寒い
ヒナタが我が家にやって来てからというもの、思うように風呂やトイレを使えなくて何かと不便過ぎる。
まるで俺の方が遠慮してる感じだ。
風呂上がりに、ヒナタは俺のことたまに
パシリにする。
「シンジ!アイス食べたい。
悪いけど、コンビニ行ってきてよ?
ほら、お金あげる」
「はぁ?お前が行ってこいよ。
食べたいやつが行くべきだろ」
「湯冷めして風邪ひいたらどーするの?
シンジ、看病してくれんの?」
「は?誰がするかよ、お前の看病なんて。
俺、知ったこっちゃねぇし」
「優しくなーい!そんなんじゃ、
モテないぞ!!一生、童貞で終わるんじゃないのか!?」
「一生、童貞で終わるか...。
それはつまり、30歳過ぎたら勇者(魔法使い?)になれる系だよな...」
「フン。そうね。その性格と見た目じゃ、
多分、いいえ、ほぼ間違いなく未経験で終わるわね。結婚もできずに、生涯独身で
恐らくは孤独死ね...!」
「随分とまぁ、毒舌だな。オイ」
「本当のことを言ったまでよ。
大体ね、見た目には気を遣わずに髪の毛ボサボサ、服装だって秋葉原にいそうなアニメヲタクじゃないんだから、ちょっとはファッション雑誌買ってコーデを勉強するとかしたらどうかしら?もしあれだったら、私がレクチャーしてあげてもいいけど?
シンジに似合うコーデなら、一応?
私が?付き合い長いところで?
好みとかもそこそこ判るし?
ユニクロで洋服の似合わせしてあげてもイイけど?」
俺は暫くの間、黙っていた。
随分な言われ様。
少なからず頭にきていた。
「...断る」
「え...?」
「俺、多分だけど、童貞で終わらない」
「えっ!?」
「実はさ、お前には黙っていたんだけど、
俺、告白されたんだよね。昨日の放課後」
「ええっ!?」
「体育館裏に呼び出されてさ、
チョコ渡されたんだよね...」
「嘘!?」
「嘘じゃないよ。ガチでチョコあるもん。
待ってろ。今、部屋から持ってくるから...。
まだ手付かずなんだ。なんか、手作りだから食べるの勿体なくてさ...」
「え、明日がバレンタインな訳だから、
ふつー、明日渡すもんじゃん?
なんで、一昨日?」
「あ、なんか、14日の日は家の用事があるとかで学校サボるとか言ってたな。彼女」
「か、彼女!?」
「ちょっと待ってシンジ。
誰に告られたの!?そのチョコ、私も味見させてよ!」
「は?誰がお前にやるかよ。俺は一人で食べるの。ちょっと待ってろ。マジで持って来てやる。綺麗にラッピングしてあって、
ハート型のチョコなんだ」
「....な!?」
数分後。
俺は自分の部屋に行き、
一番うえの引き出しの中に入ってた
手作りチョコの包みを持って、ヒナタの部屋に戻った。「うわ...。間違いなくそれ、手作り感出てるわね...手作りみたいね...」
「なんかお前、かなり動揺してるな。
まぁ、うん。そんな手は込んでないと思うけど、まだ味見てないんだよね」
「マジで告白されたのね...」
「うんまぁ。告白されたよ」
「で、その誰に...誰に告白されたのかしら??」
「...別にお前には関係のないことだろ?」
「え、関係ありありよ?
うちら幼馴染じゃん?長い付き合いじゃん。
シンジが誰に告られたとか、気になるって
いうか...」
目は泳いでる。俺の顔を直視できてない。
頬は赤い。
困ったような顔してる。
「フン。なんか、あれだな。
もしかしてもしかすると俺に気があるとか!?」
ここで、
「気があるっ!」と言ってくれたら
少し可愛げがあると思うのだが、いかんせん、ヒナタは。
素っ気なく。
さっきまでの赤ら顔はどこへやら。
ツンとして。
「ないない!あんたに気なんかこれっぽっちもないからね!!」と言ってのけた。
「...あー。そうですか」
「じゃあ誰に告られたのか言わねぇよ。
さーてもう、俺は風呂入って寝るから。
もう眠いし。おやすみヒナタ」
「...っ!!」
これは世に言うプク顔と言うやつらしい。
目の前のヒナタは、ブサ可愛い顔をしてみせた。
「ブサ可愛...!」
俺が吹き出してははっと笑うと
ヒナタは。
「うるさいっ!シンジは部屋から出てけっ!」
と俺のこと部屋から追い出したのでした。
ほんっと、可愛くねぇし。
俺の部屋に異変が起きたのは深夜。
ま、もっと詳しく描くと
ヒナタに異変が起きたのは深夜12:00過ぎ。
外は落雷が轟き、窓を打ち付ける雨粒の音がやたらと煩くて、俺は目が覚めた。
疲れていたのに、流石にそれらの音は深い眠りに落ちてた俺の耳にはっきりと届いて起こされた。
「るせーなオイ...」
「まぁ、いいか、、トイレに行ってもいいな」
起き上がり、俺は異変に気づく。
「あれ...??」
俺の身体の上にかかっていた筈の布団がない。
ふと隣に視線を移すと、
人型の膨らみがある布団がすぐ横にあった。
誰かに取られたらしい、俺の掛け布団。
「...オイ」
そっと小さな声をかけるも、その人型の膨らみのある掛け布団は反応がなかった。
「まぁ、いいか。先にトイレに行ってこよう」
夏とはいえ。クーラー効かせてたから
パジャマだけで寝てたらちょっと寒い。
トイレから戻ると、その人型の膨らみは
少し形が変わっていた。
でも、相変わらず、誰が寝てるのかは
不明。
まぁ、起こさないでおいてやるか...。
俺は自分で言うのもなんだけど、
優しい男の方だと思うから、エアコンを消した。
部屋は大分、涼しくなっており、
寝苦しくはない。
ま、掛け布団なくてもいいか。
俺はそう考えて今一度寝ることにした。
しかしまぁ。
俺のすぐ左横に、得体の知れない
布団の膨らみがあるのは流石に気になって眠れないけど。
「寒い...」
俺としたことが。どうもクーラーを効かせ過ぎたらしかった。
寝ようと思っても、中々慣れたもんじゃない。
「寒いな...」
誰だかわかんないが、俺の掛け布団を取られたことが、どうもいけなかった。
またそう、呟き俺が目を瞑ったときだった。
更なる異変が起きた。
バサッ...!!
かなり乱暴に。
俺の顔に掛け布団が叩き付けられた。
「うぉ...!」
思わず漏れた悲鳴。
でも、口元は布団で覆われていたので、その
悲鳴は掻き消されたと言っても過言ではない。