昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・後日談五
よっこらせっと。
ぼくはいちめいの隣に座った。荷物は机の上に置く。完全保冷保温鞄を買っておいて良かったよ。
きーさんが話した内容は何て事ない。元オン村地区保護機構の七人の死亡届を受理してから、オン村地区本部の七人として新たに戸籍を作ると言うことだった。
かなりの数の人が胸を撫で下ろしたようだけれど、きーさんもらいあのような人なのかな?
「ほれ、書類。キリが良いと思うんなら、名前変えたきゃ変えなぁ」
きーさんはお弟子さんに書類とガラスペンを配らせた。
綺麗なペン。ああいうの見ると、工房へ見学に行きたくなるのなんでだろうね。
「みかげ変えたい。あんな親からの名前捨てたいし、かわいいのが良い」
「かげりも。適当感嫌だ」
「ワタクシはこのままで。“力”との関係が良いので」
「自分も同じ理由で」
「オレは変えっかな。“力”との相性わりぃんだよ。いちめい、つけてくれないか?」
「「それ良いね! いちめいさんつけて!」」
「それは光栄だ。が、ぎたいから私はセンスがないと言われている」
「ええええ、いちめいは名付けのセンスありませんよぉ」
「良いぜ」
「それでも良いよ」
「良いよ」
「そ、そうか。では、えっと、うーん」
唸り続けるいちめいを待つ間、名前についての話で盛り上がる一同。
「ねぇ、皆の名前はなんでなの?えきってなんでえきなの?」
「自分はまもる気、衛気から取られています。衛気とは身体の表面部分を巡る気の事で、外敵――この場合、菌や花粉等から身体を守っていると言われるものです。自分の“力”は気を巡らすものですので、名と相性は良いです。あの人にしてはなかなかの贈り物をしてくれたと思っています」
「へぇー、そうなんだ。じゃあ、かげり達の名前も“力”と相性良いのかな?」
「そんな感じみかげしない」
「だよね」
「なら合ってないのでしょおねぇ。ワタクシは生まれつきの名が“力”とぜーんぜん合わなくてぇ。家を出た時に自分で変えました」
「そうなんだ。たいしょは?」
「オレはまんまだよ。暑い日に産まれたんだとよ。めんどーだったんだろ。だけど、オレの“力”は暑さとは無縁だしよ。名と“力”が繋がってる感じはないわな」
「ちょいとお待ち。あんたら“力”の事ばかり言うけれど、自分と合うかも考えなよぉ?」
いちめい達の会話にぼく達は偏りを感じていたので、きーさんの一言にうんうん頷いた。“力”“力”って、“力”の事ばっかりなのだ。
「自分?えっとー、みかげ、土地は分かるよ。水の無い地区では水の名にすることでしょ?」
「それは土地との繋がりの事だね。土地と関係のある名で土地の力をいただく事もあるんだよぉ」
「そうなの?知らなかった。じゃあ自分と合うって言うのは?」
「おやおや、るるといいあんたらといい、“力”の教育のズレを感じるねぇ。まあ、機構や子とは内容が違うのは当たり前だわな。あんたら誰も知らないのかい?」
「「知らないよね?」」
かげりとみどりはお互いの髪の毛を編み込んで遊んでいる。なんて言うか、独創的な髪型になりつつある。
「みどりも……知らないです」
みどりはぱくぱく食べながら。いちめい曰く、「この七人の中で一番食べる」そうだ。
年少組は首を横に振ったが、年長組が眉間に皺を寄せた。
「……確かに、おかしいですねぇ。ワタクシは機構地区での生まれ育ちですので、確かに“力”の話ばかり聞いてきました。け、ど、“力”を重んじる機構ならば名を“力”だけでなく他とも通じ合わせる事でより“力”が強化出来るならば嬉々として行うでしょうに。蔑ろにする点が違う気がしますねぇ。これはこれは、先程の風の子の話と似かよう点がありますなぁ」
