表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そらのうた~ことばあそび編~   作者: はねいわ いみゆう
過去編・しゅゆ
102/140

昔あなたから貰った木苺。ぼくからもあなたへ・後日談五

 よっこらせっと。

 ぼくはいちめいの隣に座った。荷物は机の上に置く。完全保冷保温鞄を買っておいて良かったよ。

 きーさんが話した内容は何て事ない。元オン村地区保護機構の七人の死亡届を受理してから、オン村地区本部の七人として新たに戸籍を作ると言うことだった。

 かなりの数の人が胸を撫で下ろしたようだけれど、きーさんもらいあのような人なのかな?


「ほれ、書類。キリが良いと思うんなら、名前変えたきゃ変えなぁ」


 きーさんはお弟子さんに書類とガラスペンを配らせた。

 綺麗なペン。ああいうの見ると、工房へ見学に行きたくなるのなんでだろうね。


「みかげ変えたい。あんな親からの名前捨てたいし、かわいいのが良い」


「かげりも。適当感嫌だ」


「ワタクシはこのままで。“力”との関係が良いので」


「自分も同じ理由で」


「オレは変えっかな。“力”との相性わりぃんだよ。いちめい、つけてくれないか?」


「「それ良いね! いちめいさんつけて!」」


「それは光栄だ。が、ぎたいから私はセンスがないと言われている」


「ええええ、いちめいは名付けのセンスありませんよぉ」


「良いぜ」


「それでも良いよ」


「良いよ」


「そ、そうか。では、えっと、うーん」


 唸り続けるいちめいを待つ間、名前についての話で盛り上がる一同。


「ねぇ、皆の名前はなんでなの?えきってなんでえきなの?」


「自分はまもる気、衛気(えき)から取られています。衛気とは身体の表面部分を巡る気の事で、外敵――この場合、菌や花粉等から身体を守っていると言われるものです。自分の“力”は気を巡らすものですので、名と相性は良いです。あの人にしてはなかなかの贈り物をしてくれたと思っています」


「へぇー、そうなんだ。じゃあ、かげり達の名前も“力”と相性良いのかな?」


「そんな感じみかげしない」


「だよね」


「なら合ってないのでしょおねぇ。ワタクシは生まれつきの名が“力”とぜーんぜん合わなくてぇ。家を出た時に自分で変えました」


「そうなんだ。たいしょは?」


「オレはまんまだよ。暑い日に産まれたんだとよ。めんどーだったんだろ。だけど、オレの“力”は暑さとは無縁だしよ。名と“力”が繋がってる感じはないわな」


「ちょいとお待ち。あんたら“力”の事ばかり言うけれど、自分と合うかも考えなよぉ?」


 いちめい達の会話にぼく達は偏りを感じていたので、きーさんの一言にうんうん頷いた。“力”“力”って、“力”の事ばっかりなのだ。


「自分?えっとー、みかげ、土地は分かるよ。水の無い地区では水の名にすることでしょ?」


「それは土地との繋がりの事だね。土地と関係のある名で土地の力をいただく事もあるんだよぉ」


「そうなの?知らなかった。じゃあ自分と合うって言うのは?」


「おやおや、るるといいあんたらといい、“力”の教育のズレを感じるねぇ。まあ、機構や()とは内容が違うのは当たり前だわな。あんたら誰も知らないのかい?」


「「知らないよね?」」


 かげりとみどりはお互いの髪の毛を編み込んで遊んでいる。なんて言うか、独創的な髪型になりつつある。


「みどりも……知らないです」


 みどりはぱくぱく食べながら。いちめい曰く、「この七人の中で一番食べる」そうだ。


 年少組は首を横に振ったが、年長組が眉間に皺を寄せた。


「……確かに、おかしいですねぇ。ワタクシは機構地区での生まれ育ちですので、確かに“力”の話ばかり聞いてきました。け、ど、“力”を重んじる機構ならば名を“力”だけでなく他とも通じ合わせる事でより“力”が強化出来るならば嬉々として行うでしょうに。蔑ろにする点が違う気がしますねぇ。これはこれは、先程の風の子の話と似かよう点がありますなぁ」


