住んで。時折、らいあの家で働いたり、近所の配達屋の手伝いをしたりだ。


 そして、あの日の前日におおねと盛大に喧嘩をした。ぼくは、むしゃくしゃを紛らわすのに大量の黒糖まんじゅうを作ってるるに届けに行った。

 人の入ったシーツが有って、にりんの惣菜を持ったせいがやってきて(猫騒動を理由にしていたけど、にりんはぼくを心配していてせいに追ってと頼んだとせいから聞いた)、るるの母親と会えて。夢と現実が混ざって、ぼく達の生活に新しい光と影が差し込んだ。


「おおねは来なくていいよ。せいにはぼくが居るからね。そっちの人達とあっちに座ったら?」


 なんてかわいくない事を言っておおねを怒らせたが。


「いつまで帰って来ないつもりだ」


「……」


「にりんがお前の分まで飯を用意しているんだぞ」


「……」


「……私も悪かった。意地を張り過ぎたが許可は出さん」


「そこは出すって言ってよぼくもごめんなさい」


 勢いを借りて謝って、せいとたてこうと、その日はおおねとにりんの家に帰った。布団を敷いていた時、せいに聞かれたので。


「しゅゆ、おおねと何で喧嘩してたの?」


 あれ?言ってなかったっけ?と気付いて答えた。


「ん?いちめいと結婚したくてさ」


「え゛え゛えええっ!?」


「何事だ!?敵襲かっ!?」


 おおねが襖を蹴り飛ばして入って来た。飛んだ襖を自分で掴まえながら警戒している。


「えっ、その、えっと、しゅゆはたてこうとじゃ?」


 珍しくせいがおおねを無視した。ぼくもたてこうにおおねを任せておく。


「たてこうとは違うよぉ。ただの道連れ仲間。ねぇ?たてこう」


「そうだ」


 誤解されているぼく達だが、本当にそんな関係ではない。ぼく達はただ、同じ時期に死に場所を、死ぬ理由を探していただけなんだ。見付かるまで生きる理由をお互いにすることで理性を保っていただけなんだ。


「そ、そうだったんだ……。えっと、その、いちめいさん?と住むの?」


「ううん、いまはまだ、仕事の都合上離れて暮らす。変わらずいままで通りだよ」


「そっか。えっと、ご、ご結婚おめでとうございます」


「あ、ご丁寧にありがとうございます」


「待て。私はまだ許可を」


「もお、いい加減にしなさい。娘の恋路邪魔してばかりじゃあ、たてこうに指の骨折られるわよ」


 後からやってきたにりんに叱られて、おおねの眉間の皺が深まる。叱られたからではなく、昨年の『引き戸の取っ手血だらけ事件』を思い出したんだとぼくは思った。


「……現実的に起こりそうな問題だな。たてこう、お前は本当に良いのか?」


「はい。それに、自分は恋人が他地区に居ます」


 そういうこと。たてこうに紹介されたのはこの中ではぼくだけだから、せいとにりんは「あれら」「あらまー」と口元に手を当てて楽しそうに驚いていた。


「……何?誰だ?何処の」


「ホラホラ、もお、根掘り葉掘り聞いたら嫌われるわよ。何も無かった事だし、寝ましょ。おやすみ、あたしのかわいい子達」


「ま、待て、にりん。お前達っ! 付き合いは健全にしっ」


 スパンッ!


 たてこうにより直されていた襖が音を立てて閉まった。防音性能抜群な襖だと判明した。


「ぼく達も寝ようか」


「う、うん」


「おやすみー」


「おやすみなさい」


「お、おやすみなさい」


 さて、実はまだいちめいの同意を得ていないんだよねー。どうやっていちめいに結婚を申し込もうか。六人と考えてはいるんだけど、決めかねてるんだよなぁ。

 たてこうが消した灯りの残像を闇の中で遊ばせて、ぼくは、いちめいが驚いてから笑むといいなと思いながら瞼を閉じた。


 その日は、海の傍の古びた野外舞台で、壊れている道具や破れた衣装を軽やかに使い、広々と演じて笑う八人の夢を見た。

これにて、しゅゆの過去シリーズ『昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ』完結です。

お読みいただきありがとうございます。


オン村地区保護機構からの主要登場人物全員、登場直後に名前が変わるという……

書いた自分で「えっ!?名前変わるの?」と驚いた展開になりましたが、これから先、いちめいが全身全霊で編み出した名前で登場してくれるのが楽しみです。


次回は本編か過去シリーズか未定です。どちらも書き進めていますので、のんびり投稿していきます。

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