ぎたいの笑みが薄ら寒い。
「自分も生まれも育ちも機構地区で違和感はありません。成る程、立場によって“力”の教育に差異が有る事は有り得ますね。自分の知識を改めて疑わねば」
えきは手のひらをグーパーしながら。筋の動きや“力”の流れを感じるのが好きらしいとは、いちめいより。
「オレも機構地区育ちだ。名前は“力”を支配する為のものじゃないのか?」
たいしょは背筋真っ直ぐきーさんを見て。
「私も“力”の為の名だと教えられた」
いちめいはぼくの口元をハンカチで拭いながら。
各々の性格が如実に分かる一面である。
「へぇ?なるほど……そんなら、あんたら全員名前変えた方が良いねぇ。機構にゃ、“力”と名が記録されてるだろうから」
「では、宜しくお願いしますぅ、いちめい」
「自分もお願い致します、いちめいさん」
「みどりもお願いします、いちめいさん」
「えっ!?いや、こ、光栄だが、ろ、六人分……」
絶句するいちめい。
「とりあえずあんたらの意思は確認したから、名付けは入院中で良いよぉ。しじょう、入院期間は?」
「あと二日かな」
「二日で六人分……」
頭を抱えるいちめい。そう言えば、そら何処行ったんだろ?頭にもおでこにも居ないや。
「習って決めるものではないが、先生の辞書でも貸そうかい?」
「要するに、“力”の事だけじゃあなくて、自分の質の事も入れなって事だよ。難しく考えんでええから、いざとなりゃ勘で行きなぁ」
「「いちめいさんがんばってー!!」」
「……」
「頑張れ。ぼくは明日面接行ってくるから、見舞いは明後日ね」
「面接?」
いちめいが顔を上げた。
「うん、らいあの家で買い出し係の仕事の面接」
「「「「「“力”溜まりで仕事!?!?」」」」」
長らく静かだったきーさん以外の人達が叫んだ。
きれいに揃ったね。どうしたのさ?
「しゅゆ、お前さんらいあの家で働くのかい?」
「家に入れたらね。たてこうも連れてくよ」
「そうかい……」
きーさんが真剣な顔で長考に入ってしまった。ぼく達は息を潜めてきーさんを待つ。
なんだろ?いけないのかな?ちょっと緊張して来た。……。
ぼくは左手を左に動かす。すぐにその手を大きく温かい手が包んだ。それだけで息が楽になった。
ようやく顔を上げたきーさんは、「しゅゆ」としゃがれた声でぼくを呼んだ。
「はい」
「せいと始まりの楽子を連れて行けるかい?あたしと何人かも行くからさぁ」
「せいとそら?」
ぼくはおおねといちめいを見る。おおねは眉間の皺を深め、いちめいは握る手の力を強めた。
「理由はいかに?」
おおねが問うと、きーさんは顎を撫でた。
「せいが『守って』と願った直後に、せいめいの木が応えたそうな?」
「ああ、せいめいの木から大量の花弁が放たれた。どのように何を守ったかは分からない。それが?」
「せいの“力”に変化が起きた可能性があるんだが、らいあは『その内来させよ』としか言わなくてねぇ」
「何を来させろと?」
「そりゃあ……って、分からんわなぁ。せいをらいあの家にだよぉ。なんでかって、そりゃあ、“力”溜まりの“力”にせいの“力”を逢わせる為さぁ。十年経ったからねぇ。それに、そろそろじゃあないか、そらに確かめられると良いと思ってねぇ」
「全くわからない」
「うん。だろうなぁ。あたしもハッキリ分からんのに、ハッキリ分かっとるらいあが放任主義だからねぇ。るるが居るから丁度良い、ぶっこんじまおうかと」
「ぶっこまれる側になってくれ」
「ふぇっふぇっふぇっ、確かにねぇ、ふぇっふぇっふぇっ」
ふぇっふぇっと笑い続けるきーさんに、おおねは大きな溜め息。一同は戸惑いを深め、ぼくといちめいはお互いの顔をじっと見詰め合っていた。