 ぎたいの笑みが薄ら寒い。


「自分も生まれも育ちも機構地区で違和感はありません。成る程、立場によって“力”の教育に差異が有る事は有り得ますね。自分の知識を改めて疑わねば」


 えきは手のひらをグーパーしながら。筋の動きや“力”の流れを感じるのが好きらしいとは、いちめいより。


「オレも機構地区育ちだ。名前は“力”を支配する為のものじゃないのか?」


 たいしょは背筋真っ直ぐきーさんを見て。


「私も“力”の為の名だと教えられた」


 いちめいはぼくの口元をハンカチで拭いながら。


 各々の性格が如実に分かる一面である。


「へぇ?なるほど……そんなら、あんたら全員名前変えた方が良いねぇ。機構にゃ、“力”と名が記録されてるだろうから」


「では、宜しくお願いしますぅ、いちめい」


「自分もお願い致します、いちめいさん」


「みどりもお願いします、いちめいさん」


「えっ!?いや、こ、光栄だが、ろ、六人分……」


 絶句するいちめい。


「とりあえずあんたらの意思は確認したから、名付けは入院中で良いよぉ。しじょう、入院期間は?」


「あと二日かな」


「二日で六人分……」


 頭を抱えるいちめい。そう言えば、そら何処行ったんだろ?頭にもおでこにも居ないや。


「習って決めるものではないが、先生の辞書でも貸そうかい?」


「要するに、“力”の事だけじゃあなくて、自分の(たち)の事も入れなって事だよ。難しく考えんでええから、いざとなりゃ勘で行きなぁ」


「「いちめいさんがんばってー!!」」


「……」


「頑張れ。ぼくは明日面接行ってくるから、見舞いは明後日ね」


「面接?」


 いちめいが顔を上げた。


「うん、らいあの家で買い出し係の仕事の面接」


「「「「「“力”溜まりで仕事!?!?」」」」」


 長らく静かだったきーさん以外の人達が叫んだ。

 きれいに揃ったね。どうしたのさ?


「しゅゆ、お前さんらいあの家で働くのかい?」


「家に入れたらね。たてこうも連れてくよ」


「そうかい……」


 きーさんが真剣な顔で長考に入ってしまった。ぼく達は息を潜めてきーさんを待つ。

 なんだろ?いけないのかな?ちょっと緊張して来た。……。

 ぼくは左手を左に動かす。すぐにその手を大きく温かい手が包んだ。それだけで息が楽になった。


 ようやく顔を上げたきーさんは、「しゅゆ」としゃがれた声でぼくを呼んだ。


「はい」


「せいと始まりの楽子を連れて行けるかい?あたしと何人かも行くからさぁ」


「せいとそら?」


 ぼくはおおねといちめいを見る。おおねは眉間の皺を深め、いちめいは握る手の力を強めた。


「理由はいかに?」


 おおねが問うと、きーさんは顎を撫でた。


「せいが『守って』と願った直後に、せいめいの木が応えたそうな?」


「ああ、せいめいの木から大量の花弁が放たれた。どのように何を守ったかは分からない。それが?」


「せいの“力”に変化が起きた可能性があるんだが、らいあは『その内来させよ』としか言わなくてねぇ」


「何を来させろと?」


「そりゃあ……って、分からんわなぁ。せいをらいあの家にだよぉ。なんでかって、そりゃあ、“力”溜まりの“力”にせいの“力”を逢わせる為さぁ。十年経ったからねぇ。それに、そろそろじゃあないか、そらに確かめられると良いと思ってねぇ」


「全くわからない」


「うん。だろうなぁ。あたしもハッキリ分からんのに、ハッキリ分かっとるらいあが放任主義だからねぇ。るるが居るから丁度良い、ぶっこんじまおうかと」


「ぶっこまれる側になってくれ」


「ふぇっふぇっふぇっ、確かにねぇ、ふぇっふぇっふぇっ」


 ふぇっふぇっと笑い続けるきーさんに、おおねは大きな溜め息。一同は戸惑いを深め、ぼくといちめいはお互いの顔をじっと見詰め合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